12章 3年前の惨劇 上
少年の名前は朝霞正善。朝霞家の長男にして、アイの兄でもある。
彼が物心を覚えた頃には、まだ家庭内は平和だった。両親はお互いを尊重し合い、協力して子育てに励み、愛の言葉をかけ合うおしどり夫婦と言ってもいいほどだ。
しかし彼が小学生になった頃、両親の仲は険悪なものへと変わっていた。何が原因だったのかはよく分からない。しかしどちらの主張も平行線を辿る以上、きっとどちらも加害者で、どちらも被害者なのだ。
彼が中学生になった頃には、両親は互いに会話をしなくなっていた。もし何かを伝える必要がある時は、子供を中継役として言葉を届けていた。
だから、中学三年生になった頃に両親が離婚すると聞いた時には、「だろうな」という感想しか浮かんでこなかった。
しかし彼が気がかりだったのは、自分と妹の生活がどうなってしまうのか、ということだった。どちらかが2人とも引き取ればこれからも一緒にいられるが、父親はそこまで子供に興味を持たないし、母親は2人を育てられるほど経済状況も体調も宜しくない。
そんな事情を鑑みると、自分が父親に引き取られ、妹が母親に引き取られるのは、当然の選択だったと言えよう。
しかし妹と仲が良かった彼にとっては、そんな当たり前の選択でさえも、受け入れがたいものでしかなかった……。
彼が父親と共に大阪へ引っ越してから、2年が経った頃。
高校2年生になった彼は、とある女子生徒を目撃する。
彼女の名前は坂浦美奈子。ボソボソとした喋り方と陰気な雰囲気、そして自分以外の他人全てを警戒するような目。人との接触を拒む彼女が誰かと親しそうに会話をしているところなんて、一度たりとも見たことが無かった。
率直に言って、彼女はクラスで浮いていた。いや、虐められていた。
しかし虐めの原因は、彼女が周囲の人間に対して見下すような態度を取ったことに起因しているらしい。だとしても虐めが許されるとは思えないが、それでも、彼女が純然たる被害者だとは誰も断言できないようだった。
そもそも彼女がそんな性格になってしまったのは、両親の離婚によって一家がバラバラになったせいのようだ。それなりに仲が良かった弟とも、全幅の信頼を寄せていた父親とも離れ離れになり、母親と二人で暮らしているようだ。
……自分と同じ境遇の人が虐められていると知った正善は、彼女をどうにかしたいと思っていた。離婚が原因で全てが捻じ曲がってしまったのならば、同じ立場である自分こそが彼女の理解者になれると思っていたのだ。
しかしそれは優しさであり善意であり、思い上がりであり偽善であった。
正善にとっては「同じ境遇の自分が普通の学園生活を送れているのだから、彼女もきっと立ち直れる」で、美奈子にとっては「同じ境遇なのにこいつが普通の学園生活を送れているのは、自分ほど辛いと思っていないから」だ。
環境や性格が異なれば、受け取り方も異なる。……それを真の意味で理解するには、彼らはまだ幼過ぎた。
だから当然お互いの考えていることはすれ違い、ぶつかり合い、手と手を取り合うなんてことは夢のまた夢だった……。
事件のきっかけは、既に限界に達していた彼女が、ショベルを片手に山へ向かったことだ。誰かの私有地なのだろうが手入れされた形跡のない山は、何かを隠すのに持ってこいだった。
そこに掘られた穴は、誰の棺となる予定だったのだろう。柔らかな花ではなく冷たい土に覆われるその死に場所は、クラスの誰を眠らせるための場所だったのだろう……。
これから起こる惨劇を悟った正善は、彼女を止めようとした。しかし彼女が素直に言うことを聞くはずもなく、放っておけと冷たくあしらうばかりで――。
「放っておけるかよッ! お前、あいつらに復讐するつもりなんだろ!?」
