13章 3年前の惨劇 下
「標的は2名、警戒レベルは低。これより排除に移る」
戦闘開始を口にした瞬間――委員長は杖を振るい、天に幾つもの炎球を創り出した。
「……!」
そのサイズに圧倒された美奈子は、障壁を展開しながら後方に下がる。天より降り注ぐ炎が、まるでこの世の終焉みたいに感じられて――。
重厚な衝撃と共に、ほんの1秒前まで美奈子がいた場所が獄炎に包まれた。もしも直撃したら即死していただろう、それほどまでに暴力的な力だった。
……3年後にクロたちと戦闘する時は、魔力が枯渇していて稚児の如き抵抗しかできていなかった。しかし魔力が必要十分に有る今、彼女は有象無象の魔法使い相手なら圧倒できる実力を持つ。
なんせ彼女は本来、時を止める禁術を使うことができるほどの実力者なのだから――。
「なッ……んだ、この、化物は……!」
不意に現れた実力者に、美奈子は未だ驚愕の深淵から抜けられない。しかしその目には憎悪にも似たドス黒い輝きが灯り始めていた。
力のある存在が、自身よりも矮小な存在を嬲ること。……それは彼女が今まで刻みつけられた虐めと同様だ。魔法使いになっても尚、彼女はより高みにいる存在に見下ろされている。
それが赦せないのだ。例えどれだけの化物が相手だろうが、もう二度と誰にも屈するわけにはいかないのだから。
「……!」
正善は意味不明な状況に仰天しつつも、戦況を変える機会であることを悟る。美奈子を止めるには、この混沌とした状況で勝機を見出すしかないのだ。
「見下してんじゃねぇぞチビガキがァ! てめぇみたいなヤツがいるから! あたしはッ! 幸せになれねぇんだッ!」
美奈子が炎の球を創り出し、委員長に向かって勢いよく発射する。対する委員長も同様に炎の球を顕現させ、杖を振るって撃ち放った。
獄炎同士がぶつかり合い、慈悲なき炎が辺りに撒き散らされる。ただでさえ地獄と化していた周囲は更に延焼し、もはや息をするだけで肺が焼け朽ちるかのよう。
……それは魔法界でもよく見られる光景だ。数ある魔法の中でも最も修得が容易な炎魔法は、兵士にとって一番最初に習得すべき術式。故に、魔法界の戦場は炎によって彩られ続けている。
「らァ!」
2人の間に立ち上る炎を突き抜け、杖先を槍に変えた美奈子が突進する。その切っ先は迷うことなく一直線に、委員長の首元に向かって突き付けられ――。
しかし届かず。委員長は真正面に障壁を張り、美奈子の攻撃を難なく受け止めてしまう。
「おおおぁあッ!」
その隙を突き、背後から正善が接近していた。彼も杖を剣に変え、美奈子に向かって肉薄する。
「邪魔臭ぇ! すっこんでろ雑魚がァ!」
乾坤一擲の一撃も躱され、美奈子は不安定な体勢のまま槍を振るう。正善は障壁で身を護ったものの、勢いのまま壁に激突した。
……しかし、攻撃を放つということは隙を作るということ。
「……!」
体勢を崩した美奈子に向かって、委員長が業火の砲撃を撃ち放った。
美奈子はなんとか障壁で身を護るも、砲弾に吹き飛ばされて、燃え滾る家を数軒突き抜けていく。
「……な……っ」
あまりにも常識を超えた威力に、美奈子に引導を渡そうとしていた正善は、自分の本分も忘れて彼女の身を案じてしまう。
しかし彼が憂慮している間に、委員長は彼の目の前に立ち塞がっており――。
「……貴様はあの女より幾分御しやすそうだ。尖兵くらいは担わせることができるかもしれん」
掌から浸蝕の光を零れさせながら、感情の籠らない口調でそう言い捨てる。
それは――遠い未来にハルへと発動した、精神操作の光だ。閃光に包まれた者の欲求を増幅化させ、欲望を解放させる。
