10-5.
「はい、お待たせ」
「有難う御座います、旦那様」
咲紗に差し出した昼食は焼きそば。私が失敗しない料理のひとつ。
私が作ったものは有難くて、何でも美味しいと咲紗は言う。
そんな事はない。所詮は男の雑な料理だ。
最初は酷かった咲紗の料理は輝子が丁寧に熱心に教え続けた事と、当人が研究熱心だった事もあり、迎え入れて一四年が経過した今では我が家の味になっている。
嬉しそうに食事を続けている咲紗。
自社の創業初期には生体アンドロイドの製造販売を行っていた。
本来の遺伝子技術の転用で事業化に成功し、研究資金を得る為の副業として始めたが、競合他社との価格競争で利益が減り、人の道に外れる用途に転用されて悲惨な末路を辿る個体が相次いだ事から事業撤退した。自社が送り出した個体もその例外ではなかった。
製造したその個体の用途は歌手、グラビアモデル、通訳。
絶対音感を備え大きな声量でも濁らない透明な声。小柄で少女然とした体格に見合わぬ性的興奮を齎すプロポーション。高度な多言語能力と優れた知能。それらを備えた純生体アンドロイドを送り出した。
異国で瀕死の状態の彼女と再会すると全身に亘りレストアを行い、新しい雇用主へ、それが民間軍事会社とは知る由もなく、送り出した。運命の悪戯か、警護者として我が家へ派遣されてきた戦闘員がその個体だった。
「旦那様、御馳走様でした。美味し過ぎて表彰に値します!」
爛漫な笑顔が咲いた。笑顔の対極にある彼女の過去。
騙されて買い取られ、謀略渦巻く諜報戦でハニートラップの道具として扱われ、仲間から捨てられ殺されかけた。戦場に放り込まれると人間らしい生活とは程遠い環境下、用途外転用の苦難に耐え、過酷な戦闘を繰り返し、数多く殺め、危難を乗り越え、心身共に傷だらけになった。我が家に来てから二度の大怪我を負っても忠義を尽くしてくれる。
「咲紗。大きな怪我もしたけど、今の生活はどうかな?」
「はい。これ程人間らしい生活は勿体なくて、怖くなるほど幸せで御座います」
「それは良かった。いつも有難う、咲紗」
「勿体ないお言葉、クリティカルヒットで御座います」
照れて俯く咲紗の食器を手にすると、わたしがやりますからと身体を動かそうとするのを制した。
キッチンで洗いものをしながら声を掛ける。
「気になるか? 玲嗣と玲奈の関係?」
「玲奈って子が何者か、正直疑っています」
「俺を篭絡しようと狙っているとでも?」
無言で力強く頷く咲紗を見て笑いが込み上げてきた。
「その玲奈について、三人で話をしたいのだが」
何事かと首を傾げる咲紗が、はい、と返事をした。




