11-4.
「ねえ玲嗣、私と一回ヤッてみない?」
「いや、それ、流石に恥ずかしいって」
突然言われた。
「大丈夫大丈夫、最初はみんな緊張するから」
「怪しく聞こえるよ。何の話だよ!」
猥褻ではない……。はず。
「お願い! 先っちょだけで良いから!」
言い方が猥褻。
「撮影した動画で後からお楽しみもOKだよ!」
終わりなき一人猥談。
頼みがあるの、と玲奈が差し出した動画撮影企画書。
「最初は分からないだろうから、私が手取り足取り教えて、あ・げ・る」
「お おぅ……。って、言い方だけ全部アウト!」
手にした企画書を読み込む。内容は驚くほど――、
「ほら、健全でしょ?」
「だったら最初からそう言え!」
「え? でもその方がお願い聞いてくれそうだったし」
「エロネタに靡くとでも思ったか?」
深く何度も頷く玲奈の達てのお願いと、ギャラ現金で手渡しに屈し、渋々
リリーフモデルとしてスポット参加した。
一緒に向かった撮影会場は結婚式場。
挨拶が終わり別室でメイクと衣装を整える。撮影機材の調整として言われるままテスト撮影されていると大きな声が聞こえた。
「新婦役、桜丘華子さん、入りまーす!」
「済みませーん、お待たせしました!」
扉の向こうから聞き覚えのある声。
――え?
人間の心は大きな衝撃を受けて処理能力を超えると、一切の表現が出来なくなる事があるらしい。俺は身をもってそれを体験した。
音もなく扉が開く。最初に見えたのは、白いドレスの裾。
視線をゆっくり上げる。現れたのはウエディングドレス姿の桜丘華子。
「あは、新郎が固まってる~」
くすっと笑われた。
様々な場面で美しさに見惚れていた。その度、脇腹に肘鉄の小さな衝撃。
「前見て」
桜丘華子は、撮影スタッフと数多く言葉を交わし、ドレスの裾や指先の位置までミリ単位で拘りながら、俺も引き立てようと細かく指導する。
洋装での撮影を終えると、再び大きな衝撃に見舞われた。
幻想的。ただその一言。
白無垢姿で俯き加減に静かに佇むその姿。
ゆっくり視線が上がる。その視線に絡め捕られた俺は動かぬ和服人形と化した。
様々な場所で、多彩な表情で、求められる雰囲気を素早く表現する彼女に見詰められる度、心臓が止まりそうになる。
「ほら、玲嗣、ちゃんと動いて」
俺は小声で叱られながらも、NGを連発しながらも、何とかやり遂げた。
肘鉄の御指導の賜物だったが。
「まぁ、いいや。ウエディングドレス着て、一緒にバージンロード歩いたから」
「何度も心肺停止になるかと思った。俺も一生忘れられない良い想い出になった」
玲奈、俺と本当の結婚式を挙げよう。
伝えたかった。でも、流石に言えなかった。
関係を深めたいが、まだ高校生と身の程は弁えていた。
「咲紗と父さんが待っている。そろそろ帰ろうか?」
「そうだね。あぁ、今日は楽しかった~!」
結婚式場の広報が拡散を開始すると、SNSで驚異的なスピードで広まった。
『桜丘華子に謎の新郎』『桜丘華子結婚か?』『桜丘華子渋谷の真中で愛を叫ぶ』
『プロモーションの一環か』『トップモデルの相手は驚愕の謎美男』
『桜丘華子熱愛発覚』『トップモデルご乱心!』
桜丘華子の話題は跳ね上がり、ニュースサイトに取り上げられた。
謎人物扱いの俺に間髪を入れず届くメッセージ。
個別カウンセリングのお勧め。
外来予約方法の御案内。
無料メンタルケア開催。
……言うまでもなく看護師軍団から。
生涯一度のリリーフモデルなのに……。




