9-4.
「随分エキサイトしたけど、何でまた?」
「患者さんと医療関係者、それぞれハラスメントは禁止なのよ」
中々シビアなんだなと思い、看護師さん達をフォローしようと真面目に姉に
伝えた。
「ナースさん達ちゃんとお仕事すると、順番に色々お話をしてくれて退屈じゃ
なかったよ」
「そっか、それは良かったね。……順番?」
「でもね、玲嗣君は脈拍が取り辛いねって、皆が手首をずーっと握っていたんだ」
姉は何か考えていたのか、ちょっと手首出して、と言い、俺の手首に少し冷たい指を添えた。しばらくして、首を傾げる。
「一日に十回以上、順番で測っていたよ。精密に記録するんだね」
「それ、多いわ。……順番?」
「あ、そうそう、看護師さん達よく体温計忘れるんだよ」
「……何人?」
「ほぼ全員。体温計忘れちゃった♡って」
「全員同じこと言ったの?」
「うん。それでね、おでこくっ付けて測ったり、喉に両手添えて測ったり、頬と頬くっ付けて測ったりしていたよ」
「……何人?」
「ほぼ全員。順番に」
「全員。……順番?」
「看護師さんの体温の方が正確なんだ、って言っていたよ。さすがプロだよね」
姉は俺の顔をじっと見つめた。
「……ちょっと待って?」
「あと、入浴の時だけど」
「まだある――、うん」
「ナースさん達がね、じゃんけんしてたよ」
「……じゃんけん?」
「勝った人から、私いきまーす、って」
「……何の順番だ?」
姉は腕を組み、ゆっくり首を傾げて聞く。
「何人いたの」
「日によって違うよ。三人くらいかな」
姉の額に、じわりと皺が寄った。
「それとね」
「まだ続くの?」
「俺の身体すごいって皆に褒められたんだ」
「どこ褒められたの!?」
「えっとね」
「うん」
「股間」
「それ一番ダメなやーつ!!」
姉が思わず大声を出すと、周りの人が一斉に振り向いた。
慌てて口元を押さえると、姉は小声になって言った。
「……それ全部アウトだから」
「え?」
「脈拍! 体温! 入浴! 股間! 全部アウト!!」
姉は俺の顔を覗き込みながら言う。
「それ、病院のハラスメント窓口に相談した方がいいレベルなんだけど」
俺は首を横に振った。
「でも皆優しかったよ?」
姉はしばらく黙ったあと、他院受診していたんだ、と言い深く息を吐いた。
「……ちょっと私、そのけしからん病院に文句言ってくる」
「今いるこの病院だよ」
「……え?」
「看護師さん達、姉ちゃんのことも知っていたよ」
「なんで!?」
「みんなに、お姉さんに内緒ね♡ って言われた」
「ここの病棟かよ!」
姉はゆっくり振り返り、ナースステーションを見た。いや、睨んでいる。
「あなた達、何しているの?」
その声で俺に付いて来ていたお姉さん達が足早に仕事に戻った。
姉に向けてお詫びを言う看護師長。流石責任者だ。
「玲嗣さんもごめんなさいね、不愉快だったかしら?」
師長さんは取り出したメモに走り書きして折り畳むと俺に手渡した。
「気になる事があったらここへ電話して下さいね」
「あ、この番号」
「?」
「一番乗りでもらったのと同じだ」
「……一番乗り?」
「一般病棟に移った時に」
姉に背を向け、人差し指を唇に当てる師長さん。
「師長、何やってます?」
「熟練看護師の」
続きを口にすれば師長さんが小さく必死に首を振っている。どうしたんだろう?
「無料健康診断はこちら♡ ってやつ、もらったんだ」
姉の表情が凍った。親切なサービスなのになぜ?
手元のメモにはいつものフレーズがあった。
「お姉さんに言わないでね♡ ってのも同じだ。皆の合言葉なんだね!」
「師長」
姉が静かに言うと師長さんが石像の様に固まった。
「コンプライアンス窓口に同行願います」
「姉ちゃん」
「なに」
「ちゃんと謝ってくるんだぞ」
「逆だよ!」