これで正善の暴力性や憂鬱性を増幅させ、道徳や良心を捨てさせる。その上で暴力性の発散場所として魔法界へと誘致し、近々計画している魔法界への侵攻へと加担させる。……大国を相手取るには、正善のような取るに足らない魔法使いすら利用したかったのだ。
「貴様が持つ現世への憂い、今こそ解放してみせろ。……我々が貴様を導いてやろう」
漆黒の光が正善の頭部を包み込んでいく。閃光が彼の脳髄に侵入して、その中身を侵していた。
彼の脳内に巣食う根源的な欲求を、光が探し出して――。
「……!」
その瞬間、粒子のような魔精反応と共に、委員長の手が弾かれる。想定外の挙動を見せた己の手を、委員長は呆然と見つめていた。
我に返った彼女は、何が起こったのか全く分かっていなさそうな正善の顔を睨みつける。
「……貴様……その心に一切の陰りがないと言うのか……?」
そう、彼女が放ったのは暴力性や憂鬱性を増幅させる魔法。心の中に種が無ければ、何物も発芽させられないのだ。
……しかし、人が人である限り、如何なる欲求からも逃れられない。増してや彼は未成熟な子供なのだ。悟りに至ったかのような無欲の境地になど辿り着けるはずもない……。
「怒りも、憂いも、煩わしさも……貴様の中には何もないのか? 貴様は何だ、何を以て生きている……?」
「……何を言いたいのかよく分からないが……俺にはもう、悪感情なんて抱えてる余裕はないんだよ……」
血の溢れ出す腹部を押さえながら、正善はふらつく足で立ち上がる。そして真正面から委員長の目を見据えた。
「俺はもう……一度死んでいるんだからな……」
……両親が離婚し、妹と離れ離れになったあの頃。正善の心は打ち砕かれた。
離婚に至るまでの数年間、彼の両親は近くに子供がいることすら構わず激しい喧嘩をし、笑わなくなり、やがて言葉を交わすことすらなくなっていた。当然、そうなれば家庭の雰囲気は沈痛を極めて――子供の心を蝕んでいく。
唯一救いだったのは、妹の存在だった。常に苛立ちを抱えた両親に近寄れなくなっていた彼は、妹と過ごす時間だけが家庭内での心を休ませられる時。
……しかし離婚によって家庭は崩れ、大切だった妹と引き離され、引っ越しによって友達すらも失い……彼には何も無くなってしまった。
追い詰められた心は、死を望むほどに。
現に彼は、セキュリティの緩いマンションに忍び込み、屋上から何度か眼下を見下ろしたことがあった。そのマンションは7階建て、頭から落下すれば間違いなく即死する高さだろう。
実際に身を投げることはしなかったが――その時間違いなく、彼の心は一度死んだのだ。
思い留まった彼は、残りの人生を自分の為ではなく他人のために生きていくことを誓う。……いや、そうしなければ生きていく理由が見つからなかった。
「……一度死んだ俺に、欲なんて不要なモンだ。善行を重ねることだけが俺の生きる理由なんだよ……」
委員長には彼の言うことが全く理解できない。両親によって洗脳に近い教育を受けた彼女には、善行を重ねることの意義など一切分からないのだ。
彼女にとっての世界とは、復讐を果たすための舞台装置。怨みも妬みも嫉みも何もなく、直接的な被害を受けたことすら無いが、彼女にとっての人生はシロガラ国とメース国を滅ぼすためのものだ。
そんな無意味で無価値な世界の中で、他人を幸せにするために足掻く者がいるなんて、想像できたはずもない。
「なあ、アンタ……強いんだろ? お願いだ、坂浦を止めるのを手伝ってくれ……!」
「……サカウラ、とは……先ほどの女のことか?」
「ああ! アイツだって被害者なんだ、このまま見過ごすわけにはいかない! たった数秒でいい、アイツの動きを止めてくれれば俺が片を付ける! アンタの手は汚させない……!」
