7-10.
「咲紗、お疲れ様。明日の退院前検査まで予定入ってないからゆっくり休んで」
「はい、お嬢様。これは、玲嗣さんに見せるのですか?」
一緒に個室に戻ると警察から返却された押収品が入っている密封袋を咲紗が
指差す。
一つ目は雪崩ビーコン。雪崩の生埋め捜索用で、ブザー付きの発信機。
大量の土砂に埋もれてもブザー音と救難信号を手掛かりに早く発見されたので役目を果たした。
二つ目はヘルメット。ひさし部分が破壊され右側面が陥没している。内側の発泡スチロールも潰れて元に戻っていない。ここまでの力が加わっていた。被っていなかったら頭が潰され即死したに違いない。
三つ目はエアバッグベストが二着。
首、胸、腹、脇、背中、腰から尻。太いチューブ状の気室が全て展開して上体を保護していたが、オートバイ用なので滑落や尖った物に対しては万全ではない。咲紗が着ていた赤いベストは右背面が大きく切り裂かれ、出血で赤黒く変色している。玲嗣の青いベストは固定ベルトのバックルが複数破断しており、ズレて捲れてカバーしきれなかった腹に何かが衝突したらしい。
「私より、玲嗣さんは大丈夫ですか?」
「固体食が恋しくなって、咲紗の手料理を食べたいって言うよ」
「……。はい。頑張ってみます」
「あ、咲紗、ごめん。気負わなくて良いからね、ごめんね、ごめんね」
私の答、完全に失敗した。
プレッシャーを与えてしまった咲紗は、抱き寄せた腕の中で項垂れてしまった。
「私、リハビリ頑張りますが、家事が上手く出来なかったら、私はどうなり
ますか?」
大丈夫だからと声を掛けても咲紗は不安を訴え続ける。
「役立たずの私は、――また、捨てられてしまいますか?」
戸惑う表情と生気の抜けた声の咲紗。
「大丈夫。咲紗は絶対手放さないって約束する。いざとなれば一生私の傍にいなさい。家事は暫くの間代役を呼んだから心配ないよ」
咲紗は深呼吸すると自分を落ち着けて、ゆっくりと笑顔になった。
「学校で授業を受けて、放課後にリハビリに通う事になります。果たしてこの壊れた頭で授業に付いて行けますかね?」
くすっ、と笑ってしまった。勉強は問題ないと思う。
冗談まで言う咲紗は玲嗣と対照的に順調に回復した様に見えるがそうでは
なかった。
むしろ玲嗣より酷いかも知れない。




