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恋する二人は許されない ~敵国王子と化物王女の現世青春~【毎日更新】  作者: 雪林りん
シーズン3 ~かつて化物と呼ばれた君へ~
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5章 化物の余生

 グラシディア・アルドフッド。

 かつてペスパス国を救った英雄、そして圧倒的な魔力を持っていたことで化物と呼ばれた男。

 隣国との戦争中に妻と娘、そして相棒を失い……最終的には国から迫害を受けて、指名手配犯にまで堕ちた。


 無論、彼が医療系魔法使いだという話は聞いたことが無い。それどころか、むしろ破壊の専門職だろう。治療を行う姿など想像できるわけもない。


「……」


 アルドフッドに車へと乗るよう指示された俺たちは、彼の運転で舗装されていない道を進んでいた。4人乗りの車にアルドフッドと俺たち4人が詰め込まれている状態だ、警察に見つかったら間違いなく違反切符を切られるだろう。


「お前らなぁ! 見ず知らずの他人を助けるとか、すげぇ良い奴だなぁ! いいことあるぞ、おう!」


 律儀にも再び礼を言われたが、彼の正体がアルドフッドであると分かった今、素直に礼を受け取れない。

 魔法界の中でも最強クラスと謳われたこの男に、あんなチンケな狙撃でダメージを通すことができるとは思えないからだ。仮に命中していたとしてもかすり傷を負うくらいだろう。


「ええ、あの、どういたしまして。……しかし、あの暴漢共をあのままにして良かったんですか。今ごろ拘束を解いて逃げてますよ」

「いいんだよ、なぁ! 片腕をヤったからな、もう纏わりつかないだろ! まぁ、別の刺客は来ると思うけどなぁ! 見分け方は杖だぞ杖、ゼロだかオーだかよく分からんマークがついてる奴らが敵だ! 分かりやすくて助かるな!」

「はは……」


 俺は自分の杖をふところの奥側に仕舞い込みながら、この上なく自然な愛想笑いを一発かました。

 俺たちの杖はデースマースの部下から奪い取った鹵獲品なので、アルドフッドの言うよく分からんマークが刻まれたものなのだ。もし見られたら敵だと勘違いされるかもしれない。


