15章 あなたに幸せが訪れますように
斜陽によって暮れなずんでいた摩天楼は、いつしか夜の闇に包まれていた。太陽と月が役目を交代しても繁華街の勢いはとどまることを知らず、むしろ飲み屋街なんかは夕方以上の活気を得ているようにも思える。
キャッチとサラリーマンの姿が増えてきて、若者の遊び場は社会人の憩いへと変わっていた。気づけばコスプレじみた女性たちが店名の描かれたプラを持って手を振り、なんだか健全な学生がいてはならないような空間になりつつある。
あれから数時間が経ち、さすがに長話し過ぎて疲れたので、女子たちとは名残惜しくも解散の運びとなった。結局、最後の最後まで名前を聞きそびれてしまったが、恐らくもう二度と出会うことは無いと思われるのでいいだろう。
そして俺たちは――具体的には委員長とアイと鳳輔と俺とハルの5人は、帰路につくべく駅に向かって歩き出していた。
「いやー、他校の生徒の話を聞くのも新鮮でいいね! 他所の校舎に思いを馳せることも時々あったんだけど、これって浮気?」
「あー、浮気スねソレ。学校も怒り散らかしてイルでドープでマッドなチャイムを掻き鳴らすってもんですわ」
あまり正気とは言えない委員長の発言に、鳳輔がものすごく適当な返事をしている。「マジメに返そうよ、いやでもどう返したらいいんだろう」とアイもさすがに困惑気味だが、久しぶりの旧友との語らいができたせいか、どこか楽しそうだった。
その三人の後ろに少し距離を空けて、俺とハルがついて歩いている。
久しぶりに時を忘れて喋り続けたから、今日はもうヘトヘトだ。元々誰かと気安いお喋りをしまくるような立場ではなかったので、マラソン後のような粘り強く清々しい疲労感が纏わりついている。
ハルも同じなのだろう、途中からは口数が減っていた気もする。
俺たち二人の疲労を察しているからか、委員長たちもわざわざ話を振ってくるようなことはしていなかった。
(今日はもう満足だ)
さっさと家に帰って、風呂に入って寝てしまおう。メシはこの際コンビニで買えばいい。ハルの宿題が残っている気もするが知らん、ハルに宿題を出すほうが悪い。
あとはただ、電車に乗って家へと向かうだけ――。
「………………ねえ」
あまりにもか細い声で、聞き間違いかと思ってしまったほどだった。
しかし数瞬を経て、ハルが俺に声をかけたことを理解して、短く返事を返す。喋り疲れた口は、僅か数文字の言葉を口にするのさえ億劫だった。
「さっき、鳳輔の昔の話をしたでしょ。前に悪いことしたから、幸せになっちゃいけないって」
道すがらに設置された看板が、扇情的なネオン光でハルの横顔を照らす。
自然界ではありえないサファイアブルーの発光を受けたせいか、ハルの顔はいつもの健康的なミルク色の肌ではなく、病人のような青白いものに見えて仕方が無かった。
「なんであの時、言い淀んだの」
「…………」
「あの時のクロ、無理してた。それくらい分かる。……ねえ、なんで」
「……無理なんか、してない」
「うそつき」
「………………」
ハルだって、俺と同じ化物だ。
人を殺すために生まれて、人を殺すために育てられてきた。何人もの命を奪って、何人もの未来を握り潰して、今ここに生きている。
だから、心の奥底に宿る葛藤も、この身を焦がす自責の念も、きっと分かっているのだ。
「………………苦しいんだよ」
「…………」
「人殺しでも――化物でも幸せになれるって自惚れると、今まで殺してきた敵たちが、俺の背に現れるんだ。お前なんかが幸せになれるわけが無いって、口々に言うんだよ……」
