9-7.
「こんちわぁ~。工事に伺いました」
「宜しくお願いします」
父が出迎えたのは工務店の職人さん。
「旦那様、伺っておりませんでしたが、これは何をなさるのですか?」
ふっふっふ
不敵な笑みを湛えながら手摺を取り付けたり、段差を解消したりの作業を
見ている父が咲紗に告げる。
「名付けて、和泉渉 老化対応工事、だよ」
「はいぃ?」
「見た目若いが老化しつつある自分の為に、廊下などに手摺りなどを取り付けてバリアフリー化しておく。咲紗には使い勝手のテストを頼みたい。不便があったら追加するのでいつでも言って欲しい」
魂胆が分かっている俺は笑いそうになっている。
咲紗はオヤジギャグに気付くか。何と反応するか?
「これは、この先私が怪我しない為の工事だから勘違いしない様に」
承知しました、と言った咲紗は視線を足元に落として何やら呟いている。
「老化する……、廊下……。旦那様、只今のお言葉、会心でございます」
ぱっ、と花咲く笑顔の咲紗は和泉渉原理主義者。
何があっても父を全肯定し崇め奉る。
見た目は三〇代後半でも通る程若い父だが、実年齢を四捨五入すれば六十歳。
意図を見抜いているだろう咲紗は微笑みながら父を見詰めている。
あの事故から約半年。
咲紗のリハビリに付き添って観察を続けている俺は、父からの説明も理解した上で受け入れた。
咲紗の機能は一生戻らないと。




