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4-9.

「?」

「……」

「おかえり」

「ただいま」

「どうだった?」

「楽しかったよ」

「元気ないな」

「平気だよ」

「何かあったのか?」

「ううん」

 強張った笑顔。焦点の定まらぬ視線。トーンの下がった声。

 父を避ける年頃の娘の様に、最小限の会話で部屋に入ると着替えている。

 玲奈が想像以上に落ち込んでいる。


 原因は分かっている。予期せず対面してしまった輝子から報告があった。

 二十五日の昼過ぎに帰宅してからの玲奈は必要な事以外喋らず、家事をこなすと唯黙って隣に座るので、当人の心の整理がついて話してくれるのを待とうと、肩を抱き寄せ頭を撫でるが詮索はしなかった。

 加湿器が蒸気を吐く微かな音のする寝室。

 全部脱いでエッチな事を仕掛けるのが通常だが、私達はパジャマを着たまま、視線を合わせる事もなく、まんじりともせず、ただベッドの中で横になっている。

ぐすっ

 鼻をすする音がした。

 額と首筋に掌を翳すといつもと同じ温かさ。

 帰宅してから交わした数少ない声にも異状はない。

 風邪を引いたのではない様だ。

「鼻かむか?」

 呼び掛けた私を見る視線を外さぬまま、力なく首を振った玲奈がまた視線を

伏せた。


 ひっく、うっ――――、うぅぅ

 玲奈がべそをかき始めた。感情が綻び始めたらしい。

 話してくれないか? と告げれば玲奈が涙声で話し始めた。

「皆と一緒だったけど、寂しくて悲しくて、仕方なかった」

 しゃくり上げる呼吸が一頻り続き、途切れ途切れの言葉を引き出しては繋げて意味を確かめた。友達の家庭事情を教えて貰ったそうだ。

 いずれのご家族も選んだ道を突き進む我が子を認め、応援している。それが嬉しいから期待に応えようと皆必死になっている。それは親御さんや家族との繋がりがあるからこそ。

「私は友達に、偽りの家族の話を本当の事の様に話したの。折角の、初めてのお友達なのに、嘘ついて、騙した。嘘吐きの私は――、酷く惨めで……、悲しかった」

 そう言うと大声で泣き始めた。

「私には拠り所になる家庭がない、捨てられたから応援してくれる家族もいない」

 泣き声で途切れがちだが、声を振り絞った玲奈は告げた。

「このまま、前の様に一人で生きていくと思うと無性に寂しくて悲しい」


 玲奈は前世の記憶を受け継いでいる。

 本当の出自を考えれば無理もない事だったと思う。偽りの来歴に存在する家族は幼少期に他界した母親と、存命の父親一人だけ。

 だが、現実では、過去も現在も誰一人として肉親は存在しない。

 涙が治まった玲奈は、一人語りの様に話を続けた。


 トップモデルにのし上がるまでもなく、私に言い寄る男は数多く現れる。豪邸に住み、宝飾とドレスで着飾り、美食を口にし、飽く程遊びに興じ、金に塗れ、人が羨む結婚生活を送る事も出来る。男と金に依存するそんな生活の代償は、自尊心を捨てたこの身体を差し出し、男の虚栄心を満たすアクセサリーに成り下がり、捨てられない様に言われた通りにすれば良いだけ。それだけで不自由のない生活は手に入る。でも満たされない心は彷徨い続けるだけ。


 涙声で詰まりながらも一気に捲し立てた玲奈は、涙で濡れる視線を厳しいものにすると私に訴え始めた。

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