16章 白い世界に花が咲く
僅かに開いた窓から、仄かな風が差し込んでいた。カーテンが嫋やかに揺れ、たなびき、時が流転したかのように再び元の位置に戻っていく。
白を基調としたこの部屋は、ただそこにいるだけで罪悪感を受けるほどに清潔感を保っている。
備え付けられた花瓶も白、天井も白、シーツも白。
……入院患者用のベッドも白、点滴のチューブも白。そして、そこに横たわるハルの顔色も、生者とは思えないほど白ずんでいた……。
ダウナによって拵えられた病室はハルだけの個室だった。だから彼女が意識を取り戻さない限り、気が狂いそうになるほどの静寂が続いている。
昨日も、今日も、この部屋は時を失ったかのように清閑を続けていた……。
「……ハルちゃんは、まだ意識を取り戻さないのか」
花を持って見舞いに来た鳳輔が、未だ眠り続けるハルの様子を見て呟く。俺は黙って首を縦に振り、彼の持つ花を受け取って花瓶に刺した。
「こいつ、寝坊助だからな。……いつもならご飯の匂いを嗅ぎ付けて起きてくるってのに、どんだけ深く眠ってるんだか」
虚勢の混じった軽口を零してみたのだが、自分でも驚くほどに感情の籠っていない声色になってしまった。
端に寄せてあった椅子を手渡すと、鳳輔はそこに尻を落とし、眠れる病院の美女を眺める。
「容体はどうだ?」
「手術は成功して命に別状はないみたいだ。でもいつ意識が戻るのか分からないらしい」
「……そうか」
俺たちの間に気まずい静寂が流れる。
花瓶に刺さったアルストロメリアが風を受けて首を擡げていた。さっさと花瓶に水を入れろと抗議しているのかもしれないが、今はどうにもそんな気分にはなれない。
あの時――ハルが裂傷を負った後、対話の余地が無くなったと判断したデースマースは一時退却した。どうやら「また落ち着いた頃に来るであるからな!」という捨て台詞を残していたようだが、俺の耳には届いていなかった。
俺は絶望してハルの手を握ることしかできなくて、鳳輔も焦ることしかできなくて。
立ち尽くすアイは……あの時、どんな顔をしていたのだろう……。
そして右往左往するガキ共を尻目に、諜報員が手早く治癒魔法を使って傷口を塞ぎ、その間にダウナが救急車を呼んでいた。
どうやらダウナには変なコネがあるようで、魔法界の中でも群を抜くクラスの医師団を呼び寄せたらしく、ハルは後遺症の欠片すら起こらないほどの完璧な処置を施されたらしい。しかも入院するにあたって事情も聞かれずお代も取られず、至れり尽くせりの個室を用意してもらったのだ。
そして、それから3日が過ぎた。……まだ、ハルは目覚めない。
「……アイは、どうしているんだ?」
窓の外から聞こえてくる子供のはしゃぎ声を聞きながら、俺は平静を努めて訪ねる。
そして10秒もの沈黙を重ね、鳳輔がハルから窓の外へと視線を移した。まるで意図して己の気持ちを押さえつけているかのように、その表情からは感情を読み取ることができない。
「自室に籠っているみたいだ。……見舞いにも誘ったんだが、外に出るのは難しいようだな」
「……そうか」
「友達に怪我を負わせちまったんだ、メンタルが滅茶苦茶になって体調を崩しまくってるみたいだな。メシもロクに食えてねえようだし」
想像に難くない状態だ。
物心つく前から暴力行為どころか殺人まで済ませていた俺であっても、アイや鳳輔に傷を負わせてしまったなら相当寝込むだろう。意図せず友人を傷つけた時の心理的ダメージは、化物と呼ばれた男であっても詳らかに想像できる。
目の前にいるハルのほうが重病なはずなのに、なんだかアイのほうが心配になってきた。
「……昔、俺が暴力事件を起こしたって話は憶えてるよな?」
「ああ、学園祭の買い出しの時に話してたな」
「あの時にブン殴ったのはアイを虐めてたクソッタレだったんだけど……それでも殴った時にすげえ嫌な気持ちになったんだ。でもアイは大事な友達に、殴るどころじゃ済まない傷を負わせた。……アイツはどれだけ心が潰れそうになっているんだろうな。まあ、ハルちゃんに比べたら軽いダメージではあると思うけど」