「うるさいっ! ……あんたには分からないでしょ、絶対に……! 学校に居場所なんかなくて、死にたくなるまで虐められて! あたしは何を望んで生きればいいのッ、何のために生きていけばいいのッ!? あたしの気持ちなんて誰にも分かるものかッ!!」
彼らの間柄は……他人ではあるが、互いの状況を推し量れる立場だ。
二人の境遇は全く同じ。本来であれば、手を取り合って生きていくのが美しき流れのはず。彼らは本来いがみ合う二人ではないというのに、どうして軋轢を生んでしまうのだろう。
なぜ片方が酷い虐めによって地獄を味わい、もう片方は輝かしい青春を送れているのだろうか……。
「ああ、善行! 善行であるよ、若き才能たち!」
そんな二人の前に、一人の男が現れる。彼は上から下まで鼠色のローブをすっぽりと被り、その手には魔力を纏った杖を握り締め、善行という言葉をバカでかい声で叫んでいた。
「本当の幸いを知らない愚者たちよ、我が救いを齎そう! 自身の未熟を悔いることしかできない君たちに、新たなる世界の力を与えようではないか! これぞ善行!!」
訳の分からないセリフを口走りながら、その男が天高く杖を突きあげる。その切っ先からはドス黒い光が拡散されていき、呆気に取られて動くことすらできない若者二人を包み込んでいった。
「これは我の愛すべき魔術、人間を魔法使いに改造する魔法! ……コングラッチュレーショォーン! 君たちは普通の人間から1歩だけ進化したのである!」
彼の名はデースマース・љ・ディアール。
魔法界に災いを齎すために、無辜なる人々を魔法使いに変える狂気の奇人。
彼に見染められた二人は、今日から魔法使いとしての日々を過ごすことになる。
平穏を望む正善にとって、それは不要な力でしかないだろう。
しかし復讐を望む美奈子にとっては、あまりにも甘美過ぎる力で……。
翌日、美奈子を虐めていた女子生徒たちが、脊髄を損傷した状態で発見された。
各々損傷個所は異なっていたが、少なくとも半数以上が、自発的な歩行は絶望的だと断じられたらしい。表向きには単なる事故だと処理されていたが、被害者の顔ぶれを見た誰もが、美奈子との関係性を疑わずにはいられなかった。事件の同日から美奈子も行方不明になっていたのだから、むしろ確定的だと言えるだろう。
しかし警察が美奈子の事情聴取を行えなかったのは、彼女は既に人間としての生を捨て、魔法使いとしての新たなる日々を生き始めたからだ。不可視の魔法で姿を隠し、同居していた母親にさえ行き先を知らせず、彼女は己の力に溺れていった。
自分を虐めていた者を懲らしめたならば、次は見て見ぬふりをしたクラスメート。そして次に虐めの事実を知りながら深く追究しようとしなかった教員。最後には学園そのものを焼き払ってやろう……と、彼女は実現可能な復讐計画を企てていたのだ。
そんな彼女を止めていたのは、同じ力を得た正善だった。最初の事件をキッカケに、彼は美奈子を全力で止めるようになっていたのだ。
勿論、言葉で止まるような美奈子ではない。だから彼も魔法を駆使して、時にはぶつかり合い、時には拘束し、彼女の犯行を止め続けていた。
しかし現実は無常で、魔力の過多は美奈子に軍配が上がっていた。最初はお互い魔法に慣れていなかったので止められていたが、それぞれが魔力のコントロールを身に着けていくうちに、正善は多々の傷を負い始めていた……。
晴天の青空に、鈍い剣戟の音が響き渡る。
互いの杖を剣に変えた二人が、荒く息を切らしながら対峙していた。疲労の色は各自平等のようだが、負った傷の深さは正善のほうが深刻なように見える。
「もうよせッ! お前の復讐はもう終わっただろ!? これ以上誰かを傷つけて何になる……!」
正善が放った慟哭にも近い問いかけを、美奈子は鼻で笑い捨てた。そして昏く濁った目を眇め、目の前にいる憎き魔法使いを睥睨する。
「復讐が終わった……? こんな軽い罰で、あたしの傷が癒されたって? ……ざけんなボケカスッ! あたしは気が狂いかねないほど虐められたんだ、だからどれだけ他のヤツを虐めてもいいんだッ!」
