4-8.
「じゃあ、ケーキに蝋燭立てる準備を」
「それ誕生日な。……あ、誕生日だった!」
相変わらず会話でじゃれつく藤森さんと咲紗が料理をサーブすると、集まった早乙女と多梨がカトラリー共々運んでテーブルに並べる。白鳥が持参したノンアルコールスパークリングワインを各自が指で摘まむステムの長いグラスに注ぐと、如何にも本物らしくて雰囲気が盛り上がってくる。
そして準備が整い俺の発声でパーティが始まる。
「では、挨拶は省略。皆で楽しもう、乾杯!」
「玲嗣お誕生日おめでとう!」
「メリークリスマス!」
「かんぱぁあい!」
ガチャ
わいわいがやがやの部屋にいても玄関のロックが解除されたのは音と咲紗の反応で分かった。時計は二十一時過ぎ。玄関へ出向けば、資料を取りに来たと告げる姉がいた。
二階に上がり自室でごそごそするとファイルを片手に階段を下りてきた。
このまま大学病院に戻ると言う。
「玲嗣、誕生日おめでとう。今日パーティだったね。あぁ、良い匂いする~」
何か召し上がりますか? と姿を表した咲紗が訊ねても遠慮したかいらないと
言う。
お飲み物だけでもと咲紗が引き止めると、じゃあ、挨拶だけするねと、リビングに顔を出した姉は皆に、いらっしゃい、玲嗣の姉です。と声を掛けた。
挨拶飛び交う中、藤森さんの視線が姉と交錯した。
目を見開き眉が吊り上がる姉。眉頭が寄り唇の片端が吊り上がる藤森さん。
二人は外さない視線のまま何も言わないでいた。異様な雰囲気に一同が静まる。
「ゆっくりしていってね」
凍り付いた空気の中、ぎくしゃくと手を振った姉は、事情を聴きたかった俺に構わず足早に玄関を後にした。
「玲奈。ちょっとキッチン手伝ってよ」
ただならぬ雰囲気が残るリビングでは、場の雰囲気を取り成そうとする咲紗が黙ったままの藤森さんの手を引き、キッチンへ連行した。
あんた、何やっているのよ?。
これは――、干渉しないで。
今はいつものノリに戻しなよ。
二人が小声で交わすと、藤森さんが、ふうぅ~、と長く息を吐いたのが
聞こえた。
「さてと。食後はブランデーと葉巻を出すんだっけ?」
「どこの家が高校生にそんなもん勧めるんだよ?」
「じゃあ、皆で白い粉を鼻から吸う」
「OK。ここに片栗粉あるから一人で好きなだけ吸え。鼻水にとろみが付くぞ」
いつものノリで二人が漫才を始めると雰囲気が柔らかくなり、話し声が部屋に
戻った。
後で咲紗から聞いたのは、キッチンの陰で藤森さんに何度もサイドキックを見舞わせて会話に付き合わせたが、帰るまで心ここにあらずだったそうだ。
初対面の姉と藤森さんの間に、何らかの緊張関係があるのではと気付いた出来事だった。