……いや、ハルは命の危機もなく、あとは意識を取り戻すだけだ。しかしアイは未だに深刻な状態から抜け出せないまま、むしろ今一番危ないと言っても過言ではないだろう。
友達を傷つけただけではなく、兄の死から家族の不和までの全てがデースマースに起因していると知り――その上、家族丸ごと侮蔑されたのだ。極限まで精神が追い込まれていても不思議ではない。
「……」
そうだ、兄の死だ。アイが激高したのも、委員長から来たメールも、全てがそこに繋がっている。
俺は彼女の兄貴について何も知らない。全ての始まりがその人物によるものだとは分かっているが、全く知るすべが無いのだ。
であれば、それを知る人物に聞くしかない。
「……なあ鳳輔、アイの兄貴について聞かせてくれないか。お前が知っている範囲を全て、余すところなく教えてほしい」
「あー……そうだよな、あそこまでデースマースにバラされちゃあ、言わなくちゃならないよな」
どこか気まずそうに視線を逸らし、低く唸りながら鳳輔が腕を組む。ずっと誰にも秘密にしてきた秘密を、とうとう暴露しなければならない時が来たと悟ったようだ。
「でもな、確信を持って言える事実は僅かだ。俺の知る事実と、アイの兄について詳しく調べた委員長の証言と、この前デースマースが語っていたことを混ぜて、不足した部分を想像で補った話しかできない。それでもいいか?」
「ああ、十分だ。話してくれ」
観念した鳳輔が無機質な天井を見上げる。トラバーチン模様のパレットに、あの日の情景を思い浮かべているのだろうか。
そのまましばしの沈黙を経た後、彼は全てを語り出した。
両親が離婚し、アイと兄が離れ離れになったこと。
転校先の学校で、坂浦美奈子という女子生徒が復讐心を募らせていたこと。
デースマースに魔法使いにされた坂浦が惨劇を企て、兄がそれを止めようとしていたこと。
坂浦を止めながらも、彼は鳳輔に「アイを守ってくれ」と最後の願いを託していたこと。
そして2人は死亡し、委員長が杖を鹵獲して、デースマースが現場に細工をしたこと……。
……これで全てに合点がいった。
鳳輔が魔法という存在を知っていた理由も、委員長が新しい杖を所持していた理由も、鳳輔が暴力事件を起こした理由も、アイが兄の事件の真実にあれだけ動揺していたことも、全てが理解できた。
同時に、デースマースが3年以上活動を続けていたことも、配下に置いた魔法使いの死を悔やみもしないことも分かる。
「……委員長もよくそこまで調べたもんだな。他県の生徒のことまで調べ上げるなんてもはや異常行動だろ」
「元々はそこまで深く調べるつもりはなかったようだがな。正善兄さんたちが敵だったのかを判断するために、名前と出自を調べた程度だったらしい。……でも、その関係者である俺とアイが入学してきたから、改めて詳しく調べたみたいなんだ」
鳳輔の言によれば――放課後の教室で坂浦に責められているところに委員長が登場して、何故か坂浦を殴り、上記の真実をぶちまけたのだとか。
大好きな学園の生徒たちがいがみ合っているのは見ていられない! という理由らしいが、とんでもないことするなホント……諜報員による記憶操作が無ければ、坂浦とかいう男も魔法について知っているはずだったのか……。
「で、アイの兄の……正善さんだっけ? どんな感じの人なんだ?」
「とにかく真っ正直な人だったなぁ。曲がったことが大嫌いというか、正義が世界の規律だと思っているというか、なんというか、うーん……」
鳳輔は思い出の中から正善の姿を探り、彼の生き様にピッタリな言葉を模索する。しばらく的確な形容を探したのち、ついに思い当たったようで、握り拳を平手にポンと落とすという古典的な仕草をした。
「人生善行……って感じだな。善い行いをすることが生き甲斐というか、人の幸せを自分の幸せと思えるような人だった。転校後は特に顕著だったみたいだ」
「善行……」
最近イヤな場面で聞きすぎて不快な言葉だ。記憶の片隅で劇場型の魔法使いオッサンが善行であるよ!とか叫んでいやがる。
