10-1.
忙中閑ありの俺達三人に流れる時間はずっと長閑であって欲しかったが、そうもいかなかった。この学校で自分の殻を打ち破る行動を迫られるイベント、文化祭。
自分の人生について決断を迫られるイベント、進路希望。
並び立つこのイベントが待ち構える。
初日の恒例行事。
悪ノリした玲奈の暴走もあって、もはや大量殺傷兵器と化した俺の女装。
戦意喪失から決勝戦を申告敬遠した者も出て、無敵の二連覇を成し遂げると母親AIへ優勝トロフィーを進呈した。迎えた二日目の我々の出し物、日本発祥の古典的飲食業態、メイドカフェが途轍もない事になるとは知らぬまま。
『桜丘華子がメイドしている』
SNS等でリークされた際のリスクマネジメントが抜け落ちていた。
パリのメゾンでデビューした頃に、桜丘華子がこの学校の在校生だとリークされたので警戒すべきだったが、リアルに後の祭り。
混乱する状況を見た玲奈は、桜丘華子が藤森玲奈である事を知られない為に機転を利かせ、隠れる事をせず堂々とモデル本人と認めて振舞った。
「在校生のお友達に誘われてお手伝いしています。私と良く似ている在校生がいらっしゃるって聞きました。会ってみたいですね」
「お客様、こちらお勧めですが召し上がってみませんか? 私がお持ちしますよ」
微笑みを撒き餌に桜丘華子が次々とオーダーを水揚げしていく。
桜丘華子にオーダー取って貰いたい人、手を上げて! と声を張り上げれば、
我も我もと廊下の行列まで手が挙がる。
くっ、手強いな。奥義を出してきやがったか。こうなれば、俺を売り物に……。
負けず嫌いスイッチが入った俺は、お姉さん方を目力込めて見詰め、微笑みを差し出しながらオーダーを強請る。
「玲嗣君をNo.1にするならボトル入れちゃう!」
「炭酸飲料のボトルとケーキのセットで宜しいでしょうか?」
「全部持って来て! シャンパンタワーも!」
「コールは実行委員に止められています」
勘違い全開のナースコスのお姉様達。よく見れば入院していた病院の本職さん。
「また入院しに来て!」
「入浴介助じゃんけんが怖いので遠慮します」
「じゃあ、外来で待ってる!」
お茶目なお姉様達に売上げ貢献と連絡先のメモを頂き、もみくちゃにされる。
「玲嗣君、テイクアウトで!」「こっちも!」
患者搬送の慣れた手際で持ち帰りされかけながら、多目に仕入れて余るかと心配したメニュー全てを、桜丘華子と共に爆速売り切れ店仕舞いにした。
店内はまるでファンクラブとナースステーション状態だったが。
最短営業時間、最多来客者数、最多売り上げ。
各部門で新記録を樹立した催事終了。
チェーン店ではない。詐欺、ぼったくりでもない。文化祭の模擬店である。




