1-6.
「さぁ、行くよ。新婚さんの初仕事だ!」
「何言っちゃっているの?」
差し出された手を見ると、反射的に自分の手が動いた。
気がつけば、それが当然だとばかりに彼女の手を握っていた。
子供の頃から手を繋ぐのが当然なのは家族と、眉間の縦ジワ鮮やかな睨み顔の
咲紗だけ。
「さぁさ、全員御注目! こちらの見目麗しき私の恋人様の御紹介だよ!」
確か啖呵売と言われる口上で始まった、前置きからして非公認なプレゼンテーションに教室内全員の視線が集中する。
身長、体重、誕生日時、出生時の身長と体重、企業経営者の子供。
延々続く藤森さんからのプレゼンテーション。プライバシーは絶妙に躱しながら、時折脱線しては周囲をぐいぐいと惹き付ける語り口で告げられ続ける。
身包み剝がされて晒される気分。恥ずかしい、よりも気味悪い。
まるで私の全てを知っているみたいだ。私は周囲から聞こえる笑いとは異なる
感覚に襲われていた。
「そろそろ止めなさいよ。嫌がっている」
低い声を発して立ち上った咲紗が険しい表情で藤森さんを睨み付けている。
伏せたままの視線と震え始めた両脚で察してくれた。
「まだ喧嘩したくないな。逸らすか」
隣の私にだけ聞こえる小声で意味ありそうに囁くと、言い返す。
「私、和泉さんと良い関係になる為に、多額のお金を払って同じクラスにして貰ったの」
私の腕に抱き付いて押し当てた大容量の乳製品が隆起した為か、賄賂に驚いたか、どよめく声が湧き上がる。
「ちょっと、何しているの!」
早足で教壇に寄った咲紗が藤森さんの腕を振り解き、間に割って入り私を引き剥がす。
引きのどよめきと修羅場を期待する歓声に満ちる教室。
藤森さんは周りに構わず、咲紗を見下ろす視線で告げる。
「あら、貴方、この人の何なの?」
咲紗の動きが止まる。表情が固まった。
「おーい、教室の中で修羅場は止めろよ~。担任の俺は、一応ここにいるんだからな~」
臨戦状態の二人にとって担任の声掛けは丁度良かったらしい。
「修羅場じゃないで~す。痴話喧嘩で~す」
「先生、この人バカです!」
藤森さんが言えば、咲紗も言う。小学生の口喧嘩もどきに笑いを押し殺す担任は言う。
「多額のお金云々は初年度納付金と任意の寄付金な。クラス分けは単なる偶然だからな。よし、続けろ」
続けろ? 修羅場放任はどうかと思っていればファイト再開。
「この方と私、太くて長い関係なの。貴女はどうなの?」
深くて長い、を言い間違えても気付かぬ咲紗が反撃を放ち優越に浸ろうとすれば、拒もうとする藤森さんも言う。
「私とこの人とは、身体の関係があるの!」
咲紗の言い間違いを嚆矢にエッチ方向に脱線すると、唖然と騒然が教室を埋め尽くす。無実なのに巻き添え喰らった私は茫然。動揺が続く周囲など構わず暴露話は続く。
「あら、そうなの? 私達ずーっと前からお風呂で互いの全身を洗いあう仲なの」
それはずーっと前、から、でなく、ずーっと前、は。過去形だよ。
「んまぁ! なんて羨――、破廉恥なの!」
「お風呂の後はひとつベッドで、激しいこの人と一緒に朝を迎えたのも度々なの」
はい、その通り。
小さかった頃、激しい寝相の私に添い寝の筈が、寝落ちしたまま朝まで爆睡したよね。言い方によってはエロくなる実例。
「嘲っているつもりかしら? 私はね」
お願い、これ以上エキサイトしないで! 怖い怖い、何を言われるか分からないから止めて!
「お互いの、あそこと、あそこが、フルコンタクトしたのよ!」
藤森さんが放ちおった。私のお祈り見事粉砕! 何もしてないよ!
「はい! お前ら、終了!!」
異様なテンションで沸き立つ教室に、腹を抱え笑う担任の声が響いた。