「…………………………」
委員長の目が下へと揺れ、正善の腹部へと向く。美奈子に抉られた傷は深く、どれだけ手で押さえても出血を止められていない。誰がどう見たって牽制の一撃ではなく、殺意を持った一撃であったことは容易に推測できるだろう。
現場の状況からして、美奈子が正善を刺したのは明らかだ。……そのはずなのに、何故この男はあの女を救おうとするのか、それが彼女には心底理解できない。
自分を刺し殺そうとした相手を救うことが、一体何の善行だと言えるのだろうか。
「……1秒だけなら、手伝ってやらないことも無い」
その答えを知るために、委員長はそう言い放った。
「てッめえええぇぇぇええッ! なァにを上等くれやがッてんだクソアマがァアア!」
湖面のように揺れる委員長の心が、正善という男の決意を理解した時――全身を煤けさせた美奈子が姿を見せた。彼女は炎上した家を浮遊魔法で浮かし、頭上に高々と掲げている。
……しかし、素人に毛が生えたような彼女が家一軒を持ち上げるのは中々に厳しいのだろう。杖先は震え、吐いた息もか細く震えていた。
「クソゴミ共がッ、ブッ潰れろッッ!」
それはまるで高熱の時に見る悪夢のよう。燃え盛る家が空から飛来し、正善と委員長を押し潰そうと降り注いでいく。魔法の存在を知らなければ、この世のものとは思えないような光景だ。
「う……おおぁああ……ッ!」
委員長は堅牢な障壁を張ることで圧殺から逃れ、正善は腹から出血することも厭わずに脱兎の如く逃げていく。
もはや狂気に染まり、人としての尊厳を失った美奈子を見つめて――委員長は冷笑を零した。
ここまで堕ちてしまった女を、何を以て救うと言うのか、どれだけ必死に呼びかけても道徳を説いても、こいつには通じない。もう誰にも心を開かず、何かを破壊することでしか生きていけない人間としての落伍者だ。
狂気に染まった者を止めることなど、できるはずもない。……だからこそ、思う存分に大言壮語をしてみせた正善に興味が湧いていた。
思えば、それが……彼女が生まれて初めて、自発的な行動を起こした瞬間だっただろう。
今まで両親の傀儡として生きてきた彼女が、ようやく、自分の意思で成り行きを見守ろうとしていた。
「見せてもらおう。……貴様の言う『善行』とやらを」
瞬間――委員長の姿が掻き消える。まるで最初からそこには誰もいなかったかの如く、影も形も何もない。
凄まじき速度で距離を詰めた委員長が、美奈子の頭に操作魔法を放つ。黒色の火花が舞い散り、美奈子の目を晦ませた。
操作魔法によって彼女の体を一時的に操作し、動きの自由を奪ったのだ。今の美奈子は、思考こそ至ってクリアだが――体だけが一切動かせない状態。敵を目の前にして、想像しうる限り最悪の状態だった。
しかし動きを止められるのはたった1秒だけ。そのか細い勝機を見出し、美奈子へ肉薄していくのは正善だった。
口から血を滴らせながら、正善が剣状の杖を構えて突進する。
「うッおおおおあぁあああああッ! このッ、死にぞこないがァッ!」
僅か1秒の空白時間を終えた美奈子が、槍を振るって正善の剣を弾き飛ばす。
……いや、弾き飛ばされる寸前、正善は自らの意思で剣から手を放していた。最初から剣も魔法も囮でしかない。魔力で負けていることを理解しているのだから、そんなものに頼っても勝機を掴むことなどできないのだ。
正善はそのまま手を伸ばし、美奈子の服を掴んでその身体を引き倒す。
引き倒したその先は、地獄の焔が轟々と燃え盛っていた。
「あ゛ッ!!! ……ぐぉえぁあぁあぁがッ、う゛あぁあぁあああ……ッッッ!」
