3-13.
「旦那様、家を空けまして済みませんでした。でも、と~っても! 楽しかったです!」
咲紗がこれ程まで嬉しそうに感情表現するのは生涯初めてかも知れない。有難う御座いました、と深く頭を下げる咲紗に感想を求めれば言う。
「あのストーカー女とも、少しは分かりあえた気がします」
「玲嗣から聞いたよ。海中プロレスで熱く闘ったんだって?」
「観客ウケが良くなる様にバーティカル・スープレックスで真上に達したら、両脚をこう、ピンと真直ぐ天に向けて」
私達、凄く目立っちゃいました。感情溢れさせ説明する咲紗は楽しそうだ。
「ガールズトークもしました。私は年齢もあって少しズレていて、過去を隠しながらで大変でしたが、私を友達だと生まれて初めて言って頂けました。叫びたかった程嬉しくて」
皆が楽しみ、友達の絆が結ばれた。私がお膳立てした労苦など問題ではない。
興奮冷めやらぬ咲紗から続けて報告が告げられた。
「この度、白鳥様の御子息と遊びに行く事と相成りました。お許し頂けますか?」
「あぁ、勿論。行っておいで」
白鳥の息子と咲紗が交際に至ったと玲奈から聞いて信じられなかった。私の指示に忠実な咲紗の事だ、恩人の子息を客人として接待する感覚であろうと思うが、釈然としない感情もあるので聞いてみた。
「私は、咲紗が玲嗣に愛情をもって接していると見ているが、実際どうなの?」
「旦那様の御認識の通りですが、どうなの、と仰られますのは?」
「咲紗は白鳥の息子や玲嗣に恋愛感情を抱いているのかい?」
僅かに眉を吊り上げた咲紗はくすっ、と笑うと答える。
「白鳥様の御子息でも玲嗣さんでも、まだ子供から脱していない一六歳へ恋愛感情など抱きません。そして、その様な感情を私に向けない様に振舞っています」
後半咲紗の声のトーンは少し落ちた。
「それは、なぜ?」
「失望させたくないので、友達、せいぜい恋人止まりです。こんな身体になってしまった私はそれ以上にはなれません」
「玲嗣を守ってくれたあの事件で?」
咲紗は無言で首肯した。
玲嗣の左脚に傷跡を残すだけで済ませた代わりに、咲紗自身は命に係わる深刻な大怪我を負った挙句、警護者兼戦闘員としての前職を解雇された。我が家から去ろうとした咲紗に、今まで通りに子供達の警護と家事を担って貰いたい要望を示し、これまで以上の雇用条件と、社会的身分として和泉家の養女になる待遇を示し、契約を取り交わして留まってくれた。
「前職所属時のそれは報酬を前提としたビジネスでした。その昔、旦那様に命を救って頂いた御恩を知り、養女にして頂いてからは家族愛になりました。ですがお二方に対して性愛は存在しません」
私の思考を先回りして詮索を封じてきた。
本質を容易に見通す咲紗は相変わらず鋭くて頭の回転が速い。
「私は恋人以上にはなれない存在です。そんな私より、玲嗣さんは玲奈となら人も羨む仲、素敵なカップルになれます。そして理想的な夫婦に」
「それなんだが」
「えっ?」
発言を遮れば咲紗が見詰める。私は心中複雑でいるが、言っておかなければならない。
「藤森玲奈と玲嗣は、恋人になっても結婚は出来ない。してはならないのだよ」
「なぜですか?」
「藤森玲奈は――――」




