1-7.
「修羅場は良いが、暴力沙汰と学業の妨げは懲罰って事、覚えておけよ。お前ら三人、猥褻未遂だ。三〇分廊下に立って反省しろ」
終了宣言の担任に尚も喰い下がった咲紗と藤森さんに下令。巻き添え喰って私も退場。藤森、私、咲紗が廊下に並べば、教職員がニヤニヤ眺めては通り過ぎる。
理不尽だ。
それよりも、修羅場は良いって、大丈夫なのか、ここの生徒指導は?
「先程紹介がありました私、和泉玲嗣からこちらの藤森玲奈さんを紹介します」
「れーじ……。男なのか?」
「さっきの漫才の続きでしょ?」
「男の娘なの?」
教室に戻り、藤森さんの紹介を始めるのは、性別不明だの男の娘だの漫才師だのと、好き放題言われ放しの私。
隣には優雅に微笑む藤森さん。背筋を真直ぐ伸ばして片足を半歩引き、高級車の横に立つモーターショーのコンパニオンか、レッドカーペットのフォトセッションを思わせる。
教室後方で腕を組み、目から放つ殺人光線で黙ったまま私を睨む咲紗。公開処刑でも始めそうなその表情は、母親が小さな子供の目を塞いで、見ちゃダメよ、をするレベル。
両極端な二人に挟まれた私は、手元のタブレットに意識を集中して逃れるしかなかった。
「藤森玲奈さん。体重四六キログラム、まだ伸びている身長は一七五センチメートル」
「うぅわあぁ~」
女子達から嘆声が漏れてきた。私はト書きに従ってもっともらしく ごほん! と咳払いひとつ、注目を引き付ける。
「さぁさ、ご傾聴! 皆さん知りたいだろうスリーサイズは、上から何と!」
抑揚マークまで付けさせられた藤森プロデュースの台詞を指示通り区切ると、
固唾を飲む音が男子からも女子からも。
「一〇〇!」
「ぅおおおぉぉ~っ!」「負けたあぁ」
「八五!」
「うぉ ん?」「え?」
「七〇!」
「あれっ?」「そんな?」
「キレっキレの逆三角形! だそうです」
「仕上がってるよ!」「歩く大胸筋! おっとセクハラか」
脱力と爆笑に満ちる教室の壇上でボディビルポーズを真似る本人もケラケラ笑っている。
続く台詞は私にとって鬼門そのもの。
読み上げる事で更なる緊張状態か軋轢を生む事になる私の口の中はカラカラで、自分しか分からないが両脚が細かく震え始める。
「国内外の高校からの特待生の申し出を全て断り入学した動機は、この学校で素敵なパートナーと一緒にいたい……為、だそう、です」
「良ぃなあぁ」「ほおぉ~」
温かい笑い声に満ちている教室。私だけに突如訪れた氷河期。
藤森さんの台本通りに喋っただけなのに、皆の視線が私を貫く。両脚が震える。
周囲からの言葉と雰囲気が抑圧する。落とした視線で分かるほど脚の震えが増している。
ふと上げた視線が咲紗と交わる。心配の視線。慰めの表情。
症状が現れた時に私へ向けるいつもの咲紗がそこにいた。
「以上で終わります」
「ねぇ、いっしょにお食事しましょ!」
何とか乗り切って昼休みを迎えたが、矢張りやって来た。
顔を向ける、叫ぶ、笑顔を作る、腕に抱き付く、胸を押し当てる、揺すってねだる、覗き込む。藤森さんが一発声六挙動のマルチタスクを披露した。
「ちょっと、いい加減に」
「あなたって、玲嗣の何なの?」
矢張り反応した咲紗に怯まぬ藤森さんが突き放す口調のカウンターを放った。
「わ、私は……」
対外的には家に同居している和泉家の親戚。
その実態は家族以外に告げられるものではない。咲紗が答えに窮している。
抱き付く腕の力を緩め、腰を曲げて咲紗を覗き込むと無言で、どうなの? と
探っている。
教室の一角だけ異様な雰囲気と気付いたか、教室を離れる生徒がぞろぞろと。
「私は……」
消え入りそうな声が響く教室で言葉に詰まった咲紗が殊更小さく見えた。
「咲紗、一緒に食事に行くよ」
「はい!」
藤森さんの大きな乳製品の拘束からするりと腕を抜くと咲紗へ手を伸ばす。
伸ばされた咲紗の手に触れると意識などせず握る。子供の頃からそうだった。
小さく、柔らかく、温かい。傷だらけだけど繋ぎ慣れたいつもの感触。




