5-3.
ピンポーン!
「はぁい。――ゔあぁぁ、来やがったぁ」
モニターに映る、画面が白飛びしそうな笑顔の藤森さん。
「玲嗣さん。本当に来ちゃいましたよ」
「何が?」
「不審で危険でストーカーな痴女です」
一息で四冠達成。酷い。
「お招き頂き、有難うございまぁ~す!」
お辞儀が終わった瞬間、
「あ! たっだぁいまぁ~!」
靴を蹴脱ぎ、ジャンプ&ハグ&乳製品でむぎゅっと俺を圧迫。
「ただいまじゃねぇ……、くっそおぉぉ」
咲紗は即座に顔を顰める。
「咲紗、二日まで面倒見てやってくれないか。大きな子供だと思って」
出張前の父が宥める。
「畏まりました、旦那様」
「和泉さん、ひっどぉ~いですぅ」
次の瞬間、藤森さんが菓子折りを差し出し深々と一礼。
「お招き頂きまして有難う御座います。御厄介になりますが、宜しくお願い
致します」
「……良い子に豹変しやがった。ほらっ、きりきり仕事するぞ。漢を見せろや!」
「は~い♪ って、あたしゃあ女だよ!」
俺と父、いまコント劇場最前列の観客。
父のとりなしもあって藤森さんと一緒に年越し。
そして迎えた一月二日の夜。
「甲斐甲斐しく手伝って貰えたよ」
「用意した食材を食べ尽くして帰宅しました。明日以降ころっころに太ると
思います」
咲紗にじゃれ付いていた藤森さんだったが、料理、掃除、片付けなど、見られるのが嫌であろう洗濯以外に手を動かしてしっかり働いた。
その代り、驚くほど良く食べた。
「皆と一緒だとおいしいね!」
御機嫌な笑顔でお行儀良く喋って、はしゃいで、食べる食べる。
「お箸が止まらな~い!」
モデルなのに大丈夫? と心配する俺。燃費悪いなぁ、と零す咲紗。
「大丈夫! 私胸から太るタイプだから」
一蹴すると尚も食べ続けていた。
「玲嗣さんへの過保護機能が暴走しましたね」
藤森さんと行動を共にする間は子供扱いだった俺。
入浴は咲紗が身体を張って防護してくれたが、藤森さんと三人が犇めく浴室は流石に狭かったし、添い寝の寝かし付けでは先に寝落ちして俺のベッドを占拠したので、何故か俺が客間の来客布団で寝る始末。
こたつで寝ながら涎を垂らす姿に呆れた咲紗がタオルで拭くなど、自宅感満喫し放題だった。
「玲奈に家事を任せると私の勉強時間が増えますので、今後泊めても問題ないと
思います」
「そうか。それは良かった。実はその藤森玲奈さんの事について話がある」
「はい、旦那様。如何様なお話でしょうか?」
殆ど笑い話に終始した報告を笑いながら聞いていた父は、居住いを正した咲紗から視線を移して俺を捉えると、俺にも良く聞いて欲しいと言って切り出した。
「彼女を――――。良いかな?」
「どぅえぇえぇ~っ!」
父が言葉を放った瞬間、俺と咲紗が驚きの大合唱。
耳を塞ぎながら動揺の声が静まったと見た父は訥々とした説明を終えた。
「良いかな? って、もう決めちゃったんでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
「旦那様、御乱心ですか? どうかお気を確かに」
「いやいや、正常で冷静だけど」
新年早々の一難去ってまた一難。
顔を見合わせて互いの様子を探ろうとする俺と咲紗の視線は答えを帯びている。
「咲紗の考え、聞かせてくれないか」
父に問われて咲紗は答えた。
「はい。旦那様と玲嗣さんにお任せ致します」
予想通りの回答だが、委ねたい、或いは回答を放棄したいのも良く分かる。
それが俺にとって、咲紗にとって、福音となるか災いとなるか分からないから。
「父さん、それって、いつ頃?」
「まだ決めていないが、近い内かなぁ」




