10-4.
「ねぇ、どうするの?」
遂に玲嗣から聞かれたらしい。
「真顔で、父さんを狙っているの? って、二股疑惑を捻りもせずド直球で投げ込まれて驚いた。当然否定したよ」
玲奈が自宅に移り住むまで住んでいたマンションの部屋。
今は国外出張で早朝出立か深夜帰着の場合、都心での用件が続く場合に拠点として使っている。これから始めようとする玲奈との秘密会議の場としても。
邪魔が入らないのでリラックスして話が進む筈だった。
唯一噛み合わない話を除けば。
「前々からの約束通り、渉の奥様になりますって二人に宣言したら、どうなっちゃうのかな?」
リラックスしていない。眼は爛々として鼻息荒く、興奮している。
「そんな約束いつしたんだよ?」
その後暫く話し合いを続けていたが、会社が想像以上に大きくなったのを知った玲奈は、キッチンに向かいながら話を続ける。
「大会社の社長さんは、死んだ後の事まで考えないといけないんだ。大変だよね」
「いつの間にかこんなに大きくなっちまって」
いやねぇ、子供を育てているみたいよね、と言う玲奈は食事の準備を始めた。
今までは、必ず玲奈の感情が先走って纏まらなかった話。
今回は冒頭に方向性だけでも決めようと釘を刺して始まり、順調とは言い難かったが双方が冷静に意見を交わして合意を重ね続けた。
だが、粗方片付いても最後の大きな課題になると纏まらず、玲奈がやはり感情を発露し始めた。理知的で大人の対応に終始していた玲子さんと比べれば、玲奈の感情が迸るのはそれだけ渇望しているとの理解が私の感情を抑制するので、受けとめて傾聴している。だが、この課題をクリアするには心の整理が出来ていない。
トリートメントとボディソープの香りを纏う玲奈がベッドに滑り込む。
私の上に自分の全身を重ねた。胸板に頬を預け珍しく大人しくしている。
「心臓の音が聞こえるよ」
「まだ生きているからだな」
「この音が自然に止まるまで、私だけにずーっと聞かせて」
どう言う意味か尋ねた玲奈は、何十年も先の事だけど、と断ってから言う。
「私が貴方を抱いて、私達の子供が手を握って、貴方の想い人の元に送り出してあげる」
「玲子さんを送り出した時と同じか」
玲奈が頷くと呟く。
「それまでは、貴方だけを想っている私だけを想って下さい」
逃げられないまで獲物を追い込んだ満足からだろうか、その晩は大人しく眠ってくれた。




