4-4.
「何このでかいの……、うっわ、リアル過ぎ。これ――、穿くの? 巻くの?」
「腰の下の方に巻いて――っと。これで完璧になるんだからね」
手を引かれ、立てた人差し指を唇に添える咲紗と資材庫の傍で耳を欹てている。
玲奈よ、我が子よ、何をしているんだ?
むっふぅ~!
胸を反らせ、満足感たっぷりの玲奈が出て来た。
実験が成功した研究者、いや、新種を創造した創世神の顔で私と咲紗にサムアップした。すると、
「こんな格好……俺は誰なんだよ?」
我が子はミラーテストをやっていたのか。いや、魂が迷子になったか?
何をされたか知らんが、気を確かに持て。
再開されたコンテストの舞台上に決勝進出者が並ぶ。
最後に玲子さん、ではなく、玲嗣が姿を現すと会場が騒然とする。
「おぉぉぉ!」
「ねぇ、何か変じゃない?」
観客の反応が男女で違う。私は舞台上の玲子さん、ではなく、玲嗣を凝視した。
「旦那様、大変です! 玲嗣さんがミュータントに」
「ぶっは! げほげほ! そんな訳ないよ」
咲紗の例えのコミカルさも中々のものだ。
私は改めて舞台上の我が子を凝視した。
「どうやったんだ、あれは?」
感心と疑問が混ざって口から飛び出した。亡き妻玲子さんと完全に同化した息子がそこに立っている。
カールロングなヘアスタイル、メイクなしが断然美しい素顔、予選から明らかに容積が増した胸の乳製品。横と後ろへ膨らみを増した腰回りからヒップ。ベルトで絞ったウエストへの流麗な括れ、裾から現れる双脚を細く引き締めるハイヒール。それら見事な造形を覆って露にするタイトなニットスーツ。
玲奈は薄くナチュラルなメイクとヘアスタイルの調整、それにバストとヒップの増容量でボディラインの偽装工事を短時間で仕上げた様だ。
“Que c'est beau !” など声を漏らしながら撮影の手を止めない咲紗が狙う被写体は、若かりし頃の私の記憶そのものを再現している。
あのニットスーツは……、
もしかして、若かりし頃の私が鼻血を噴いたやつ――。
論文発表より衝撃的で、ノーベル賞より理解不能なこの現象。
どう分類すれば良い?
「玲嗣! 世界一素敵! 結婚して~!」
首謀者が立ち上がり大声でプロポーズすれば堰を切った様に声援が沸き上がる。
「和泉君~、こっち笑顔ちょうだい!」
「玲嗣、くるっと回って視線くれ!」
玲奈のアジテーションで会場がヒートアップしたままコンテストは
審査に入った。
「では、審査結果を発表します。ビューティ部門の優勝者は」
会場に流れるドラムロール。審査結果を待つ息子の晴れ姿に年甲斐もなく緊張する。これを晴れ姿と呼んで良いのか悩むが、バカ丸出しの学園祭だから良しとする。隣では、掌を組んで真剣に祈りを捧げる咲紗。矢張り純真で良い子だ。
――ドラムロールが止まった。
「和泉玲嗣さんです!」
「ぅおいっ! 匿名希望、どこ行った?!」
爆笑沸き立つ会場で、咲紗は私に抱き付き、玲奈は立ち上がって万歳している。
小さなトロフィーと、優勝賞品と賞状を手にした玲嗣は複雑な笑顔。
手の込んだ事に実行委員長がティアラを頭に飾り、ゴージャスなガウンを肩に掛けた。その姿は昔あったミスコンテストの優勝者そのもの。
最前列に押し掛けた友人達だろうか、ポーズを強請っては撮影している。
複雑そうな表情が次第に明るくなった玲嗣は何を言われたか、仕舞には大笑いしながらポーズを決めている。
「皆、しっかり撮れたか?」
友人達に声掛けする玲嗣。何より心配していたが、ちゃんと友達が出来ていた。
何と喜ばしい事だ。
時間を割いてここに来て良かった。本当に安心した。
私も写真撮影すると家族と親戚に送った。
玲子さん化けて出た? とのコメントを期待しながら。
あぁ、流石に疲れた。
その夜。トロフィーを見ている俺に咲紗が話し掛ける。
「玲嗣さん、本当は、嫌でしたか?」
「……嫌だったさ。でもなぁ――」
モバイルに転送されていたギャラリーの写真に視線を落とすと口角が上がる。
「俺がやらなきゃ、皆が、あんな弾けた顔、見せてくれなかっただろうな」
咲紗は何も言わずに微笑のまま小さく頷いた。
「皆に想い出、作ってやれたかな」
「玲嗣さんは、友達想いなのですね」
咲紗の言葉に俺は首を小さく横に振った。
「俺は藤森さんに言い包められて、巻き込まれただけだよ」