「あの者たちは何者なの? こんな真昼間から命を狙ってくるなんて正気じゃないわ」


 シートベルトを体に食い込ませながら身を乗り出し、ハルが後部座席から問いかける。


 あの時、アルドフッドを囲んで襲っていたのは5人。更に狙撃手が1人。明らかに格上を相手取るための人数だ。……尤も、それでも戦力不足だったようだが。

 誰でもいいから殺してやろうという通り魔的犯行ではない。少なくともローブを着た男たちは、彼の正体を理解した上で攻撃を仕掛けたのだ。


「よく分かんねぇなぁ! でも目的は多分、俺の知ってる禁術にあるようだな! おう!」


 アルドフッドは車のサイドウィンドウを空け、懐から葉巻を取り出して一吸いしてから答えた。デカい図体にデカい葉巻が妙に似合っていた。


「禁術? それは一体……」

「……そんなことより、なぁ! あれを見てみろ、なぁ!」


 あからさまに話を逸らされた感は否めないが、とりあえずアルドフッドが指さす方向に視線を向ける。


 窓の外には島特有の長閑な自然が広がり、草木の緑が柔らかい風によって嫋やかに揺れていた。

 そんな中に、これでもかと言うほど純白に染まった建造物が設営されている。見て呉れは小型の病院といったところか。クリニックや診療所と表現する方が適切かもしれない。


「神成島私営診療所、俺のヤサだ! ……本来は島民以外は予約必須なんだが、ダウナ・ローティエンションからお願いされちまってるからなぁ! 特別に診てやるからな!」

「ダウナさんとはどういうご関係で?」

「古い知人だな! 昔、魔法界からの亡命を手引きしてもらったことがあってなぁ! いーい肝ッタマの女だぞ! どうだ兄ちゃん、嫁に貰ってやってくれねぇか! なぁ!」

「年上はタイプじゃないんですよねぇ」


 タイプなんてよぉ、抱けばどうとでも変化するからよぉ!などと言いながらアルドフッドはカーラジオを弄り、大音量でゴキゲンな洋楽を流し始める。

 呑気な島には不釣り合いなデスメタルが車内を満たし、マフラーが故障しているのか爆裂的な排気音がそこに混じり込んだ。

 診療所までは、もうすぐだった。





 神成島私営診療所の診察室は、私営ということもあってか、診療所と呼ぶにはいささか風変わりな内装だった。

 雰囲気としてはヴィンテージカフェに近いだろう。茶色を基調としたシックなインテリアに包まれたこの空間は、医療品というよりは嗜好品の葉っぱなんかを売ってきそうな感じだ。しかしよく目を凝らしてみると、北欧ヴィンテージ風キャビネットの中には医学書やら聴診器やら、茶色い小ピンに入った薬品やらが並べられている。

 壁には今やもう珍しい振り子時計が置かれ、その脇に設置された棚にはオールドスタイルな木彫りの熊と将棋の王将のオブジェが面並ぶ。なんだか文献でしか見たことのない昭和ワールドに飛び込んだかのようだ。


「この診療所の周囲にはなぁ、侵入者を拒む障壁が張られているからな! 誰かに会話を盗聴されることも無いからな! それを伝えた上で聞きたいんだけど、なぁ!」


 腰痛持ちに優しそうな椅子に腰かけながら、アルドフッドがそう言い、笑顔を浮かべつつもどこか圧を感じるような視線を向けてくる。


「お前ら何者だ? ダウナの知り合いってんならタダ者じゃないんだろ?」

「……」


 逡巡と共に、ハルと視線を通わせる。背後に立っているナイリンの表情は分からないが、俺たちと同じくどう答えるべきか迷っているはずだ。


 アルドフッドの善悪が分からない現状、シロガラ国とメース国の王子王女だと正直に告白するのはリスクが高すぎる。

 戦争を忌避して亡命を試みた集団であると説明すれば通るかもしれないが、亡命の手段を問われると説明が面倒になるだろう。次元移動なんて、王族関係者でもなければよっぽどの犯罪的行為に手を染めない限りは不可能なのだから。

 最終手段として、ハルのパッションでなんとか誤魔化す方法があるが――。


「適当なこと言って乗り切ろうとするなよ、おう! 後ろの姉ちゃんの杖を見りゃ分かると思うが、お前たちは恩人とはいえ疑いがかかってるんだからな、なぁ!」

「え?」


 指摘されてハルのほうを見てみると、ものすごく平然と己の杖を手に持っていた。その杖には当然、先ほどアルドフッドに急襲した奴らと同じく0だかOだかよく分からない紋章が刻まれている。

 つまり……パッと見、俺たちは先ほどアルドフッドを強襲した敵と同じ装備を所持している不審な軍団ということになる。これは激しく怪しい。


 腕組みをしながら天井を仰ぎ、俺の屁理屈で誤魔化せるかを検討してみるが不可能としか思えなかった。どう取り繕っても嘘臭さが滲み出てしまう。

 敵ではないと伝えるためには、本当の身分を明らかにするしかないだろう。嘘で塗り固めても、結局いつかボロが出て疑わしさが増すばかりだ。


「えーと……実は俺たち、魔法界から来た者たちで……シロガラ国王子のクロスエッジと、メース国王女のハルモニアなんです。後ろにいるのは俺たちの護衛と友達で……杖は敵から奪い取ったもので……」

「クロスエッジ、ハルモニア……」


 何かを思い出そうと、アルドフッドはワイルドながらも整えられたアゴ髭を擦りながら記憶を辿る。あまり愉快そうには見えない表情だ、機嫌が悪い時の父親を彷彿とさせる。

 やがて目当ての記憶を手繰り寄せ、目を見開いて俺たちを見据えた。


「……お前ら、なぁ! いわゆるアレだろ、化物だろ! なぁ! 聞き覚えあるぞ、シロガラ国とメース国の化物! 悪名高いヤツらだ! 戦場で大暴れしてたんだってな、えぇ!?」