そう言っている最中も、俺の背後には粘度の高い視線が集中している。そこに死者たちの怨念が渦巻いていることは、振り返らずとも理解できた。
「鳳輔は人間だ。幸せになることを望まれて産まれてきた、本当の人間なんだ。だから、たとえ他人を傷つけたとしても、最終的には幸せを目指すのが自然なんだ」
この後ろ髪を引っ張って、喉を握って、指を掴んで、服を引き裂いて。……現実世界とは異なる形而上の世界で、怨念たちは俺の身に爪を食いこませていく。
「俺は……化物だから。幸せになるんじゃなくて、人を殺すのが生きる理由だから」
分かってる。お前たちの気持ちは、全部分かってるから。
今はひと時の平穏を得ているだけで、魔法界へ戻ればちゃんと幸せを手放すから。
もう一度不幸になるから、安心してくれ。
人を殺すための化物が、幸せになんかならないから。
そう、かつて殺した者たちへ言い訳した。
「……俺は、幸せになんかなれない。恋なんて絶対にできない。……人を、殺し過ぎたんだ」
血塗れの手で、誰を抱きしめるというのか。傷塗れの心で、誰を愛せるというのか。
自分がみすぼらしい汚物に思えて仕方なくて、誰かに触れることすら躊躇してしまうというのに。
「でも、でもな。俺は、お前だけは…………」
本当に伝えたいことを口にしようとして、ハルの顔を見て――止まる。
ハルの両目からは、零れたと言うにはあまりにも大量の涙が流れ落ちていた。
双眸から滴る涙が地面に落ち、彼女の靴先を斑に濡らしていく。
ハルが立ち止まると俺も足を止めて、しかし何も言葉をかけてやることができない。
喧しい雑踏の喧騒で、彼女のしゃくり上げる声だけが、指向性でもあるかのように耳孔に響き渡っていた。
「……っ、う……わ、たし……じゃ……」
涙で言葉が発せない子供のように、途切れ途切れの言葉を彼女は口にする。
「だめ、だった……っ、の……かな……」
何が、と言葉を発しようとした。しかし脆弱なこの喉からは、絞殺される兵士のような音しか出なかった。
化物に、心の機微など分かるはずが。……化物に、泣いている者を慰める方法など、理解できるはずが……。
「………………っ、あー……」
彼女は一度上を向いて、ぐいっと勢いよく涙を拭った。そして一度だけ大きく鼻を啜り、涙で歪んだ化粧を隠すようにやや俯いて、先ほどまでよりはしっかりとした口調で――。
「わたし、寄るとこ……あるから。先に帰ってて」
まつ毛に涙の粒を残しながら、彼女はそう言い放ち、駅とは真逆の方面に向かって歩いていった。
その足取りは弱々しいが、ついてこないでという意思の強さを感じられる。雑踏の波に逆らいながら歩みを進めて、彼女の姿が人波の中に消えていく――。
「ハ……」
その名前を呼ぼうとしたが、言葉が出ない。
呼び止めて、どんな言葉をかければいい? 何を伝えれば、彼女の心に届くんだ?
ハルは、何がダメだと呟いたんだ……?
ああ……そうか、俺のせいか。化物じゃ幸せになれないなんて言ったから、ハルは自分のことを言われたんじゃないかって傷ついたんだ。
違う、違うんだ。俺が伝えたかったのは、そんなことじゃない。俺は幸せになれなくてもいいから、お前だけは……。
「クロくん! ねえ、ハルちゃんどうしたの!?」
俺たちの異変に気付いたであろうアイが、焦ったような口調で問いかけてくる。鳳輔は携帯電話でハルの連絡先を探して、委員長はハルの背を見失うことが無いように雑踏を見続けていた。
「あ……いや、俺、が……。………………」
俺が何をしたと説明するつもりなのだ。
俺が化物だから幸せになれないんだと、バカ正直に言うつもりか?
