8-4.
咲紗の小さく華奢な身体には全身に傷跡がある。
右の肩甲骨から左脇腹へ走る鋭利な傷。その隣にもう一つ増えた新しい裂傷。
指先でなぞっていると咲紗が言う。
「今回のは肺に届くほど深い傷だったそうですよ」
心配させまいと軽く言い放つのを聞くと、かえって俺の心は痛んだ。
頭の骨折も、背中の切り傷も、あと少し条件が悪ければ、死んでいたか全身麻痺になったかも知れないのに。
小さな体の泡を流し、歪む視界のまま背中に刻まれた新しい傷跡に口付けした。
「ひゃ! くすぐったい。……どうしました?」
後ろから両腕を回して抱き付くと、背中に頬を預け、何も答えずにいた。
「玲嗣さんは眼が大きいから泡が入り易いのでしょうか」
鼻を啜ったのを聞いて察したのだろう、それ以上は何も聞かなかった咲紗の耳元で、動かないでと告げてそっと抱き上げ、慎重にゆっくりと湯船に浸かった。
「玲嗣さん」
湯船で膝立ちになった咲紗が俺に向き合うと、上体を預けて抱き付いてきた。
「私を置いて行かないでくださって……有難う御座います」
「……なにを、言っているんだ」
「玲嗣さんは……どれほど遠く離れることになっても、必ず私の元へ戻ってくださると、信じていました」
僅かな静寂。腕を解くと慈愛の微笑。また眼に泡が入ったらしい。
咲紗が湯に浸かろうとするので、膝立ちになった俺は咲紗に手を添えて支えながら浸からせた。俺も浸かろうとすれば、待ってと声が掛かった。
咲紗は俺の腹部から目を逸らさずに切開跡を小さな手でなぞっている。
少しだけくすぐったい。
「私が至らないばかりに、玲嗣さんの綺麗なお身体に、また傷を作ってしまいました。何とお詫びすれば」
「同じところに傷ができた。これで、おあいこだね。良かったよ」
「相変わらず――、笑えない冗談をまた聞けるなんて……。本当に良かったです」
初めて聞いた気がした。――咲紗の涙声。




