1-5.
「新入生の自己紹介は当然あります。苦手でしょうから考えておいて下さいね」
昨日咲紗に助言されて考えていた無難な自己紹介は無駄になった。
初めて会った子を互いにプレゼンせよと、予想の遥か上を行く手法とは。
「まずはペアに対し簡単に挨拶、取材順を決めろ。一分後にスタートだ」
相手を警戒させず接するのが上手な咲紗は早々と窓際の女の子と挨拶を交わしている。
「私、藤森玲奈。歓迎して絶対離れねぇぞが花言葉で私にぴったりでしょ、の藤」
戸惑っていた私に、本当に離れねぇぞの勢いで体を密着させると突然始まった。
「木が三本だけじゃあ無理だろ、草生やすかの森。王様の隣の令嬢って私にぴったりでしょ? の玲」
なぜ上体を揺するの? 腕に大きな乳製品の揺れが……。
やっぱりえっちなお店の人だ。
「奈良の大仏屁で飛ばせの奈。良く分かっただろうけど、こう云う字を書くんだよぉ~」
説明の難易度が乱高下する解説を終えた藤森さんが私の右の掌に指で文字を書き始めた。
「ひゃん、くすぐったい――って、大仏って、おならで飛ぶの?」
出てしまった妙な声。即座にこちらを向く咲紗。
気にもしない藤森さんは、奇麗な手だねぇ、と言いながら白く細く長い人差し指で私の掌に漢字を書いて説明する。
分かった? と、ゴールドベージュの髪をさらり、と流して小首を傾げ、躊躇いもなく私の手を裏返したり、自分の掌と重ねて大きさを比べたり、摩ったり。
では私の、と紹介を切り出そうとした途端、離した掌を向けて遮られた。
「あなたの事は全部知っている。でも、興味ある事の最新情報だけ聞かせて」
呆気に取られた私に藤森玲奈さんがインタビューを始めた。
「交際している特定の人はいますか?!!」
「え――」
藤森さん。拡声器内蔵していますか?
「誤魔化さないでちゃんと答えてよぉ!」
「い――、いません」
消音器を通したような私の声。待っていましたとばかりに拡声器再び。
いや、吼えた。
「よし! 私が恋人で決まり!!」
「え、えぇ~っ!」
「売約済か」
「はあぁぁ」
教室中の男女から落胆を帯びた視線と溜息とざわめきが押し寄せてきた。
誰に向けられたのかは定かではないし聞けない。
恥ずかしさから俯く私は、左側面から熱波を感じた。
オーブン調理に使えそうなそれは、咲紗が放つ怒気を帯びた視線。
「インタビューは以上です」
本当に何も聞かないのかと尋ねれば、全部知っているからとあっさり返されて、攻守交代、あなたの恋人にインタビューしてと言われた。いつ恋人承認した?
「スリーサイズとか、エッチな話題とか、エッチなネタとか、エッチなトピックとか、何でも良いよ!」
この子――、元々あぶない奴? 勉強のし過ぎで頭が壊れた?
口から出そうになった私は頭を振って課題に戻った。
プレゼンテーションする項目を頭の中で組み立て、ひとつひとつ聞き出してはタブレットに入力を続け、エッチな項目はなしでインタビューを終えた。
「やっぱり、真面目だなぁ。私も真面目だけどぉ~」
そう呟いた藤森さんは組んだ両腕を机に乗せ、上体を乗り出して私のタブレットを覗き込んでいたが、自分の発表を準備する気配が全くない。
「ねぇ、出来た?」
私が頷けば 見せて! 見せて! と更に身を乗り出しては、呟きながら書き足していたが、突如叫んだ。
「先生! 私達夫婦初の共同作業の準備が出来ました」
「よし! 前に出てきて、クラス全員が分かる様に互いをプレゼンしてくれ」
「さあ、雛壇でケーキ入刀の披露だよ!」
ついさっき、恋人で決まり! って言ったでしょ? 婚約者を飛ばして夫婦なんて、二階級特進は 殉職フラグだよ!
口に出せずに視線で助けを求めた担任は笑いながら咎める事もなく勧めている。