事情を話すこともできず、吐瀉物のように乱雑な思考ではこの場を誤魔化すこともできず、アイたちの言葉がテレビ越しのように遠くなっていくのを感じるばかり。
これほどまでに人で溢れた繁華街だというのに、自分だけがこの世界に取り残されたような寂寥感が背筋を震わせる。
「ただ……あいつに……幸せになってほしかっただけだったのに……。普通の女の子みたいな幸せを感じてくれれば、それだけで俺にとって……」
胸中を突き刺す悔悟は言葉となって、俺の口から無意識的に零れ落ちていた。そんな俺の様子を見て、アイたちがより一層慌てたような顔になる。
「……っ。と、とりあえず、あたしはハルちゃんのこと追いかけるから、鳳輔たちはクロくんのこと頼ん――」
「待って。それ多分、得策じゃないかも」
今にも走り出しそうだったアイの腕を掴み、委員長が首を横に振った。
「ハルさんは僕と鳳輔くんが追いかけるから、クロくんのことはアイさんにお任せするよ。大丈夫さ、とりあえず話を聞くだけでいいと思うから」
「で、でも、ハルちゃんのことは多分、委員長たちよりあたしのほうがよく知って……」
「うん、それでクロくんのことは多分鳳輔くんのほうが知ってるでしょう? だからこそ、彼をハルちゃんのほうに向かわせた方がいいと言ってるの」
そんな問答の間にも、ハルの姿は遠ざかっていく。このままでは姿を見失い、追いかけることすらできなくなってしまうだろう。
「……分かりました。ハルちゃんのこと、よろしく頼みます」
「ええ、僕たちにお任せを。……さ、行くよ鳳輔くん」
「了解っス。アイ、クロを頼んだぞ」
委員長と鳳輔が走り出し、遥か彼方に消えていくハルを追いかけていく。
残された俺は、何故だか激しくなる動悸に呼吸を乱され、酸素を求めて口で呼吸をしていた。ここまで狼狽したことなんて魔法界では一度もない。人生で一番の動揺を覚えながら、ハルの涙を胡乱にリフレインさせていた。
……メース・M・ハルモニアは、魔法界を蹂躙する化物の一人。無感情な瞳で敵を打ち倒し、涙を見せるどころか、焦燥の表情すら浮かべることなど無かった存在だ。数週間前に水族館に行けなくて泣いた時もあったが、その時だって泣き顔を見せることはなかった。
そんな彼女が、あんなにも無防備に涙を見せることなど……。
「クロくん! とりあえずあっちに行こう、ここじゃ他の人の邪魔になる」
アイが俺の腕を掴んで引っ張ってくる。抗う力なんてどこにもなく、ただ為されるがままに彼女の後をついていくことしかできない。
連れてこられたのは、人通りの少ない高架下だった。周囲に誰もいないことを確認してから、アイが心配そうな様子で俺の顔を覗き込んでくる。
「……何があったの? ケンカしちゃった……?」
「ケンカ……では、ないと思う」
あれは何と言うべきか。……恐らく、失望されたというのが一番適しているだろう。
でも、何に失望されたのか分からないのだ。きっとこうだろうと予想をすることはできるが、どうしてだろう、そこに確信を持つことができない。
「………………俺たち、さ。魔法使いとして生きてきてさ」
「うん」
「あんまりマトモな人生を過ごしてきたわけじゃないんだよ。……さっき鳳輔が人を殴ってしまったって自責してただろ。それよりも、もっとヒドいことをたくさんしてきたんだ」
アイの正体は未だに分からない。敵なのか味方なのか、心を許すべきなのか警戒すべきなのか、彼女という存在は何一つ判明していないのだ。
だから迂闊なことを喋ってはいけないし、自分の過去を語るなんて以ての外。……しかし堰を切ったように、弱音にも近い言葉が零れ落ちていく。
「俺たちは……きっと、許されないくらいの罪を背負ってる。そんな俺が幸せになんてなれないって……あの時、話したんだ」
「……それで、ハルちゃんが泣いちゃったんだ」
何かを吟味するように、アイが腕を組んで空を見上げた。