全身を炎に包まれた2人が、この世のものとは思えない悲鳴を上げる。しかしそれでも正善は、押し倒した美奈子の体に体重をかけ続けて、この紅き地獄から逃れられないようにしていた。
美奈子は魔法を用いて脱出しようと試みるが、全身を蟲に喰い荒らされるかのような激痛の中、冷静になって魔力を練ることができるわけもない。魔法を使い始めて日が浅い彼女は、無意識的に魔法を行使する技術を持ち得てはいなかった。
2人の体が燃えていく、2人の体がドス黒く変色していく……。
「お゛おォああぁあッ!!! ……ぐぅおおぁッ……!!!!!」
炎によって全ての理性が消え去る中、正善は全身の激痛を堪えながら、眼下で悶え苦しむ美奈子の顔を見つめていた。
狂気に染まり切ってしまった者を助ける方法など無い。永遠に暴走させ続けるか、然るべき処理によって人生の終端を与えるしかないのだ。
殺すことでしか彼女を救えないならば、その後始末は同じ境遇である自分が務めなければならない。
殺すことでしか彼女を救えないならば、自分がその随伴者となろう。
「……お前がッ、死ぬしか……っ…………ないならッ! 俺が、一緒にッ、死んでやるッ! お前は一人なんじゃねぇ……ッッ!」
……それが、一人ぼっちで生きてきた彼女への餞だった。
「………………」
そんな光景を……委員長は、目を見開いて見つめることしかできない。
魔法界に攻め入る宿命を背負った彼女は、いずれ数えることすらできないほど人の死に触れるだろう。しかし今はまだ単なる中学3年生でしかない。
人が死ぬ姿など、ましてや焼死していく様など、一度たりとも見たことなんかなくて……。
「――――」
やがて、燃え盛る2人の体が力を失い、業火の中で動かなくなった。
後に残るのは、命を失っても燃え続ける2つの焼死体と、彼らが手放した2本の杖だけだ。
「……なんだ、こいつらは……」
彼らの素性は知らないが状況を総合すれば、あの女がどうしようもない狂人で、そいつの為にあの男が奮闘したのだと理解できる。だが理解できるのは行動だけだ、その心理は何一つ理解できない。
どうして命を張ってまで、誰かの尊厳を守ろうとするのか。
……彼女がその動機を理解するまで、あと1年を必要とする。学園という自分の居場所を見つけて、たとえ自分の命を捧げてでも守りたい何かを知って、彼女は今日という出来事をようやく理解できるだろう。
『――咲希、魔法使いの駆除は済んだか。制圧次第、杖を回収して帰還しろ』
「……!」
イヤホンマイクから父親の重々しい声が聞こえ、委員長の体が少しだけ跳ねる。錯乱しかねない精神状態から一気に現実へと引き戻されて、何度か過呼吸のような荒い息をし、それでも呼吸を整えて父親へ返答した。
そして彼女は言われるがままに、正善たちが所有していた2本の杖を抱える。そして炎の中で焼け死んだ2人の顔を見下ろし、複雑な感情の籠った目を静かに細めて、両親の待つ家へと走り去っていった……。
「…………」
そんな光景を遠くから眺めていたデースマースが、クククと陽気な笑みを浮かべながら現れる。
「まさか野良魔法使いがこちらにいるとは、驚きであるなぁ。もしも将来的に戦力が不足していたら、声をかけてみるのも面白いであるな……」
そんなことを呟きながら、デースマースがふところから幾つかの道具を取り出し、現場工作をしていく。
原因不明の発火と報道されれば、こちらの世界にいるダウナとかいう邪魔者に犯行を気取られ、面倒臭いことになるかもしれない。だからこうやって現場に細工をして、トチ狂った若者が放火をして、最終的に自殺したという筋書きに書き換えているのだ。
