↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その怪異、安心安全商事が解決します  作者: 伊東トーシロー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/13

1-5 会社概要

「まず、うちが何をしている会社なのか説明するね」


 美穂が椅子に座った。


「うちは日本全国のオカルトや摩訶不思議な現象を解決する専門商社!」


「商社……?」


「そう!」


「何を売っているんですか」


「何も売らない!」


「……」


「商社なのに?」


「商社なのに!」


 紘一が横から、静かに補足する。


「便宜上、商社と名乗っているだけなんですよ」


「便宜上?」


「税務上ですとか、業務内容の説明ですとか、いろいろ都合がいいものですから」


「あと、なんか響きがかっこいいから!」


「なるほど……」


 剣一は一応納得した。


「大きな意味では退魔業、ということになりますね」


 紘一が続ける。


「ただし、最初から排除するわけではありません」


「というと?」


「まず交渉するんです」


「交渉?」


「ええ」


 紘一は穏やかに説明した。


「主に妖なんですが、彼らにも彼らなりの事情があるものですから」


「はい」


「人間側が困っているからといって、即座に排除するのではなく、まず話を聞く」


 剣一は頷いた。


「そして双方が共存できる方法を探るんですよ」


「それが基本方針です」


 美穂が胸を張った。


「話して分かるなら、それが一番!」


「分からなかった場合は」


「なにかしらの方法で排除!」


「早いですね」


「だって話しても分からないんでしょ?」


「まあ……」


「じゃあ仕方ない!」


 美穂は豪快に笑った。


「それでも、なるべく話し合いで解決するようにはしていますよ」


 紘一が付け加える。


「それがうちの仕事!」


 剣一は少しだけ安心した。少なくとも、片っ端から妖を斬って回るような会社ではないらしい。


「まあ、話し合いだけでは、どうにもならない事もありますけどね」


 どうにもならない時はどうするんだろうとも思ったが、こんな会社を経営しているくらいだから何かしらの方法があるんだろう。

 剣一はそれ以上聞かなかった。まだ会社のことを詳しく知っているわけではない。なにより初対面だ。ここで働く人たちにも、自分の知らない事情や考えがあるのだろう。


「それで、剣一君」


 美穂が大きく手を叩いた。


「うちの仕事について、何か質問ある?」


「……」


 剣一は少し考えた。


「本当に妖とか、そういうものを相手にする会社なんですね」


「そう!」


「冗談じゃなく?」


「冗談で、こんな会社やってないわよ!」


「それもそうですね」


 剣一は頷いた。


 そこで、隣に座っていた紘一が口を開いた。


「ただ、剣一君のお父さんなら、この仕事のことはかなりご存じですよ」


「父が? かなり?」


「はい」


「なんでですか?」


 紘一が少し笑う。


「以前から、時々うちの仕事を手伝っていただいていますから」


「……え?」


 剣一は目を丸くした。


「父が妖や神様相手の仕事を?」


「はい」


 紘一が、また少し笑いながら言う。


「友和さん、こういうのあんまり自分から話す人じゃないでしょ」


「まぁ、たしかに……」


 剣一は眉を寄せた。


「何を手伝ってるんですか?」


「妖の確認とか、現場での護衛とか、あとは斬って退治とか」


「斬って?」


「危険な相手を追い払ってもらったこともあります」


 妖相手の仕事まで手伝っていたとは知らなかった。


「友和さんは『核』を視れますからね」


「そうですね……」


「それで……、剣一くんにも『核』は視えるんでしょう?」


「……視えます」


「剣一くんも『核』が視えるんですか?」


 美原が聞き返した。


「はい視えます」


 妖の核は、妖としての存在をこの世につなぎ止めている、妖力の中心とでも呼ぶものだ。身体の内側にあり、仲村家でも友和と剣一にしか視認できない。