「でもさ、悲しむのも当然だよな。俺に幸せになる権利が無いって言うなら、同じ境遇のハルだって当て嵌まるんだ。……ハルにも幸せになる権利が無いって言い放ったようなものなんだよ」
こんなにも自分の言葉が空虚に思えることなんて、今まで一度も無かった。安易な答えで自分を納得させ、僅かな違和感を欺瞞で塗り潰そうとしているかのよう。
ハルがそんなことで泣くような奴じゃないって、本当は分かっているのに。
「それくらいじゃ、ハルちゃんは泣かないと思う」
俺の思っていたことと全く同じ言葉を、アイはきっぱりと口にする。有無を言わせることの無いくらい色濃い確信が宿っていた。
「ハルちゃんとの付き合いはまだ短いけど、多分、そういう時に怒るタイプだよね。それで鳳輔の話した時みたいに、そんなつまらないことで悩むなって顔してくると思う」
「………………」
「あたし、ハルちゃんの考えてること、多分わかるよ」
「え……?」
高架下から見上げる夜空には、月を覆い隠すように曇天がひしめいている。胸中の靄を現しているかのように、やがて雨模様へと繋がるような空へと変わっていた。
そんな空を見上げながら、アイは誰かに語り掛けるわけでもなく、独り言ちる。
「分かるなぁ。……理解してもらいたい相手に伝わらないのは、一番辛いもんね……」
彼女は誰の顔を思い浮かべているのだろうか。多分ハルのことではなく、別の誰かを思い浮かべているのかもしれない。
「……ハルちゃんね、言ってたよ」
アイは俺の裾を一度離し――今度はもっと強く握った。ここからが本当に伝えたい事なのだと、俺に伝えているかのように。
「クロくんがいて良かったって。……いつもありがとうって思ってるって」
彼女が諳んじている言葉は、勿論のことアイの声色だ。
でも……ハルが今ここで喋っているかのように感じる。
「一人じゃきっと今まで生きてこられなかった、クロくんがいたから生きていられた。……何もできない自分をいつも助けてくれて、だらしのない自分に愛想をつかさないでいてくれて、恥ずかしくて真正面からじゃ言えないけど誰よりも感謝してる」
「…………」
「だから、クロくんには幸せになってもらいたいんだ。私は幸せになれなくてもいい、クロくんが幸せになれるならそれだけで満足だって。……そのために少しでも力になりたくて、色々なことを手伝おうとしたけど、ダメな自分には何もできない。……何も力になれない自分が嫌で、申し訳なくて……いつも悲しい気持ちになるって」
違う。
何も力になれないんじゃない。……力になろうと頑張っている彼女に報いなかったのは俺だ。
彼女は何度だって言っていた。家事を手伝いたいとか今日は自分がやりたいとか。それは探求心とか好奇心に由来するものだと思い込んでいたけれど……きっとハルは、少しでも手伝えないかと頑張っていたんだ。
家事とかそんな雑務で時間を浪費させないで、幸せになってもらいたいから。
この世界にいられる僅かな時間を、楽しく過ごしてほしいから。
……まるで走馬灯のように、彼女と過ごした時間が蘇っていく。
『なんか、毎日たのしい。……ね、クロ』
『クロ、あれ見て! ね、楽しそう!』
『私たちの楽しい時間は、今しかないんだよ……』
楽しいことを見つけた時、彼女はいつだって俺の名前を呼んでいた。少しでも楽しいことを共有して、俺に幸せを感じてほしかったから。
残り僅かな時間をどう過ごしたらいいのか。考えて出てきた答えはとても安易で、水族館とかの楽し気な施設に行くこと。安直だが彼女にとっては絞り出した答えも、金銭的余裕というつまらない理由で無碍にしてしまって。
彼女の真意に気づけず、俺は、何も報いることができなかった。
それでも彼女はめげずに、せめて家事を手伝うことで俺の負担を減らそうと思って、頑張ろうとして。
