11-1.
「父さん、暗に認めたね」
「困った方を見捨てておけない旦那様の事です。玲奈に弱みを握られて」
「咲紗、安いドラマ路線になってないか?」
君達が社会人になる迄に説明する。 父はそう言った。
冗談扱いか、全否定が今までの父ならば、今回ばかりは違った反応で返されたので認めたと思った。玲奈との関係がどうなのかは分からない。ただ、期限を社会人になる迄にと設定したのが気になる。
「あら、私のいない所で内緒話? 油断も隙もないのね。トイレにも行けないわ」
背後でパタンとドアが閉まった。
その音に、俺と咲紗の肩がびくりと揃って跳ねた。
休日。俺と玲奈の予定が空白。在宅の父が外出しろと言う。
この条件が満たされた今日、久々に玲奈とデート。
目立つ事もない服装だが、玲奈にマスクとサングラス、ジェットキャップを目深にと言われるままの俺。玲奈は日焼け止めだけのノーメイクにお揃いのキャップだけでノーガード。
ずっと手を繋ぎ、腕を組み、抱き付かれ、ツーショットを自撮りし、街中を
漫ろ歩く。
「ここっ! ずっと前から良く来ていたの」
玲奈と俺それぞれに、うんざりする程のスカウトを払い除け、脇道をゆっくり上がったビルの二階にあるレストラン。焼けた小麦と炒めたニンニクの香ばしさと室内の設え。見渡した店内から記憶が繋がった。
この店、子供の頃に来たかも知れない。
「いらっしゃいませ、和泉様」
俺達を出迎えた名札に “Capo Cameriere” とある老齢のホールマスターは俺を見ずに玲奈を向いて挨拶している。なぜ玲奈が和泉?
「今日は私の大切な彼氏を連れて来たの」
「左様で御座いますか。ようこそお越し下さいました」
俺と玲奈は慇懃に挨拶するフロアマスターが示す静かな奥の席に通された。
「ここ、高いの? そんなにお金は」
「大丈夫。ランチはそんなでもないよ」
差し出されたランチメニューの常識的な金額に安心した――、のも束の間。
「あとは、カポナータもいっちゃおうか。あ、トリッパも好きなんだよね。パルミジャーノレッジャーノ多目が美味しいんだ。あとはね――」
「待て待て、ちょっと待て。そんなでもあるだろうよ」
玲奈が底なし胃袋を満たそうとすれば、ランチ価格でも大丈夫じゃない。
俺は御曹司だが、小遣いは庶民だぞ。
「はい、玲嗣。あーんして」
「あ……、あーん」
フォークに綺麗に巻かれたパスタを差し出された。
恥ずかしかったけどパクッと。
「うん、おいひぃね」
「…………」
「ゔ」
第六感が俺に備わっている事を初めて知った。多分玲奈はこう言いたい。
私にはしてくれないの?
焦ってぎこちなくフォークを操って大きな巻きになったパスタ。
巻き直そうかと手を止め上目遣いで窺えば、大きな口を開けて餌を待つ雛鳥。
「は、はい。あ~ん」
大盛りパスタを差し出せば、奇麗な歯並び全てが見えた。
ばくっ!
見間違えだった。これ、鮫の捕食だ。
「ん~、おいちいぃ~♡」




