11-6.
気が付けば俺は風呂場の椅子に座らされていた。
湯気の向こうからスポンジが肩に当たる。
「いやぁ~旦那。良い体してますねぇ」
やけに板についた声色だった。
「さぞ泣かせたんでしょ? 御婦人達を相手に?」
「さぞ泣かされたんですよ。御婦人達を相手に」
即答した。
背中を流しながら玲奈が感心した声を出す。
「でもほんと良い体してますなぁ」「どこを見ている?」
「怪我の回復確認です」「医者か?」
「恋愛専門医です」「そんな診療分野ない!」
玲奈も全身を洗うと湯船に足を入れる。
「恋愛専門医なのでマウストゥマウスは得意」「まだ言うか!」
ちゃぷん、と体を滑り込ませると揺れる湯がせり上がる。
「特別サービスがありますぜ、旦那」「だから旦那じゃない」
「この、ふたつ、ぷかぷか浮いているこれ、触り放題好き放題サービス中です」
「自家用風俗か! 閉店しろ!」
嬌声に満ちた浴室から心臓麻痺寸前で出た。
凄い疲れた。身も心も疲れた。風呂はゆったりリラックスの場でなかったか?
「よしっ、行こうか」「どこに?」
まだ続くらしい。
「二人で愛の一つ手前まで!」「まだ言ってるの?」
バスタオルを身体に巻いた玲奈が、ランジェリーと二人分の着衣を小脇に抱え、俺の部屋目掛けまっしぐら。ベッド手前で急に立ち止まると、ぐいっと手を引きながら倒れ込む。
玲奈の上に俺が覆い被さる体勢。
これは、ラブコメに良くあるシチュエーション。
「ストップ掛けるまで、私を好きにして良いよ」
「ゔん では、いただきます」
数少ない知識を総動員した。キスして、甘い言葉を囁き、真面目に頑張った。
突っ走りそうなのを我慢して頑張った。
頑張ったが、玲奈は俺に気付かれない様にずっと含み笑いを続けていたと思う。
試しに頬を突くと、今にも吹き出しそうになっていた。小憎らしい。
「玲嗣の象さんって、大きくてあついね」「うん。良いかな?」
玲奈の両脚を広げて位置すると上体を被せながら意思確認。
恥じらいの答えか、ギャグ路線か。
俺を見詰める潤んだ瞳の玲奈。
力を込めようとする腰へ玲奈の両手が添えられた。
突撃前進を促すのではなく、骨盤の前面両端をがっちりと掴んでホールド。
「ストップ。ここまでだよ」「え?」
玲奈の体温を感じながら、まさかの先っちょ足止め。
困惑を隠しつつ何故なのか聞いた。
「子供出来ちゃうから」「心に大きな大~きな傷を負うよ」「まだ私を養えないでしょ」「生涯消えない黒い歴史を刻むつもり?」
言葉の弾幕を張っての完全拒否。
「いつになったら、良いの?」「いずれね」
「いずれって、いつなの?」「もっと後でね」
感情の食い違いでの拒否とは違う、良く分からない理由が立ちはだかっている
感じ。
「何故なの?」
「互いの将来も考えずに簡単にヤラせる、頭とお股のユルい女が良いの?」
「答えになっていないよ」
浴室でのコメディなどないシリアスさ。
「キスしても、全身を好きにされても良い。玲嗣が望むこともしてあげる。
でもね……」
息継ぎしたか言い淀んだか、途切れる言葉。
「お互いの生殖器を交尾して配偶子を送り込む繁殖行為は絶対ダメ」
生物学的学術表現で拒否。情緒などこれっぽっちもない。
「このまま腰に力を込めると、中に入るよ」
少し意地悪を言ってみた。どう答えるか。
「トンネル貫通させない。もしやったら、象さんの鼻と球根ふたつを根元で
切り落とす」
ほ~ら、怖いぞぉ、象さんだけに怖いぞぉ。
冗談交えた威嚇。でも目は笑っていない。
「玲嗣の初めては私以外の好きな人の為にとっておきなさい。恥ずかしい事じゃ
ないよ」
とは言え、収まりが付かないと察したか、玲奈はあんな事やこんな事、高校生にとっては刺激に富む夢の様なけしからん事まですると、猛り狂う象さんの爆破処理まで完遂した。