でも……俺よりもよっぽど化物らしく生きてきた彼女には、家事のやり方すらも分からない。
力になれないと自分を責めて、それでも俺が幸せになれるように頑張って。
……そして今日、裏切られたのだ。
幸せにしようとした相手が、幸せになれないと断言した。それが、どれだけ彼女の心を傷つけたのだろう。
『私じゃ駄目だったのかな』
涙を流しながら、ハルはそう呟いていた。
どれだけ家事を頑張ろうとも、楽しいことを共有しようとも、楽しい日々が送れるようにはしゃいでも、届かないと悟ったのだ。
自分が無力なのだと、自責の念に駆られて――。
「違う……違うんだ……」
無意識にそんな言葉が零れ落ちていたが、何が違うというのか。
どんな言い訳を並べたところで、あれが本心だったことは否定できないのに。
「俺は……自分のことなんかどうでもいいんだ。幸せになれなくてもいい、そんな権利なんてないと……今でも思ってる」
亡霊どもにこの後ろ髪を引かれる限り、その考えは変わらないだろう。
「だけど、あいつには幸せになってもらいたいんだ。もっと今を楽しんで、普通の女の子みたいな幸せを感じられて……それだけで、よかったんだ……」
俺のことなんかどうでもいい、ハルが幸せになれればそれだけでいい。
俺よりもよっぽど酷い過去を背負ってきた化物なんだ。……この世界にいる時くらい、普通の人間としての幸せを享受してもらいたいんだ。
ただそれが伝えたかっただけなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「……滑稽な話だね」
言葉の内容とは裏腹に、アイはとても優しい口調で呟いた。
「どちらも相手が幸せになればいいと願っていて、自分のことなんかどうでもいいって思ってる。……同じことを考えてるのに、ほんの些細なことですれ違って……たった一言伝え合えばいいだけなのに、バカみたいな話」
「……そうだな。本当にバカみたいな話だ」
「でも、きっとみんなバカなんだよ」
俺の裾を掴んでいるアイの手が、僅かに震えていた。彼女の発している言葉も、その小さな体躯も、全てが恐怖を感じたかのように震えている。
「あたしもバカだもん。一番伝えたいことを、一番伝えたい相手に言えない、本当のバカ」
「……」
きっとまだ、俺たちはガキなのだ。自分のことも相手のことも何一つ分かっちゃいなくて、分かったふりをしながら欺瞞と共に生きていく。やがてその僅かな違いが不安定なかみ合わせとなって、致命的なすれ違いへと変貌してしまう。
化物であっても、人間であっても、それは変わらない。
「……クロくんも、鳳輔と同じだね。自分を幸せにできない人なんだ」
「そう……かもな」
「それなら、ハルちゃんに幸せにしてもらいなよ」
軽い口調で言い放たれたその言葉の意味を、俺は、どう捉えたらいいのか。
何と返答したらいいのか分からず押し黙っていると、アイが「変な意味じゃないよ」と小さく笑う。
「自分は絶対に幸せになれない人間だ、なんて思わないで……もしかしたら幸せにしてもらえるかもしれないって考えるの。自分では埋められない幸せへの道を、誰かが救ってくれるかもしれないって期待するの。……それくらいなら、どんな人でも……願っていいよね」
最後の言葉は、俺にだけ向けられたものではなかった。
化物と呼ばれ、かつては大量の人を殺してきた俺とハル。
暴力事件を引きずって、自責の念に囚われ続けている鳳輔。
そしてきっと……兄の事件から未だに逃れられないアイ。
誰しもが心の中に黄昏を抱えていて、誰しもが幸せになれないと思い込んでいる。
だけど、誰だって……幸せになりたいと願う権利なら持っているのだ。
「どんな人でも、どんな魔法使いでも、幸せになる権利はあるんだよ」
……化物にだって、幸せになる権利が……あるのだろうか。
俺の首に絡みつく亡霊の力が、少しだけ、弱くなった気がした。