「故人の名誉を毀損するかもしれんが、デースマースのクソッタレに似てるな。まさか同じ善行者だから共感を覚えて魔法使いにした……なんてこたないだろうな」
「さすがにそれは無さそうと言いたいが、相手が論理の通じないヤツだからなぁ……」
とはいえ、アイの兄以外の人物にはその理屈が当て嵌まらないのも事実だ。
例えば、彼と同じタイミングで魔法使いにされてしまった坂浦美奈子。根暗で虐めの被害者という不憫な境遇の女子生徒なのだから、善行が好きそうだという印象はない。
他に奴によって魔法使いにされた人物はアイ、そしてこの前彼女に襲い掛かったゴロツキ共だ。アイはまだしもあのゲスたちに善行なんて言葉は似合わない。
一見、何の共通点もないように見える。しかしきっと、デースマースは何かを『選んで』魔法使いにしているのだ。
もし侵攻のために無差別に魔法使いを必要としているのならば、もっと魔法使いが増えていなければおかしい。奴は3年前には既に魔法使いに変える魔法を行使していたのだから、もし地道に続けていれば、奴の軍は今ごろ途方もない数になっていただろう。
しかしアイのように魔法を得てはしゃぐ奴の姿など見たことがないし、明らかに魔法が使われたような事件も報道されていない。素人を魔法使いに変えたならばそういった事例が舞い込んできてもよいはずなのだ。
一体、どんな基準で魔法使いに選抜しているというのか。朝霞兄妹とゴロツキ共なんて正反対と言うべき人格だというのに。
「さて、俺はそろそろ行くかな」
頃合いを見て鳳輔が立ち上がり、大きく伸びをした。携帯で時刻を見てみるも、彼が来てからまだ20分も経っていない。
「え、もう少しゆっくりしてけよ。話し相手がいないと落ち着かないんだ」
「クロには悪いが、あんまりアイを一人にしたくないんだ。アイツ、日頃は元気溌剌で天真爛漫を装ってるけどメンタルよわよわ女だし」
「そんなにメンタル弱いのか? 委員長一派の計画を止めるために、単身で俺たちに接触してくるようなツワモノだぞ。むしろメン強だろ」
「負い目があるのか何なのかは知らんが、俺のことになるとアイツ暴走するからなぁ」
懐かしむべきではない過去を思い出すような目をしながら、鳳輔は腰に当てていた手に力を込めて皴を作った。
「自分事となると弱いんだよ。中学の時なんかヤバかったぜ。離婚と兄の死と虐めが重なって、マジで自殺を考えてたみたいだしな」
「うおぉ……」
友達が自殺を考えていたという事実は想像以上に生々しくて重々しく、戦場で自決する兵士を何度も見た俺でさえ微妙な顔になってしまう。
しかし実際、家庭環境がボロボロで学校でも居場所を失ったとなれば、子供にとっては世界の全てを失ったようなものだ。逃げ先を失って究極の選択に行きつくのも分からなくもない。
「そ、それならしょうがないな。是非とも寄り添ってあげてくれ」
「ああ。どしたん話聞こか?って胸の内を話させてみるぜ」
「弱みに付け込んで口説くな」
そんな会話を交わし、鳳輔は謎のダブルピースを一発かましながら病室から出ていった。
すっかり静かになった部屋に1人残された俺は、生温くなった椅子に尻を落として、窓から外の景観を眺める。いつしか窓の外で遊んでいた子供たちは姿を消しており、鳳輔がが去ったことも併せて途轍もなく侘しい気持ちになっていた。
……アイを取り巻く、家族関係と学校の虐め。
内容を聞けば家族関係のほうが深刻な悩みに思えるが、実際は虐めの方が重大な問題だったのだろう。
家族への悲劇は既に起きてしまったことなので、時の流れと共に本人が立ち直れれば傷口は塞がっていく。本人の気の持ちようでなんとでもできるものだ。
一方、虐めは終わりが見えない。坂浦とかいう男がいる限り、ずっと続いていくかもしれなかったのだ。話によれば高校も同じだったようだし、鳳輔が殴ってヘイトを集めなければ、今でも虐められ続けていただろう。
……ん? 虐め? そういえば、さっきの話によれば坂浦美奈子ってヤツも虐めの被害者だったか。
まさかデースマースは虐めの被害者を選んで力を与えているのか?
