3-6.
「朝チェックアウトしてから一〇分で結構です、お時間を下さい、お願い
します!」
事務所の役員を紹介したいからと、スカウト氏は天に仰ぎ地に伏し、額を擦り付けた跡を砂浜に残す懇願を繰り返す。それでも渋る私に、これこの通りと下げ続ける頭と両手で、見事な三点倒立土下座を披露した。
器械体操選手か、こいつ?
エクストリーム土下座披露会場を後にして、皆と合流して報告したが、予想に反して笑いは全く起きなかった。
藤森玲奈のコピー人間が現れた!
脳内で叫んでいたと皆が言う。
「玲嗣君。藤森さんの姉妹に間違われたって? そりゃあ、そうよね」
乙女が笑いを堪えている。
「夏休みの自由研究は、新しい世界に目覚めた玲嗣君の観察日記にする」
玲嗣を激写していた美里がサムアップする眼には確信が籠っている。
貰ったパンフレットと名刺をちらりと見た乙女が、話聞いてみるの? と聞く。
「七色の土下座が面白かったから、帰る前にラウンジでアイスコーヒーを頂いて、一〇分間だけ付き合ってあげるわ、って言ってあげたのよ」
隣に玲嗣を従えた私は、特大ビーチパラソルの作る日陰の下、ビーチチェアで寛ぎながらハイビスカスに飾られた大きなグラスのトロピカルカクテル、実際はポリカップ入りのソーダを手にセレブの真似事。
「まま。ちれーな ねーね、ふたっちゅ」
「そうね、綺麗なお姉さんが、ふたり、いるわね」
なぜか小さな女の子に滅茶滅茶ウケが良い私と玲嗣。
幼心を大切にと、にっこり笑って手を振るサービス。
冗談もお世辞も知らぬ純粋無垢な幼児に綺麗なお姉ちゃん認定された玲嗣。
二度目だよ、とぼやきながら、嬉しいか、悔しいか、白鳥と女子一同が笑い転げるのを半ば憮然としながら見ている。
うっとり見ていた咲紗でも、似ている、と零しては笑いを堪えている。
白鳥が、前から思っていたが、と前置きすると切り出した。
「藤森さんと玲嗣って、髪型とプロポーション以外全部似ているよな? 偶然かな?」
「そうそう! 玲嗣君が髪切る前は双子かと思っていた」
「うん、私もそう思っていた」
「悔しいけど、似ていますね」
くすっ
咲紗がなぜ悔しがるか分からないが、頬を緩め忍び笑いを零した私は、ビーチチェアの上で転がるとうつ伏せで玲嗣を見詰める。ゆさっ、と揺れた大きな胸が露わになっているので当然視線はそこに注がれる。
そう、この大きな胸と股間と身長だけは私と違っている。
「やっぱり似ているでしょ、私と玲嗣。当然なのよ」
「何で当然?」
答えを教えろの勢いで玲嗣が尋ねる。
「玲嗣が受精卵になってから、運命の赤いやつで私と結ばれた関係だから!」
「は? 受精卵? 無茶苦茶早い青田刈りだな」
矢張り考えが及ばなかったらしい。
玲嗣、そうじゃないよ。受精卵に命を運ぶ赤いやつって、何のことだか分かる?




