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恋する二人は許されない ~敵国王子と化物王女の現世青春~【毎日更新】  作者: 雪林りん
シーズン4 ~人生という名のエチュード~
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1章 異形犯罪譚

 異形犯罪譚というテレビドラマが放映されたのは、10年以上前のことだ。

 放映時間は日曜日の夜25時から1時間、脚本兼監督は『土居(どい) 隆書(たかふみ)』、主演は『芝原(しばはら) 衛(まもる)』。当時の徳栄テレビにしては珍しく悪役を主役としたピカレスクドラマとなっていて、今までの視聴者とは全く異なった層へ向けた内容となっていた。


 放映前に、評論家が事前知識のみで語った内容によれば――『正直コケるだろう』という一言。主演は話題の若手俳優でもなく、男性視聴者層に訴えかけるヒロインもおらず、予算も潤沢ではなくて、時間帯も社会人には厳しい頃合い。元々監督が上層部に頼み込んで実現した企画で、テレビ局的には深夜の穴埋めとして適当にGOサインを出したものなのだから、誰からの期待も受けないのはある種当然と言えよう。


 記念すべき初放映を迎えて、最初に寄せられた感想は『あまりにも残虐すぎる』というクレームだった。


 タイトルが異形犯罪譚ということもあり、日曜日の夜25時という時間帯にしても中々にショッキングな内容だったのだ。主役は徹底した悪役思考で、露悪的なまでにブッとんだ行動原理の持ち主。合間合間のグロテスクな描写も妙に力が入っていて、登場キャラクター各位に救いはない。それでも登場人物が軒並みクソッタレだったこともあり、グロと暴力が吹き荒れる度になんとなくスカッとしてしまうのが本編の持ち味だ。

 世間では言いづらいことも躊躇なく吐き捨てて、暴行罪や傷害罪なんて知らないかのように暴力沙汰の乱舞、物は盗んで人は騙し、最後には壮大すぎる大仕掛けでド派手に高笑い。あまりにもナンセンスで非倫理的で、不条理で不義理で、それでもどこか爽快感。そんな主役の評価の一端を担ったのが、演者である芝原衛の狂気的とも呼べる演技力だっただろう。これが芝居であることを忘れさせるような鬼気迫る表現力はクレームを上回るほどの大絶賛を受けたのだ。


 映像の倫理を担う組織に苦言を呈され、PTAからの抗議を山ほど受けたにも関わらず、主演の演技と一級品の脚本によっていつしか異形犯罪譚はカルト的人気を得ていく。

 放送前はあれほどまでに低評価だった本作は、放映終了後に急遽映画化が決定し、更には劇場版の大ヒット御礼を申し上げた上で続編である『狂乱犯罪譚』や『非道犯罪譚』が発表されていく。


 主役である芝原衛は本作のヒットを切っ掛けに、映像界の名悪役として知れ渡るようになり、犯罪譚シリーズ以外でもヒールとして重要な役どころを獲得していく。

 脚本兼監督である土居隆書も本作のヒットを皮切りに、テレビ局内での地位を高めていき、制約に縛られず彼の思うがままに映像を作ることが可能になっていった。


 全てが順風満帆、誰もが幸福。


 しかしその裏で、事件は起こっていた。

 主役である芝原衛の家庭内暴力。

 脚本兼監督である土居隆書の更迭。

 そして、その2人の絶縁。


 あれほどまでに潤滑だった歯車はいつしか軋み、手の施しようがない軋轢を生みだしていた。

 その事件以降、犯罪譚シリーズに2人が関わることはなくなり、制作メンバーが一新され――完全に方向性を見失った内容に多くのファンは落胆し、誰にも望まれないファイナルシーズンの放映によって物語の幕を閉じた。それからは時折、初期の映像作品が話題に上がる程度で、誰もが本作品のことなど忘れて今を生きている。


 それが映像界で発生した、逃れようのない盛者必衰の一部始終。もはや語る必要すらない、どこにでも有り触れた終焉の一端だ。



 だが、未だにその一件は4人の人物へと楔を打ち込んだままだ。

 芝原衛と土居隆書、そして彼らの息子と娘。世間が全てを忘れても、当事者は一生忘れない。


 彼らの子供たちは今、クロたちと同じ高校へと通っている。消し切れない過去のしがらみを心に抱えたまま、演劇部という親の仕事に酷似した部活で今日を生きている。

 そんな日々が終わるまで、あと半年もない。卒業を目の前に控えて、後はただ、高校生活の後始末をどうつけるか悩むだけ。



 ……彼らがクロたちと出会うまで、あと数日だった。

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