11-7.
「また、二人きりで、色々しましょうね」
こくこくと首肯するだけの俺は舞い上がっていたと思う。
日本を代表する美貌の持ち主にして世界に挑むモデルから誘われ、ひとつベッドの中、あれやこれや、どピンクな関係に至ったから嬉しくない訳がない。
家の前に車が止まる音がした。
「また、必ず ね」「うん」
体温と柔らかさを伝えた玲奈の唇が離れると微笑みを貰った。
俺の記憶に刻まれた麗しい唇から告げられた惜別と続く言葉は懸け離れる。
「急っそげえぇ~! バレちゃうぅ~!」「ヤバいぞ!」
二人で早着替えして、着衣の乱れがないか互いに指差し確認すると、爆破処理現場の復旧確認をして玄関に向かう。
「お帰り」「渉さん、咲紗、お帰りなさい!」
何事もなかった様に惚けて出迎える俺達。
「ただいま」
「只今戻り――、……? 玲奈、玲嗣さん、何かありましたか?」
「へ? 別に何もないよ」
すっ惚けた玲奈が父のカバンを持って下がると、俺の腕に掴まる咲紗が聞く。
「あれっ? シャワー浴びましたか? ボディソープの香りがします。玲嗣さんも玲奈も」
「あ、うん。買い物や用事であっちこっち振り回されて汗かいたから、ざっと
浴びた」
何とか上手く取り繕った。
「そうでしたか。外は涼しいですが、とても激しい御用件だったのですね」
やはり咲紗は鋭い。
その後も玲奈との間では秘め事が頻繁に続き、一線を超えようとする俺を手玉に取る玲奈とのピンク色の攻防戦が続き、頻度も増している。
「私の彼氏が良い男だから皆見ているよ!」
一緒に街を歩けば、いつも玲奈が言う。
隣でお揃いのキャップ以外ノーガードの玲奈は、俺の腕に抱き付くとニコニコしながらボールが弾む様に歩く。彼氏である俺は気になって仕方ない。身バレではなく、ネガティブな感情から向けられる視線が気になる。
羨望、嫉妬、悔しさ、不公平感……。勘繰りを秘めた視線に射抜かれる感覚に捕らわれながらも理解した。
受け手がそれら視線を勝手に嫉妬だと解釈した瞬間に優越感が産まれるのではないかと。
もしそうなら、かなり凄いものだ。人によっては取り憑かれたり、中毒になったりするだろう。
「桜丘華子の彼氏だなんて、なかなか気持ち良いものでしょ?」
心の中を読み取ったのかと思える質問。
「う~ん、ちょっと違うかな」
首を横に振ると、怪訝そうに覗き込む玲奈に言う。
「俺は玲奈に照らされているだけだよ。どーだ俺様凄いだろう、なんて勘違いはしない。それよりも、俺の彼女でいてくれる玲奈の素晴らしさを褒めたい」
「ん? ん? どゆこと?」
眉を寄せ、小首を傾げ、本当に分かりません、の表情で覗き込む玲奈の視線を外さず言葉を続けた。
「学業はトップ争い。モデルで着実に実績を積む。寛ぎたい筈の家でも家事の手を抜かない。それらが辛くても、苦しくても、逃げずに前に進もうとする玲奈は、見上げた人だと尊敬している。そんな凄い人から彼氏と呼んで貰えるのは俺だけの勲章だよ」
怪訝に様子を窺っていた玲奈の表情が瞬時に満開の笑顔になった。
「私を正しく評価してくれた! ありがとう玲嗣! 大大大好き!」
周りなど気にせず、溢れる感情のまま玲奈が全身を投げ出して抱き付いてきた。
俺の後頭部からゴチンと音がした。
「嬉しいよぉ、ありがとぉ。流石私の自慢の彼氏だよぉ」
後頭部の痛みより、周りから滝の様に注がれて突き刺さる視線の方が遥かに痛い。起き上がると、俺の手を引いて立たせようとしながら玲奈が賞賛する。
「さっすが私の彼氏様だよ! 凄くエッチなだけじゃなかったんだね!」
「大勢の前だ! 一言多いよ!」
玲奈との親密な仲に暗雲が忍び寄っていたとは、この時まだ気付かなかった。