 核を失うと、妖はその存在を維持できなくなり、粒子となって霧散して消滅する。剣一は、物心つくまえから、あたりまえのようにその核を視てきた。


「実際に、そう呼ばれてるのを知ったのは、父から聞いたからですけど」


 剣一は少し考えた。


「赤かったり、黒かったり、赤黒かったり、……だいたい丸に近い形をしていますね」


「それが核ですね」


 剣一は自分の手を見る。


「昔から視えてましたけど、以前は何なのかは分かっていませんでした」


 紘一は頷く。


「友和さんも見えていましたが、剣一君ほどではないと言っていましたよ。私たちも何度も助けてもらいましたし」


「じゃあ、『お世話になっている』って……」


「そういうことです。かなり昔からですよ」


 紘一が笑う。


 剣一はしばらく黙っていた。


「……帰ったら聞いてみます」


「たぶん、聞いても『昔からだ』で終わりね!」


 美穂が笑った。


「ちなみに、友和さんからは、剣一君のことも聞いています」


「俺の? 何て?」


 紘一が少し笑った。


「『あいつは俺より見える』らしいです」


「……」


「それと『見えるからといって、調子に乗らせるな』とも」


「……」


「そっちは、いかにも友和さんしいですね」


「本当に」


 剣一は少しだけ笑った。


「でっ!」


 美穂が手を叩いた。


「剣一君には、うちで働いてもらいたい!」


「……」


 やはり、その話だった。


「父から聞いていると思いますが、俺は剣術場の師範代です」


「知ってる! でも、もう師範代はクビでしょ!」


「まあ、そうなんですけど……」


「外の仕事はしたことがありません」


「問題ない!」


「人と話すのも、そんなに得意では……」


「問題ない!」


「俺、顔も怖いですし」


「それはむしろ問題ない!」


「……」


 美穂が満面の笑みを浮かべる。


「霊的存在だって、怖い顔のほうが話を聞いてくれることがあるの!」


「そういうものですか」


「なんとなくそんな気がする!」


 紘一が横から言った。


「社長。それは、何か根拠があるんですか」


「ない!」


「ないんですね」


「でも迫力はある!」


「それは、まあ、ありますね」


 紘一まで納得してしまった。


 剣一は、改めて周囲を見回した。派手な社長。常識人らしい専務。小柄な課長。巨大な係長。そして自分。どう考えても、一般的な就職先ではない。だが不思議と嫌な感じはしなかった。


「……分かりました」


 剣一は頭を下げた。


 自分がこれから何をすることになるのか、まだ分からない。

 ただ、少なくとも父親が以前から関わっていた会社なら、完全に知らない世界というわけでもないのかもしれなかった。


「一度、やってみます」


「よっしゃあ!」


 美穂が叫ぶとガッツポーズで立ち上がる。事務所の窓が震えた。


「今日から仲間ね!」


「よろしくお願いしますぅ! 剣一さん」


 愛田が大きな手を差し出してくる。剣一も握り返す。ものすごく大きな手だった。


「よろしくお願いします、剣一くん」


 美原も頭を下げる。


「お願いしますね、剣一くん」


 紘一が微笑んだ。


「困ったことがあれば、何でも言ってくださいね」


「はい」


 剣一はそこで初めて、この会社で働くことを少しだけ実感した。


「よし!」


 美穂が笑った。そして、


「今日は歓迎会だ! 焼肉行くよ!」


「いいですねぇ!」


 愛田は即座に反応した。


「今日は何時までですかぁ?」


「肉がなくなるまで!」


「最高ですねぇ!」


 美原が苦笑する。紘一は困ったように笑っている。


 剣一は、そんな四人を見た。

 会社選びというのは、もう少し慎重に考えるものだったのではないだろうか。とはいえ目の前にいる人たちは、少なくとも悪い人間ではなさそうだった。


 そして何より。人間ではないものと交渉し、人間と異形の間を取り持つという仕事には、剣一が今まで身につけてきたものを活かせる気がした。


 剣術場を離れることになった自分が、初めて見つけた、次の場所。

 それが、株式会社安心安全商事だった。


次は幕間のような話を入れる予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。