いやいや、俺たちを殺そうとした腐れヤンキー共は虐めの加害者にはなり得るが、虐められていたとは考えられない。
いじめの加害者と被害者の両方に声をかけていたならば納得できるかもしれないが、倉庫で俺が杖を奪った男はヤンキー崩れではなく、虐めてもいなければ虐められていたような雰囲気もなかった。姿は朧げだが、確かザ・一般人という出で立ちだ。
「うーん……」
「あんまり悩むと頭皮に深刻な影響が出るぞ……」
「キャーッ!」
不意に窓の外にダウナが現れたせいで、今日日ガキでも発さないようなくらい王道な悲鳴を上げた。あまり心臓に負担をかけるような真似はやめてほしい。
「なにしてんですか! ここ4階ですよ!」
「入口から入ると面会記録に名前を書かなきゃいけなくて面倒だからな……ちょっと不法侵入する程度だしいいだろ……」
いいだろでは済まないような気もするが、そのまま窓越しに会話するのも聞き取りづらいので、とにかく窓の鍵を開けて招き入れた。
ダウナは手提げカバンから旅行用の折り畳みスリッパを取り出し、わざわざ履き替えてから病室に入ってくる。そういう配慮ができるならもう少し声掛けについても細心の注意を払ってほしいところだ。
「ハルモニア王女はまだ昏睡状態か……」
そう呟いて、ダウナはハルの寝顔を見つめる。
そんなダウナの表情はどこか幼く見え、達観しているようで、慈愛に満ちて、でも拒絶も混じり、最終的には無味乾燥な顔に落ち着いていた。
そのまま数秒の時が流れる。……なんだか迂闊に口を挟めないような沈黙だ。
「まあ……メース国の王女が傷ついたのは不幸だが、君が傷つかなかったのは不幸中の幸いだよ、少年」
「え……?」
「もし君が傷ついていたら……わたしは、どうしたらいいか分からなくなりそうだからな」
その口調はどこか憂いを帯びて、郷愁にも似た繊細な感情が込められていた。
想定外の感情を向けられて、思わず言葉を失ってしまいそうになる。
「……あの、ダウナさんは……」
失いかけた言葉をそこまで紡いだが、やはり喉の奥で溶けて消えてしまう。
どうせ何を聞いてもはぐらかされるに決まっているだろう。かつて深く追究しようとしたときも、『わたしは自分にとって都合のいいことしかキミに言わない』と言って突っぱねられたのだから。
それを分かっているから、俺は放つ言葉を変えることにした。
「ありがとうございます。ハルが傷ついた時にすぐ救急車を呼んでくれたおかげで、致命傷にならずに済んだようですので」
「気にしなくていい。わたしがやらずとも君がやっていたことだろう……」
そうとは思えない。
あの時の俺は完全に冷静さを欠いていて、救急車を呼ぶなんて発想は全く持っていなかった。恐らくあのままハルが失血死するまで呆然自失し続けていただろう。
……俺には何もできなかったのだ。一番彼女のことを理解していて……大切に思っているはずなのに。
「ところで、鶴ヶ島鳳輔くんは来ていないのか? 家の窓から様子を見たんだが留守だったから、ここにいると思ってきたのだが……」
「ああ、さっきまでいたんですけど入れ違いになりましたね。多分今ごろアイの家に行ってると思いますよ」
冷静に流したけど、何故当たり前のように鳳輔の家を知っているんだ。委員長といい、人様の個人情報を気軽に持ち出す輩が多すぎる。
「そうか、顔を出しづらそうだな……。じゃあ君にこれを預けておこう」
「ん? なんですか、このヘンなの」