きっと、彼女の復讐は終わらないのだ。
虐めの張本人が消えても、それを作った環境が憎い。クラスメートも教員もその家族も、果ては教育委員会もこの国も、彼女にとっては敵そのものでしかない。
誰を傷つけても治まらないコンプレックスは、もはや暴走することでしかその疼きを止められないようだった。
「……くそッ!」
既に正善は、己の思いを何回も口にしてきた。しかしその度に唾棄され、軽んじられ、疎まれて続けてきたのだ。
だからこれ以上、自分が何かを語りかけたところで無意味だと知っている。綺麗事はもう既に彼女へは届かない。
だが、言葉が通じないとなれば、残るは原始的な方法で止めるしかないのだ。攻撃性の快楽を知ってしまった獣を鎮静させるには、その頭蓋を切り裂いて、二度と立ち上がれないようにしなければならない。
「お前を止めるには……殺すしかないのか……」
「殺せねぇよ、お前如きの雑魚にはな!」
げてげてと常人が発することのない奇怪な笑い声をあげて、美奈子はだらしなく舌を口からはみ出させる。その舌には何度も歯を減り込ませたようなへこみが刻まれていた。
彼女が杖を振るうと、空に幾多もの炎が顕現する。細胞の欠片まで焼き尽くすような獄炎が渦巻き、正善の障壁に激突して火花を撒き散らした。
「殺すさ……俺の全てを賭けてでも……ッ!」
彼ら2人はただの魔法使いではない。美奈子は力を求め、デースマースに火炎魔法などの危険な術を教わった。それを止めるために、正善も同じく危険度の高い魔法を理解したのだ。
だから彼ら2人は魔法初心者ではあるが、基礎魔法だけではなく実用的な魔法も使いこなしている。故にその攻防は、気を抜けば一瞬で決着しかねないものとなっていた。
「……言ったな? 全てを賭けてでも……って」
美奈子の顔が妖しく歪む。
「お前、前に話してたよなぁ。『俺にも離婚で離れ離れになってしまって妹がいるんだ』ってさァ! ……そいつの命さえも賭けられるのかぁ!?」
「あッ……あいつは関係ないだろ! 妹は妹だ、俺とは違う……!」
「くっくくくくくききききひひひ……どうしたよ偽善野郎、柄にもなく焦りやがって。ほらほらぁ、お得意の説法で止めてみろよ! なァ!」
突如旋回し、美奈子はあらぬ方向へと全速力で飛び去っていく。一瞬遅れてから、慌てて正善もその後を追った。
美奈子の判断は正しいだろう。正善が殺人を決意したのならば、彼は立派な敵だ。その敵が一番嫌がる行為は家族を人質にされること。
……情に厚くて甘い正善なら、妹を捉えられた瞬間、美奈子に何もできなくなる。
後は妹の眼前で、自害を命じるだけ。きっとそれは美奈子にとってはこの上ない快感だろう。
「くッ……そっ!」
前述した通り、美奈子のほうが高い魔力を有している。故に、正善が全力で追い縋ったとしても届かない。少しずつ離れていく距離を口惜しみながら見ていることしかできないのだ。
このままでは、美奈子を殺すどころか彼自身が殺されてしまうだろう。それどころか大切な妹にまで危害が及ぶ可能性がある。
唯一の救いは、美奈子がアイの所在を知らないこと。かつて打ち解けようと試みた時に大体の住所や年齢や顔は知られてしまったので、おおよその場所は悟られていると思うが、リアルタイムでどこにいるかを知るすべはない。
しかしそれと同時に発生する懸念は、知らないが故に広範囲に被害を齎すのではないかということだ。
ともすればこの一件は、未曽有の大災害に繋がるかもしれない……。
「……ッ」
正善はふところから携帯電話を取り出し、妹に向かって着信をかける。
とにかく現住所から遠く離れたところに逃がさなくてはならない。そう思って避難を呼びかけようとしたのだが――。
『はーい、こちらアイの携帯っすー』
