7-2.
私達は露出する岩と樹木が散在する山肌の遊歩道を、周囲の景色を眺めながら目的地へ向かっていた。所々まだ足元が泥濘る。
日差しの陰る曇り空、空気が湿っているのか遠くの山々が連なる景色は望めないが、そよそよと山頂から谷へと吹き下ろす涼しい風もあって、下界の蒸し暑さを忘れさせるこのヒルウォーキングを選んで正解だと思った。
清水の湧く名所へとトレッキングシューズを進める私の先には、ペース配分お構いなしでズンズン進んでは、私達に早く早くと手招きする玲奈。遠足の小学生のノリで先導された玲嗣、白鳥、咲紗と私は後続を引き離してとりあえずの目的地に到着した。
「おぉ~い、乙女、早くぅ」
皆に声を掛けられている乙女がマイペースで遅れて姿を現すと手を振っている。
登山用ヘルメットを脱ぐと汗を拭きつつ髪を整える。岩肌から流れ出る冷たくて清らかな水があると聞いていた。早速喉を潤そうと期待しながら、いざ手を伸ばすと集まった一同が疑問を口にした。
「この水、濁っているよ」
「おまけになんだか温かいよ。石清水じゃないね」
私も覗き込み掌で掬うと確かに濁って温かい。冷たい岩清水とは言えない。
「塩素でしょうか、プールみたいな臭いがします」
ひとりヘルメットを脱がずにいる咲紗の指摘通り、学校のプールに似た塩素臭がする。人も住まない山奥にプールはおろか水道施設などない。地中からの湧水は雨が降っても濁り水になりにくく、水温もほぼ一定になる筈なのに。何か変だ。
「皆さん、ヘルメットと手袋をしっかり装着して下さい。美里は引率者へ報告を」
咲紗が皆に呼び掛けた。やはり警戒すべきと判断したらしい。
「分かった。報告してくる」
私は後続の教官達に異常を知らせようと歩き出した。遅れて来た乙女に、どうかしたの? と声を掛けられた時、私達は異変を感じた。
「あれ?」「やだ、まさか」
木立から鳥が一斉に飛び立った。低周波が鼓膜を震わせる。
山全体が唸ると地鳴りが聞こえてきた。
ずん!
地を突き上げる大きな縦揺れに私達全員が足元を掬われて尻餅をついた。
立ち上がろうとしても両手を突いた地面が揺れて立てない。姿を現した後続の生徒達からも悲鳴が上がると同時に何かを命令する大声が響き、渋宮教官が這って蛇行しながら接近してくる。
視界の端には、切り立った山の斜面から幾つも落下する小さな岩。
「全員しゃがめ!」
その命令が聞こえた瞬間、予想出来ない事態が起きた。
「うわっ!」
虚を突かれた玲嗣の声。先頭にいる彼の前方の遊歩道が崩れ始めた。
それは水を吸った砂糖菓子の様にぼろぼろと、玲嗣、玲奈、白鳥、咲紗に向かって崩れ続けている。
「逃げます、立って下さい!」
避難を呼びかけると伏せさせていた白鳥の手を引いた咲紗が起き上がらせようとする。その意に反して白鳥は腰が抜けたか立ち上がる事をしない。玲嗣は覆い被さっていた玲奈の腕を掴み素早く立ち上がらせると声を上げた。
「すぐに行くから戻れ! 走るんだ!」
伴走しながら押し出した玲奈がよろけながら私達の方へ走るのを確認した玲嗣は、まだ立てない白鳥と咲紗の元へ走って戻る。
「白鳥、立て! 逃げるんだよ!」
「早く! 立って下さい!」




