3-7.
「き、綺麗です」
「えっ、今何か仰いましたか? 良く聞き取れなくて」
何気なさを装った会話に紛れ込ませた違和感たっぷりなフレーズ。
聞き取れなかったふりをして再確認を求めた。
白鳥さんが私を意識していると皆が知っている。
同じクラスになって間もなく気付いてから今も意識していると私も知っている。
「ほ、星が、あんなに」
「本当だ、今気付きました。都内だと夜も明る過ぎて見えないですよね」
ぎゃははははは。話を逸らしやがった。
ここはプラネタリウムか天文台か?
君は星より綺麗だ、とか言えっ!
潜めた声のブーイングを聞き取れたのは私だけで、白鳥さんは分からないと
思う。
「白鳥さん、有難う御座います。こんなに綺麗な星空をプレゼントして頂いて」
「ヱ★ㄓヸ※ゔ▽ヴ~ヰゑ☆」
「済みません。何と仰いました? 良く聞き取れなくて」
ムードメイクされてノックダウンか? 咲紗ちゃん乙女ねぇ~。
このヘタレがぁ!
人の恋路に文句をつけて、高みの見物をする者がいる。何が面白いのだろう?
「では、明日の夜は私からお星様をプレゼントしますね」
「ふえっ!」
「明日、二人で一緒に、夜の浜辺を歩きませんか」
「は、はひいぃっ」
私が自然な笑顔を白鳥さんへ向けると、どこから声出しているのか分からない
返事。ギャラリー一同で唯一乙女だけが反応せず静かに見詰めていた。
「白鳥さん、昨日綺麗だって仰ったのは、もしかして、私の事だったのですか?」
「いや、あれは――。……はい、そうです」
見た事のない表情、ぎこちない動き。薄暗くても分かる。白鳥さんは慌てて
いる。
「滅多に言われないので聞き返したのですよ」
「分かっていたの?」
明日東京に戻る夜。
緩い潮風と波音が漂う夜の浜辺で白鳥さんと並んで
歩いている。
「はい。ロリだとか、童顔だとか、小学生なの? とか聞かれるのが普通
ですので」
つらつらと恨み節を交えて話すと笑ってくれているけど、足が止まると私を
向いた。
「咲紗ちゃん、僕の彼女になって下さい」
「えっ?」
いきなり来た。度胸が良いのか、タイミングを理解していないのか。
「ひょろくて、弱っちくて、頼りないだろうけど、咲紗ちゃんを守ります」
真剣な顔つき。――これは、思い詰めている。
「大丈夫です。私が白鳥さんをお守りします」
「えっ?」
「あ~、そうじゃなくてですね、有難う御座います」
「じゃあ、良いの?」
この子、案外せっかちだ。
旦那様から和泉家の大恩人である白鳥様の御子息、悠翔さんに何か困った事があったら力添えする様に言付かっている。困り事ではないが無下には出来ない予定外のミッション。
リソースを裂けないので、恋人ごっこして、いずれ別の女の子に興味が移るまでそれらしく振舞って、御満足頂けば良いだろうか。
でも、少し引く話をしてみようか。
「私には彼女、恋人には不向きな理由があります。それを聞いてからにしませんか?」




