8-6.
退院後は、自宅療養しながら週一回検査に通うのが暫くの間続く。
薬の副作用なのか、体の具合が悪いのか、発熱と倦怠感で終日横になっている日があれば、外を走りたくなる程快調な日もある。
体調を見ながらの自宅学習で、教科担任からのリモート授業を終えた夕方、白鳥がテレビ電話を掛けて来た。一目見ただけで分かった。
あ、これ……、沈没しかけている。
深刻な表情と沈んだ声。悩み事だろうと察すれば見込み通りで、話したいことがある、時間を貰いたいと切り出された。
明日午後、検査通院の帰りに待ち合わせするが、内容は聞かなかった。
表情から察したので聞かなかった。
「検査結果良好、順調に回復しているって」
「良かったじゃないですか! とても嬉しいです」
「うっひゃ!」
「えっ? どうしました?」
純真な笑顔がぱっとフラッシュ。思わず顔を背けた。直視すると目が焼ける。
何度見ても思う。咲紗の笑顔は反則だ。でも、……嫌な空気が流れ込む。
「ケっ! 見せ付けおってからに」
玲奈が口を挟む。咲紗の笑顔がすーっと引いた。
「妙な反応、うっひゃ、だなんてしやがって」
咲紗の表情に雨雲が掛かる。傘持って来てないんだが。
白鳥が見聞きされたら嫌だろうと、学校から離れた小高い丘の公園に
咲紗と二人。何故かそこにいるのは自称付き添いの玲奈。
「グログロでドロドロ、三角関係の修羅場を見たいけど、余計な事しそうだから
消えるね」
既に余計な事を口にした玲奈。手をヒラヒラと振って公園を後にした。
「咲紗ちゃん!」
「私に関係ないお話なら、お邪魔でしょうから帰りますよ、白鳥さん」
咲紗から声が掛かると首を振り、ばつが悪い表情でガゼボの向かい側のベンチに座る。
「話って……、白鳥、何かあったのか?」
全快でないのに済まない、と一言言ったきり白鳥が黙った。思い詰めた表情から察しただろう咲紗が俺に向けた視線で発言の許可を求めたので頷いた。
「乙女とのこと……、ですよね?」
白鳥に言いたかった。えっ、と言った切りすぐに首を振るでもなく全身の動きを止めたのなら、それはYESを意味するのだと。
「乙女は良い彼女、良い妻、良い母親にもなれる素晴らしい子です。私よりも白鳥さんの事を大切に想ってくださっています」
「俺はあの時……、腰が抜けて。守れなかったばかりに咲紗ちゃんに酷い怪我を
させて」
「自分を責めたのですか? あれは誰も悪くない偶然の事故なのですよ」
「子供の頃から弱虫で。咲紗ちゃんを守りますって、海辺の約束、守れなかった」
「そんなこと……。悩んで苦しんでいたのですね」
「乙女は本当に心配してくれて……。色々話、真剣に聞いてくれて」
「いて欲しい時に傍にいてあげられなくてごめんなさい。こんな私、彼女失格
ですね」
「そんな! そんなことは……」
謙虚に言葉を返している咲紗。その表情には何らかの確信が込められている。
俺だけしか分からないだろうけど、そんな気がした。
「白鳥さん。飲み物を召し上がりませんか?」
感情の昂りを抑えたかったか、咲紗が願い出た。
「お渡しする缶ジュースの口を開けて下さい」




