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8-10.

 三人が揃ったダイニング。

「玲嗣さんに酷い事しなかったでしょうね?」

「麗しいこの胸に埋没させて、(すこ)やかで清々(すがすが)しいお目覚めだよ」

「何てことしやがった!」

「では、いただきます」

 私達の遣り取りなど気にしない玲嗣が箸を取ったので私も咲紗も続く。

「いっただきまぁーす!」

 玲嗣が野菜炒めを口にした。途端にニコニコし始めた。

「うん 美味しい」

 ご飯もおかずもペース良く、実に幸せそうに食べ続けている。


「これが母の味、玲子の味付けだぜ」

 自信満々で差し出す私の料理。渉は喜んで食べてくれるが玲嗣だけ違う。

 一口食べると必ず考え込む。

 ゆっくり咀嚼(そしゃく)して、味を確かめて、ようやく飲み込む。

 実母の味を知らない玲嗣。

 三歳の頃から食べ続けている咲紗の料理には勝てない。

「玲嗣さん。お薬と湯冷ましをこちらに用意しました。食後に忘れず飲んで

下さいね」

「はい」「ここは病院か?」

「玲嗣さん。お勉強も大切ですが、体調回復を優先してしっかり睡眠をとって

下さい」

「うん」「看護師か?」

 自分の食事も忘れ、まるで世話焼き女房になったかのように気遣い続ける咲紗。

 絶大な信頼を寄せる飼い主を前にした大型犬のように、何の疑いもなく返事をする玲嗣。

「玲嗣さん、お代わりなさいますか?」

 食べるペースとご飯の減り具合から、絶妙のタイミングで声掛けする。

「旅館の仲居さんか?」

「おかずが美味しいから、もう少し食べたいな」

「はい。私の分は箸つけていませんから召し上がって下さい」

「私の分もあげる――」

「それじゃあ咲紗が」

「大丈夫です。味付けしながらつまみ食いしていましたので」

「私もつまみ食いしていたぞ、結構な量を――」

「全然食べてないじゃないか。咲紗だって食べないとダメだよ」

「では、半分ずつ、頂きましょうか」

「だから私の分もあげるって――」

「そうだね。咲紗もちゃんと食べようね」

「はい。そう致します」

 玲嗣がおかず皿を手に取り分けている。

「この分量で足りる? あーんしようか?」

「丁度良いです。ですが、あーんして頂く程ではないので――、

有難う御座います」


 バンバンバン!

「ちっくしょおぉぉ!」

 箸を置いた私がテーブルを叩いて吼えれば玲嗣と咲紗が驚いて目を剥く。

「無視された上に何を見せられているんだぁ? ここは女学校の良妻賢母授業か!」

「普段通りだけど。どうかした?」

「彼女の目の前でおしどり夫婦ごっこかぁ?」

「玲嗣さん。今夜から私に添い寝しなくても大丈夫ですよ。ご自分のベッドでゆっくりとお休み下さい」

「人の話スルーかよ。じゃあ、私が玲嗣に添い寝するっ!」

「あ、玲嗣さん。ちょっと待ったです」

 好機到来。私は口を開いた。すると。

「たった今犯行予告がありましたので、身辺警護の添い寝をしますね。

……そんでだなぁ~」

 ぐっ。――変な声が出た。

 温和な表情と柔らかな声の筈の咲紗が私を向いた。

 そこにいたのは憤怒を煮詰めた鬼女の般若(はんにゃ)

「訳分からん事ぬかすな! 膝を抱えて一人で寝ろ!」

「ひいぃ~! 一人で寝ましゅ」

 縮こまる私を見て玲嗣が呆れたように笑っている。

――こんな馬鹿騒ぎも、きっと今夜までだろうな。

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