「悪名……」


 俺たちが他所の国からどう思われているかを確認したことは無かったが、どうやら評判は宜しくないようだ。そりゃ理不尽かつ非人道的な殺戮兵器なのだから、好意的に受け入れられるわけもないだろうが。

 一度言葉を切り、アルドフッドは深いため息を吐く。突如降って湧いて出た厄介事に、どう対処しようかを思案しているような感じだ。


「そういうことなら、なぁ! 治療とかできねぇよな! えぇ!? シロガラ国とメース国はでぇっ嫌いなんだよ! おう! 出てけ出てけ!」

「えっ、いや、うわっ」


 俺とハルは首根っこを引っ掴まれ、窓の外に捨てられる。外に芝生が群生していて痛みは無かったが、人に投げられるという経験はよく分からない感情にさせてくれる。


「……人の依頼主に対する狼藉、護衛として看過しかねる。宣戦布告と受け取って宜しいか?」


 俺たちがリアクションを返す前に、生真面目なナイリンが杖を向けていた。しかし当然ながらアルドフッドには無意味で、そんなもの羽虫に敵意を向けられた程度の事象でしかない。

 むしろ、敵意を露わにしたアルドフッドのほうがよっぽど恐ろしかった。髪の毛が静電気を纏ったかのように天へと逆立ち、その口からはドス黒い煙が立ち昇っている。


「いつまでも戦争ごっこ続けてるバカ共がよぉ! えぇ!? 俺ぁもう人死には御免なんだよ、あぁ!? 俺のところを訪ねてくるなら戦争止めてからにしな! なぁ! んで怪我人はどいつだ、えぇ!?」

「はい! これ!」


 芝生の上で膝立ちになっているハルが服を捲り上げ、今も痛々しい傷跡が残る腹を見せびらかした。もう少しで下着が見えそうなくらいたくし上げていたので、おやめなさいとその手を叩く。


「あぁ!? 深い傷跡じゃねぇか! おめぇなぁ! いてぇよなぁ! おめぇよぉバカ野郎なぁアホたれが! おらっ、軟膏だ! くらえ!」

「うわわわ」


 ぽいぽいと軟膏を投げつけられ、ハルと一緒に慌ててキャッチする。あとついでに木ベラと何らかの錠剤も飛んできていた。


「それを塗って錠剤飲めば雨の日に疼いたりしねぇからなぁ! 戦争国のヤツらだから傷跡は消せねぇけどよぉ、ごめんなぁ! おらっ、失せろ失せろ!」

「どういう情緒だよ……」


 絶賛戦争中の国は大っ嫌いだが、患者を無碍にすることもできないのだろう。中々不器用な男だ。

 恐らく戦争という行い自体が嫌いなのだろうから、そこさえなんとかなれば受け入れてくれるかもしれない。俺はハルと顔を見合わせ、お互いに意図を察知して頷いた。


「あの! ちょっと話を聞いてくれませんか!」

「あぁ!? いいよ!」

「俺たちは別に戦争がしたいわけじゃないんです! むしろ戦争を止めたい立場! 生まれてから化物としてコキ使われてましたけど! シロガラ国とメース国の戦争にはうんざりなので、もう戦場で戦う気なんて全くないんですよ!」


 あのダンスパーティーの時に誓い合った偽らざる感情だ。もう二度と戦争なんてしたくないし、ハルとの殺し合いなんて想像したくもない。

 俺たちは手を取り合って生きていきたいんだ。


 ……この気持ちがアルドフッドに伝わるかは賭けだ。彼は俺たちの瞳を見据え、言葉の奥底に存在する真意を汲み取ろうとして……。


「あぁ!? なんだそうなのか、ごめんなぁ! おらおら上がれ上がれ、茶ぁ飲むか!?」


 信用に足ると思ったのだろう。アルドフッドの両手が窓から伸びてきて、俺たちを掴んで再び部屋の中へと引き戻した。どんなパワーだよ。


「なんだおめぇらぁ、化物じゃねぇのか!? えぇ!? シロガラとメースの化物は戦争が大好きって聞きかじったんだがなぁ! おう!」

「別に……戦争なんて、昔から好きじゃないですよ」


 生まれた時から戦争をするように育てられていただけで、別に好き好んで戦場に赴いていたわけじゃない。子供が幼稚園や小学校に通うのと同じように、それが当たり前なのだと教育されていただけだ。

