12-1.
「玲嗣と同じ大学へ入って、二十四時間傍にいる予定だったけど、それは咲紗に
任すわ」
掌を反す様な言葉が冷たく耳に響く。
俺、咲紗、玲奈は、海外進学コンサルタントの元へ通い、二年生中盤から続けていた海外進学の準備を着々と続けている。俺と咲紗はアメリカ東海岸にある世界有数の工科大学を第一志望として、国内の理系大学を滑り止めとして受験することを決めた。
同じ地域の大学へ、との俺の見込みに反して、玲奈は予てから口にしていた
スイス連邦チューリッヒの工科大学に進学すると言う。
「学費が安くて通常の倍近く勉強詰め込むコストパフォーマンス最高!」
「口から餌詰め込まれるガチョウか? 玲奈のフォアグラは腹黒くて不味そうだ」
毒づく咲紗と何だかんだと言い合っている玲奈の留学先が、父の会社の海外拠点と一緒なのは偶然だろうが、その大学を選んだ理由は今ひとつ釈然としない。
その点を訊ねれば、伝統あるメゾンのコレクション出演へのチャレンジを再開させたい、その拠点として足回りが良く、治安も割合落ち着いている街だから、と
説明された。
結果発表は一月末なので、高校の卒業式までの期間に現地へ乗り込み住環境を整えたら、フランスやイタリアへ脚を伸ばして見学しつつの営業と、モデルエージェントへの売り込みで歩き回る。十月からの学期開始までに、大学近辺の私立語学学校の予備コースを受講して高度なドイツ語に慣れておく。玲奈は淀みなく言った。
俺は笑顔で落胆した。
関係が終わる諦めの予感で打ちのめされた。
自分の将来について計画立案と実行方法まで具体に計画している。
来るべき新生活を楽しそうに話す彼女を見れば彼氏も嬉しくなる。
無理だ。ならない。
俺への興味がなくなってしまったのか? 所詮その程度の関係なのか?
玲奈にとっての価値、優先度での選択の結果だろうか?
玲奈が手の届かない存在になってしまう。
狼狽えている自分に気付いた。
「玲奈、これが最後なら、俺にくれないか」
「玲嗣の事は本当に大好きなの。でもね」
前置きした玲奈は言う。
「愛情表現なら何されても嬉しいし、何でもしてあげるけど」
帰国した時の為家具類はそのままに、持ち出す身の回りの物は梱包され、当座不要な調度品は片付けられて広く見える部屋。隅には空輸される箱が積まれている。
「一線を越えるのは絶対駄目」
玲奈のベッドで上に位置して説得を続けているが、本気で拒否する理由が分からない。俺の腰を玲奈の両手が捉えて拒み続けている。なぜ駄目なのかと聞けば、まだ言えない。でも、必ず教えるから、と言われて濁された。
玲奈の手を払い除けて力尽くで奪う事も考えた。
それは相手の心も身体も傷付けて蹂躙する卑劣な所業。
愚者の自己満足でしかない強姦そのもの。俺は獣ではない。
本当にあそこを切り落とされるかも知れないし……。
「その代わりに、気持ち良くしてあげる」
腰を捻って象さんから逃れた玲奈が上になると、柔らかな唇で俺の全身にキスの感触を残したが、一通り終わると察したか言う。
「期待に応えられないけど、これで許して」
玲奈に下半身の衝動を任せた。
「今日のこれも、誰にも言わないでね。私達だけの秘密だよ」
爆破処理の名残りを包んだティッシュをトイレに流した玲奈。
全裸でベッドに滑り込むと、咲紗とは違う甘い香りが鼻腔に広がる。
「ここまでで止めておいて良かったと思える日が必ず来るから。ねっ?」
憎らしいまでに晴れ晴れした笑顔。永遠に記憶に残しておきたくなる。