出てきたのは限りなく呑気な声だった。聞き覚えのある男の声、鳳輔だ。
『あー正善兄さん? 悪いんですけど、アイは携帯ほっぽって今トイレに行ってますね。ちなみに我々、単にフード店でバガってただけなのでご安心を』
「じゃあすぐに愛美は戻ってくるんだな!?」
『ぅえっ!? ……ええまあ、便秘でもない限りはそうでしょうけど。それより正善兄さんに話したいことあるんスよ! この前、俺のチン……』
「愛美を連れて逃げろ! 今すぐだッ!」
『えぇえ……?!』
当然のことなのだが、何を言っているのかいまいち理解できていないような声が返ってくる。そんな暇はないのに、と正善が奥歯で自分の舌を噛みながら顔を歪めた。
『ど、どうしたんスか。正善兄さんってそんなにアナーキーな冗談を言うヒトでしたっけ?』
「言うタイプじゃないって知ってるなら、俺が嘘をついていないことくらい分かるだろ……!?」
『……それは、そうスけど……急に逃げろなんて言われても、アイは多分本気にしないと思いますが』
それはその通りだろう。命の危機が迫っているなんて言われても、「誰が?」「どうして?」「何のために?」という疑問をぶつけてくるに違いない。
『何があったんですか。その声からして冗談じゃなさそうですよね……?』
「………………」
上空に滞留した冷たい風を浴びながら、正善は一秒間だけ思案した。真実を話せばむしろ信憑性が減るだろう。だが妹の命がかかった状態で気の利いた作り話を考案できるほど、今の自分は冷静じゃないとも分かっている。
「……魔法があるって言ったら、信じるか……?」
『はぁ……!?』
「この世界に魔法があってッ、俺が魔法使いでッ! 別の魔法使いが愛美の命を狙っているから、さっさと逃げろって言ったら、お前は信じるのかッ!?」
携帯から聞こえてくるのは沈黙だけだ。鳳輔は携帯を耳に当てたまま、この理解できない発言をどうにか咀嚼しようとしているに違いない。
どれだけ深く考え込んだとしても、正善の気が触れたという結論以外に、辿り着く先など無いのに。
「頼むよ鳳輔! あいつの命がかかってるんだ! 俺のことをどれだけ頭のイカレた奴だと罵ってくれてもいい、とにかく今だけは俺の言うことを聞いてくれ……!」
『………………ええっ……と……アイを連れてどこかに逃げたらいいんですよね?』
疑問符は浮かび続けるが、とにかく今は言う通りにしておこうという意思がこもっていた。
「ああ、すまない……」
その時、正善は思い出す。
例えアイを逃がすことができたとしても勝利に繋がるわけではない。自分の命を賭して立ち向かわなければ美奈子を止められないのだ。
アイの行方がどうなろうが、自分は生きて帰れないかもしれない……。
「…………愛美のことを頼んだよ。俺の代わりに守ってやってくれ……。あいつの一番近くにいた鳳輔にしか頼めないんだ……!」
『……正善兄さん……』
言うべきことを言い終えた正善は、電話を切り、再び全速力で美奈子を追う。
眼下を過ぎ去っていく景色は、いつの間にかどこかで見覚えのあるものに変わりつつあった。ひと気の無い公園も周囲の景観から浮いている駄菓子屋も、懐かしき登校路も3年前のままだ。
遥か彼方を飛んでいた美奈子が急に速度を落とし、何の変哲もない道路へと着地する。その傍らに建っている電柱には薄青色の街区表示板が取り付けられていて、かつて正善が住んでいた町名がはっきりと書かれていた。
「さァて、燻し出すか……」
爬虫類のように眼球をぐるりと回して周囲の状況を把握し、美奈子は大きく杖を振った。その先には紅色の焔が燈り、彼女の魔力によって次第にその勢いを増して――。
彼女が杖を振り下ろすと、周辺の民家に業火が咲き誇った。
燃え盛る民家の中からは絶叫にも近い悲鳴が轟き、家の中からは住人たちが大慌てで転がり出てくる。その一人一人の顔を確認し、以前に正善から見せられた妹の顔と一致しているかを確認していく。