それは……なんというか、その、本当にヘンなのと形容するしかない物体だった。
強いて言えばレーダーだろう。ほら、潜水艦とかに搭載されているアレ。携帯電話くらいのサイズ感のソレには謎の数字が羅列されていて、ド真ん中には地図が表示されており、エメラルドグリーンの光が点滅している。
「魔力探知機だよ……そのまんまだが、特定の魔力を検知する機能があるんだ……」
「え、魔力探知機ってシロガラ国の使ってる最新型でも黒板サイズくらいありますよ」
「認可されていない最新技術なんて山ほどあるからな……ちなみにまだ魔法界に流通していない技術だから、祖国とか中立国家に技術情報を流すんじゃないぞ……」
そんな大層なものを迂闊な俺に預けないでほしい。なくすから。
どうやら表示されている数字は緯度・経度・標高を示しており、更に脈拍や体温などのバイタルデータも表示されているようだ。しかもその上、魔力の最大値と現在地まで分かるし、電話みたいな遠距離通信もできるらしい。
「で、これって誰を探知しているんですか」
「ああ、無断で悪いが朝霞愛美くんの杖に付けさせてもらったよ……いつデースマースに攫われるか分からないからね……」
すげえ、平然とプライバシーを無視してる。倫理観と法律を無視すれば真っ当な備えなので、特に抗議する筋合いもないが。
「ではわたしはこれで失礼するよ……残課題が山積みなもんでね……」
「え、帰っちゃうんですか。話し相手がいないと落ち着かないんですけど」
「わたしとしても色々話したい気持ちはあるが、君、会話の中から色々な情報を盗みたいだけだろう……?」
「ばれてた」
完全に腹積もりを見透かされていたので、誤魔化すこともせずに認めることにした。恐らくこの人はシロガラ国でさえも知らない極秘情報を知っていると思われるので、デースマースの一件とは関係なく、純粋にこの人が持っている情報や知識を引き出したいのだ。
「……今の君には迂闊な情報を流せないけど、これだけは明言しておくよ」
急に改まり、ダウナが濁った目を俺に向ける。
「わたしは立場としては君の敵だが、心境としては君の味方だ。どうしても敵にならなくちゃいけない時が来たら伝えるから、それまでは味方だと思ってくれていいよ」
「……成程」
随分と義理堅い敵さんのようだ。むしろここまで堂々と言われると、逆に信じてもいいんじゃないかって気持ちになる。
そして最後に手を振って、ダウナは窓から飛び去って行った。
「指名手配犯とは思えないほど軽快に飛んでいくな……」
青空に消えていく華奢な体躯をしばらく見送って、俺は再び椅子に座って落ち着いた。
その時、ベッドサイドテーブルに置かれている花瓶に、花が一本増えていることに気づく。早咲きのラナンキュラスが窓から差し込む風に流され、静かに揺れていた。
「……おいハル、意外と人気者だな。次々お見舞いが来てくれるぞ」
だからさっさと起きろよ、一人だと寂しいだろうが。
いつもみたいに俺の名前を呼んでくれよ。
「この調子じゃ、次は諜報員とかが来そうな感じだな」
「ん、お呼びですかな?」
ものすごく丁度いいタイミングで病室の扉が開き、甘橙色のガーベラを持った諜報員が姿を現す。
もう少し大きな花瓶を買えばよかったかな、と思いながら諜報員を出迎えた。
……なあ、アイ。
もう少し心が落ち着いたら、お前も見舞いに来てくれよな。
きっとハルも……気にしちゃいないだろうから。




