3-8.
「不向きな、理由?」
「はい。学校では誰にも話していません。秘密にして頂けますか?」
緩んだ顔が真顔に固まると首肯した。私は創作童話を話し始めた。
私は和泉家の遠縁にあたる者。
玲嗣さんの幼い頃にお母様が逝去され、お姉様も益々多忙となった為、事情があって家庭に恵まれない私は、学校に通わせて頂ける代わりに、住み込みメイドとして働き始め、今では家事のほぼ全てを任されている勤労学生。
この旅行は、大変良くして頂いている旦那様からお許しを頂いて参加している。
日頃の御恩に応える為簡単に家を空ける事は罷りならない立場なのです。
背景を偽った粗筋を説明して、それでも良いのですか? と聞けば黙って
しまった。様子を確かめようと顔を覗き込んだ。
「何だ、もっと酷くて重い話かと思ったよ」
曇り空から陽が射す様に笑顔になった。問題が全て解決したと早合点している。
「お望みなら、重過ぎて聞くに耐えないのもありますよ」
真顔になった。表情が凍っている。子供には酷か……。
「でもそれは誰しもお持ちの内緒にしておきたい事ですので、秘密です」
「それでも、気持ちは変わらないよ」
「本当に、良いのですか?」
意思を揺らがせ圧を掛け、翻意を促そうとした。
黙り込んだ白鳥さんは何を考えているのだろう。
それを見ている私はふっ、と小さな溜息を漏らした。
所詮一六歳の子供だよ。何真剣に相手しているのだろう……、私。
波の音しか聞こえない浜辺。
海と夜空との境界線が融けあって見分けられない沖合に視線を逸らした。
漁火だろうか小さな明かりが揺らめいている。
「咲紗ちゃん。俺の彼女になって下さい」
この人が知っているのは学校での私。余りに酷い過去や背景を知らない。
夢物語のヒロインを創造して私を当て嵌めているのだろう。
お友達+α程度で様子を見る事にする。
旦那様のご意向は最優先で絶対だから。
「白鳥さん、綺麗なお星様ですよ」
空を見上げると無数に輝く星を指差した。
「綺麗な星空を見る度、私と浜辺を歩いた事を思い出して下さいね」
「それが、咲紗ちゃんからの星のプレゼントなの?」
白鳥さんを向いて柔らかい表情で告げる。
「はい。忘れないで下さいね。至らない彼女ですが、これから宜しくお願い
致します」
白鳥さんの両手を包む握手をして恋人ごっこが始まった。
私は無意識に笑顔を繰り出していたと思う。
白鳥さんがへなへなとしゃがみ込んで尻餅ついてしまったから。
「私達みたいに清らかな交際になりそうね、玲嗣」
「どの口が清らかだと言う?」
「ヘタレていたけど、クソ度胸あるよね」
「…………」
私と白鳥さんに気付かれない様に隠れて覗き見していた藤森玲奈、玲嗣さん、多梨、早乙女の四名が小走りでホテルへ向かった。何事もなかった様に私達を出迎えるだろう。