 もしも願いが叶うのならば、普通に生まれて普通に育って、普通に恋がしたかった。

 きっとウチの親父やシロガラ国軍の上官は怒るだろうが、それが俺の本心だ。きっとハルだって同じだろう。


「そうだな! 戦争はよくないからな! そういうことなら治療してやってもいいぞ! おう! でももし嘘だったらものすごく怒るからなぁ! さっきは叱る程度だったけどちゃんと怒るからな! 覚悟しておけよな! なぁ!」


 さっきの怒気でも叱る程度なのか、と思わずたまげてしまう。戦場で向けられたら死を覚悟するレベルの迫力だったのだが。こちらの世界で言うならヒグマが唸りながらにじり寄ってくるくらいの威圧感だ。

 すっかり機嫌を直したアルドフッドが後頭部を掻き、すまなそうに手を合わせる。


「でもなぁ、すぐには治療できねぇんだな! ガキ共の面倒見なきゃならねぇからよ! そろそろお昼時だしな! たらふく腹ごしらえしてからでいいよなぁ! おう!」


 船内でお菓子を食べていたので腹時計的には14時くらいなのだが、壁際の高級そうな振り子時計は12時頃を示していた。一般的な家庭ではちょうどお昼ご飯を食べる頃だろう。


 ……しかし、ガキ共……か。

 確かアルドフッドは妻と子供を凄惨な事件で失ったんじゃなかったか? こちらの世界で再婚した可能性はあるけれども、それだと再婚までのスピードが早すぎてなんだか不自然だ。


 というか彼もまた、戦争で殺人を行ってきた化物のはず。何故そんな男が安穏とした暮らしをし、医療系魔法使いなんかを名乗っているのだろう。

 不自然にも医療系魔法使いとなった化物。先ほどの話によれば、彼の亡命を手引きしたのはダウナ。そして、俺たちを彼と引き合わせたのもダウナだ。

 なんだかまたキナ臭くなってきた。別に何らかの計画に巻き込まれるくらいならいいのだが、こうもあからさま過ぎると不愉快にもなる。お前たちは掌の上で踊っているだけなんだぞと、思い知らせるための行動にすら思えてしまう……。


「じゃあ俺はよぉ、メシ作ってくっからな! お前らも食うよな! そうだよな! なぁ! アレルギーで食えないモンとかあるか!? 俺はブタクサがアレルギーだ! そんじゃ十数分くらい待っててくれや! あんまり美味しくはないが量だけは凄まじいメシ作るからよ! 胃袋洗って待ってろ!」

「あっ、手伝います……!」


 何もせずに待っているのが申し訳ないと思ったのか、アイが立ち上がって補助を申し出る。それを見たハルが同じく立候補しようと立ち上がったが、誰がどう考えたって足手まといになるので座らせた。


「あぁ!? 手伝ってくれるのか!? おめぇ良い奴だなぁ! おう! 名前はなんて言うんだ!? すげぇ小さいからもう小さいのでいいよな!? よろしくな小さいの!」

「アイです!」


 アルドフッドから予備のエプロンを渡されてさっそく羽織ったアイだが、サイズがあまりにも違い過ぎて腰から下しか対汚濁性能を発揮できていない。しかも足元の丈があまりにも余りまくり、親のズボンを履いた幼児みたいな見た目になっている。

 しかし常人サイズのエプロンは無いようで、アイは何の意味もないエプロンを着ながらアルドフットと共にキッチンへ向かって部屋を出ていく。


 足音が徐々に遠ざかっていき、診察室の中に久しぶりの静寂が戻ってくる。アルドフッドの声量が電車の行き交う高架下くらいバカデカだったので、なんだか麗らかな静けさが耳に痛く感じた。


