8-8.
防災放送のスピーカーから帰宅を促す曲が流れて来た。
公園で遊んでいた子供達は声を掛け合い、走って、自転車で、家路を急ぐ。
視線を逸らして仰ぎ見た空は明るさを失いつつある。俺の視線を追った咲紗が告げる。
「玲嗣さんの身体はまだ無理出来ませんのでそろそろ帰らないとなりません。これで私と白鳥さんの関係に幕を下ろします。最後にひとつ、乙女にアドバイスを」
首を捻る早乙女に咲紗が言う。
「海辺で綺麗な星空を白鳥さんに見せては駄目ですよ」
「なんで?」
「彼の気持ち、揺らいで欲しくないでしょう?」
悪戯っぽく笑った咲紗は早乙女が不思議そうに見ているのも気にせず白鳥を
向いた。
「これで私達は彼氏彼女から、以前のクラスメイト、お友達へ戻ります」
「うん。今までありがとう」
赤点の答案を突き付けられたみたいな顔で、白鳥が笑った。
呼応した咲紗が、周りの全てを霞ませるに充分な笑顔で告げる。
「素敵な彼女の元へ行ってらっしゃい」
「私の元彼氏 はると」
それは無意識だったのか、最後の最後に咲紗が放った別れの言葉が白鳥悠翔から言葉を奪い、涙を零れさせた。
惜別の握手を離した傷だらけの小さな手は早乙女を示すと無言で告げた。
“さあ、行きなさい”
早乙女と合わせた視線に頷く咲紗は何も言わず、小さく手を振って二人が見えなくなるまで見送った。
咲紗は今、何を想っているのだろう。
綺麗な終わり方だった。
それでいい。あいつが前を向けるなら。
人影の失せた公園を後に、咲紗の車椅子を押す。