犯人という汚名は美奈子に背負ってもらうのが一番自然だが、正善は彼女に罪を重ねてもらいたくないとずっと言っていた。そう考えると正善に罪を被ってもらったほうが良いのではないか。そのほうがいいに決まっている。若者の意見を取り入れてあげるなんて見上げた善行だ。
なんてことを思いながら、正善の遺骸の傍らに犯行の道具を並べていく。
筋書きは、両親に復讐したいという思いを持っていた正善が、同じ境遇の美奈子を誘ったような流れ。美奈子は固辞したが正善に力ずくで連れてこられ、目の前で彼女の家を焼かれた。そして彼女自身も焼き殺されかけたが、正善の蛮行を止めるために刃物を隠し持っていて、最後に一矢報いたが――というような感じで。
「勝手な筋書きを作られるのはさぞ嫌でありましょうが、そもそも我の与えた力を悪用したのが原因でありますからな。大人しく黙って受け入れるのも善行なのでありますよガキ共」
魔力を与えた時に、足が付くからあまり大規模な犯罪をするなと言っておいたのに、それを破るほうが悪い。非善行でありますよ。……と小さく呟いて、デースマースが薄気味悪い笑みを浮かべた。
最終的には暴走してしまったが、人間を魔法使いにする禁術の首尾は上々。このまま続けていけば大量の魔法使いを量産することも可能だろう。
魔法界への侵攻という崇高なる目的を果たすまで数十年はかかる見込みだったが、この調子なら数年で事足りるかもしれない。
やがて訪れる凄惨な地獄を想像すると、デースマースは悦びに打ち震え、涎を零しながら身悶えした。
その時、空いっぱいに汽笛の音が響き渡る。
空から鉄道のレールが伸びてきて、そのレール上を真っ黒なボディの鉄道が走り、デースマースの目の前で停車した。
それは魔力を持たない者には決して見ることのできない、銀河を走る鉄道だ。アジト行きの特別便に乗り込んだデースマースは、最後に哀れな焼死体2つを汚らわしそうなものを見る目で見下ろした。
「あばよであります。魔法を使えて、少しはいい夢見られましたかな?」
再び汽笛が轟いて、銀河鉄道は黒煙を吐き出しながら空に向かって登っていく。
ケタケタという愉快な笑い声と共に、鉄道は空を超えて宇宙へ向かい、そして――見えなくなった。
その夕方、この事件は大々的に報道されることとなる。
朝霞正善という狂気的な犯罪者の汚名は津々浦々へと響き渡り、そして、その家族であるアイにも奇異の目が向けられていく。
その中でもひときわ彼女に憎悪の目を向けたのは、被害者、坂浦美奈子の弟である坂浦命だ。
姉の生命どころか自宅までを失った彼は、ぶつけどころのない怒りをアイにぶつけるしかなく、アイもそれを受け入れることが、兄の犯した罪への贖罪だと信じていた。
そしてヒートアップしていく暴言の数々に耐えきれなくなった鳳輔が、命に暴力を振るい――現在へ至る。
この事件の顛末を知っているのは、彼らに力を与えたデースマースと、2人の末路を見届けた咲希だけだ。後者の咲希も、後日2人の身辺調査を行うことで、経緯を仮定することしかできていない。
それ以外の大半の人間は、命を賭けて美奈子を止めようとした正善のことを、狂気に呑み込まれた犯罪少年だとしか思っていない。今でも検索をかければ、彼の名前が数々の中傷と共に現れるだろう。
……しかしもう一人だけ、彼が無実である可能性を捨てきれずにいる人間がいる。
その者の名前は鶴ヶ島鳳輔。……事件のあらましを聞いた限りでは、どう考えても正善が起こした事件でしかないのだが、それでも違和感は捨てきれない。
あの時、正善が言い放った『魔法』が本当にあるならば、状況証拠など何一つ意味を持たないからだ。
――そして彼は、数年の時を経て、魔法を目の当たりにして――今再び、思う。
朝霞正善は、悪人などではなかったのだと。