「……王子」


 ナイリンが俺の両肩をがっしりと掴み、耳元で恨めしそうな声を発する。元々低音気味の声が更に低く、不機嫌をたっぷりとブレンドしたバスボイスになっていた。


「先ほどの発言は真意なのですか?」

「……」


 戦争なんてしたくない、戦争を止めたい立場。……彼女が確かめたいのは、化物にあるまじきその言葉なのだろう。


 当然、俺とハルにとっては本音以外の何物でもない。しかし戦争中の魔法界を生きる者にとっては、到底聞き捨てならない発言だろう。

 何故なら俺たちは人間ではなく、軍保有の兵器と考えられているからだ。戦争なんてしたくないと喚く兵器などあるはずがない。兵器の仕事はただ粛々と敵兵の声明を脅かすことだけ。


 それでも俺たちは、自分たちが兵器ではなく人間であると信じている。

 自覚し、自負し、それに依って日々を生きているのだ。


「……ああ、確かに俺たちの本心だよ。戦争なんてくだらないもの、続ける意味なんてない。……もう俺たちは、誰も殺したくないんだ」

「ふざけるなよ」


 敬語すら失うほど爆ぜた激情は、声色と共に手のひらへと現れた。俺の肩を掴む彼女の手が、握り潰そうと目論むような握力を帯びる。

 怒りに触発され、その手は震えていた。声も、見ることは叶わないがきっと眼も、抑えきれない感情に支配されて不安定に揺蕩っていく。


「……軍人が戦争を放棄しては、今まで犠牲となってきた者たちに示しがつきません。戦没者の無念、悔恨、執念に報いるため、敵国と交戦することが軍人の宿命でありましょう。あのようなたわ言、国王に伝われば反国家的思想として教育的処分が下されますよ……?」

「元々、俺たちの一騎打ちで手打ちにしようとしていた戦争だ。示しも何もないだろ」

「一騎打ちで全てが終わると、本気でお思いなのですか?」

「…………」


 もちろん、そんなことは在り得ない。

 一騎打ちに勝利した国は戦勝国の権利を主張するだろうが、敗北した国は頑として認めないだろう。彼我戦力差を理解している軍事関係者なら全面降伏すべきだと理解できても、感情に支配された役人や兵士、国民は終戦を認めず、戦争の継続を煽動するはず。ありとあらゆる難癖をつけて、あの一騎打ちは不当だったと主張し、再び戦火を巻き起こすはずだ。

 しかし化物という強力な兵器を失った時点で、パワーバランスは崩壊しているのだ。一騎打ちの結果を反故にしたって、迎える末路は変わらない。むしろ認めずに戦闘を長引かせた分だけ、被害が拡大する一方だろう。

 そう、一騎打ちは戦争を終わらせる。その代わりに殲滅戦、もしくは粛清戦が始まるだけだ。


「……ナイリン、先ほどの発言に偽りはない。俺は戦争を止める。……敵国の王女と手を組んでな」

「そんな偽善が許されるとでも?」


 背後から漂うナイリンの息は熱を帯びていた。


「今まで、貴方たち化物によって数多の人間が殺されてきました。そんな彼らを弔うには、そんな彼らに報いるには、彼らと同じように戦争のさなかでゴミのように散り果てるしかないでしょう」

「…………」

「戦争の為に産みだされた忌み子なのだから、戦争で死ね。……逃げることなんて許さない」


 その怨嗟が何に起因しているのか、俺には分からない。

 だから、反論することさえできずに彼女の言葉を受け止める他なかった。


「……過去に色々あったみたいだけれども……」


 しかし従順に受け止めないのがハルだ。ナイリンの顔を覗き込み、その瞳を見据えながら言う。


「怨嗟の根幹を語らずに責め立てるのは不公平だと思うわ。悔いることも反論することも、こっちには何一つできないじゃないの」

「……」


 過去を語れと促されるもナイリンは黙していた。語れと言われて容易に語れるほど、彼女にとっては軽い出来事ではないのかもしれない。


「…………語れと欲するのが、一番の罪だと思いもしないのか…………」


 そんな声が聞こえた気がした。けれどもあまりにもか細くて、それがナイリンの発した声だと断定することができない。


「…………………………此度の遠征が終了次第……先ほどの発言を、貴方達の祖国に報告します。処分は追って下されるでしょう」


 あまりにも覇気がない口調でナイリンが呟く。

 それは、監視役として当然の判断だった。

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