7-1.
『○○岳で大規模崖崩れ』『校外行事の高校生ら巻き込まれる』
『心肺停止1名、重軽傷多数』『前日の大雨と群発地震の影響か』
「しんぱい……ていし――。――おれ?」
「そうだよ……。良く帰ってきてくれたね」
新聞を読み聞かせる震え声。マスクとキャップから覗く酷い隈。
下瞼から湧いたものが滴り落ちてきた。
来週から山行練習が始まる。
シラバスには、野外活動の準備として校庭外周と裏山の周回コースを歩き、山野歩行を通して脚力と持久力と精神力を鍛えるとある。
科学者養成高校での持久力と精神力。世間では根性と変換されるもの。
二年次に二泊三日で行われる屋外根性活動三種類の選択は必須。
山中行進を選択した俺達六人。咲紗に山歩きは初めてかと尋ねた。
「昔、元山岳兵から登山技能と山岳行軍の指導を受けました」
脚に負担が掛るのを懸念して聞いてみれば、ソルジャーな答え。
「詳細な等高線付きの登山地図と登山計画書で確認しないと判断出来ませんが、この行事は少しきついトレッキングに近いのではないでしょうか」
ショッピングバッグを手に家路を歩きながら、無理が掛からないかと訊ねた。
「重量物を背負う必要もなくて、山道を早歩きする程度なら、何とかなると
思います」
学生の団体行事で宿泊する宿は簡素なもの。公共施設か、安い旅館が
デフォルト。
だがこの校外活動の宿は当たりだ。
食事も美味しく露天風呂からの眺めも素晴らしいと聞いていた宿だった。
だが……。
「誰だよ、他人にシャワー掛ける奴は。結構痛い……、あれっ?」
「雨が激しくなってきたな。大粒で痛いぞ」
白鳥が言えば俺も言う。二人で雨に叩かれていたと気付く。
強くなる一方の雨脚に、明日降らなければ良いなと思っていれば湯桶のお湯が
跳ねた。
えっ、と思う間もなく下から突き上げられ、ゴっと鼓膜を震わす地響きが
聞こえた。
暴れる者もいない露天浴槽のお湯も波立っている。女湯から悲鳴が上がる。
地震だった。
風呂上がりに流れていたニュースでは、最寄りの震度は四。
どの観測点からも離れているこの付近が震源地らしく正確な震度は分からないが、キャー、と声が上がる程揺れは大きかった。もっとも、すぐに治まり被害もなかったので、全員が忘れて就寝までの自由時間を楽しんでいる。部屋着でモバイル片手に詳細な情報を集める咲紗ただ一人を除いて。
その日の夜半まで激しい雨音と部屋の調度品が揺れるカタカタ音が続く。
同室の野郎共は全員寝こけていたが、俺は何度も目を覚ましていた。
昨晩の悪天候が信じられない程晴れ渡った。
陽光が差し込むホールから渋宮教官、空野助教、狭山助教が準備を整えている。まるで冬山登山かと見紛う大きなリュックサックを背負った。
その対極、山行きに見えないお洒落な姿の玲奈が朝食を終えて出発準備に向かうと、咲紗がお洒落とは言い難い凹凸に富むベストを差し出して言う。
この近辺では最近群発地震が続いている。結構な降雨だったので足元が悪い。
落石や滑落、不測の事態に備えて着用して下さいと。
「このリングを引くとどうなるの?」
言われるままベストを着ると尋ねた。
「危険を感じたら引いて下さい。エアバッグが膨らんで上体を守ってくれます」
そう言いながら咲紗も装着する。全員が被ったヘルメットは登山用だろうか、通気性は良さそうだがレンタル品だけあってお洒落とは言い難い。
胸元にアラーム付きビーコンを括り付け準備万端の咲紗に注意を促した。
「咲紗、脚に無理掛けるなよ。白鳥、いよいよだったら咲紗をおぶってくれ」
「そ、そりゃあ、もう――、はい……」
もしもの話なのに頬を赤くして。風呂上がりか? 白鳥。