それと時を同じくして、正善も地に降り立った。そして杖の先を剣に変換し、銀色一閃に美奈子へ切りかかる。
全力の一撃は軽々と杖で受け止められ、正善は腹を蹴られて後退させられてしまう。
「……坂浦ッ! ここまでする必要がどこにある!? お前はどれだけ罪を重ねれば気が済むんだ!?」
二度三度と切りかかるも、彼の軌跡は既に読み切られていて、悉くが虚しく宙を斬る。
美奈子が放った炎弾が腕を掠め、その熱さで蹈鞴を踏んだ瞬間、接近してきた美奈子が正善の土手っ腹に杖の先を埋める。
そしてそのまま魔力を込め、杖の先を槍状へと変化させた。
「……ッ、ぐ、ぉあ……ッ」
槍は腹を貫通し、臓器を抉り潰す。今までに感じたことのない激痛と嘔吐感が彼を襲い、血を失ったことにより視界の明度が下がっていく。
「黙ってろ偽善者。あたしの復讐の邪魔をするなッ! てめぇは大人しく妹を差し出せばいいんだよッ! 兄妹一緒にクズ肉にして殺してやるッ!」
槍を力任せに引き抜かれて、勢いそのままに鮮血が舞い散った。支えを失った正善の体が崩れ、その場に膝をついてしまう。
復讐の邪魔をするなと彼女は言ったが、本当はもう復讐なんて終わっているはずだ。虐めの首謀者を壊したあの時、彼女の過去にはケリがついたはず。
「ぐ……ッ」
腹から夥しい血を流しながら、正善は炎上する街の光景を見た。ひとたび燃え盛った火は次々と引火し、辺り一面を地獄へと変貌させていく。
その中に、『坂浦』という名前が刻まれた表札を発見する。
「………………」
その瞬間、正善は理解した。
彼女が本当の意味で復讐したかったのは、虐めの首謀者ではなく、自分の人生を狂わせた離婚そのものなのだ。だから無意識的にこの場所へ降り立ち、かつて自分が住んでいた家を消してしまいたかったのだ。
でも彼女自身はその事実に気づいていない。
狂気的な笑みで高笑いする彼女が、まるで泣いているように見えた。
(俺が……こいつをッ、止めてやらなくちゃならない……!)
それだけが、心を壊してしまった彼女に送ることができる唯一の手向けだろう。自分の本心すら理解できなくなってしまった暴走者には、その蛮行を止めてやることが唯一の救済なのだから。
しかし、勝つ手段が皆目見えなかった。魔力は美奈子のほうが上、戦闘のセンスも上、更に正善は腹部に重傷を負っているのだ。万全を喫していても困難を極めるというのに、この窮した状況で何ができるというのか。
勝つためには、戦況を動かす『何か』が必要不可欠で――。
「……!?!」
その瞬間、空から何かが飛来し、美奈子の前に落下した。
土煙を濛々と上げて、地面に空いた巨大なクレーターの中心地で『そいつ』は億劫そうに立ち上がる。
「……警戒区域内に侵入した魔法使いを発見」
光の無い目、その手に携えた杖、まだ幼さを残した顔。……正善たちよりもやや幼い少女が、その未熟な見た目とは裏腹に極悪な魔力を迸らせながら、美奈子の姿を見据える。
突如として現れた魔法使いに、美奈子は面食らいながらも――鋭い眼光でねめつけた。
「なんだこのガキ……てめぇも魔法使いか……?」
「問答は不要」
少女の名前はフェンネル・G・ルプルズ。……無人界で通している名前は東松山咲希。やがてクロたちが属する学園祭実行委員会の長となる少女だ。
中学3年生の彼女は未だ親からの洗脳から脱却できておらず、貯蔵した膨大な魔力に接近する者を問答無用で排除する存在だ。
どうして高校生程度の子供2人が魔法使いになっているのか、どうしてこんな街中で殺し合っているのか、そんなことは彼女にとってどうでもいい出来事。彼女に与えられた使命は障害となりそうな存在を殺すことだけなのだから。
彼女は耳に差し込んだイヤホンマイクを数度叩き、両親に合図を送る。
「標的は2名、警戒レベルは低。これより排除に移る」




