3-3.
「ぅうへえぇ~」
校舎から外に出た途端、我慢強い咲紗が呻き声ひとつで戦意喪失を宣言した。
「蒸篭で蒸される茶碗蒸しや中華まんはこんな気分なのかも知れないな」
「赤道直下のジャングルの方がまだ我慢出来ます」
咲紗、そんな所で何していたの?
夏季補習が終わり雷雨を遣り過ごす間、学内寮の白鳥君の部屋で涼んでいれば、カレンダーを見ていた藤森さんが唐突に叫ぶ。
「海に行こうよ!」
部屋中を疑問符で満たす余りにも唐突な提案に、今からでは宿も鉄道も予約出来ないと一同が懸念を示す。意に介すことのない言い出しっぺは黙々と各所へ連絡を続けていたが、突然笑顔になると全員のモバイルが鳴動を始めた。
「○○駅前スクールバス乗場の脇あたり。明日朝八時集合。待ってま~す!」
前日の余りの手筈の良さに騙されているのかと半信半疑ながら集まった白鳥、
早乙女、多梨、咲紗、俺の五名は誰からともなく藤森さんに聞く。
「電車乗らないの?」
「あと三分待って」
動かずにモバイルを見詰め続けている藤森さんの意図が分からない。
「よしよし、来た!」
行き交う車以外誰も接近していない。
「藤森様でいらっしゃいますか」
「はい、藤森で御座います。今日はお世話になります」
止まった車のドライバーにモバイルの予約票を示した藤森さんが丁寧なお辞儀で言う。
「お待たせ致しました。では、どうぞ」
目の前にはスライドドアを開けたワンボックスタクシー。それも豪華なやつ。
「デカイ乳が邪魔だよ。端に寄りなさいよ」
「ちっちゃいんだから覗き込みなさいよ」
俺は片肘ついた頬杖しながら、仲が良いのか悪いのか、郊外の風景を見ながらじゃれ合う二人、咲紗と藤森さんは対照的だなと思いつつミラー越しに見ている。
美の女神の具現、可愛いさと美しさの融合。飄々、生真面目。
ギャルっ子、ロリ。女が憧れる存在、男が愛でたくなる存在。
では二人に共通するものは何がある?
奇麗に整った顔貌、年齢不相応なプロポーション、全国トップレベルの頭脳。
……二人とも機能強化型アンドロイドみたいだな。……ま、そんな訳ないか。
考え過ぎた俺は、再び後部座席の掛け合い漫才を眺める。
「見えた! ちょっと、あそこ、海だよ」
「あ、本当だ、海だ!」
「あんたじゃないよ。玲嗣、海だよ」
「玲嗣さん、海ですよ、海!」
「ヨロレイヒー」
「それは山だろ、バカ女」
「じゃあ海は?」
「オーッイア~ン!」
「ここは日本だ、バカ女」
あぁ、そうだったんだね。二人は漫才機能強化型アンドロイドだったんだね。
「あ、潮の香りがします」
「本当だ! 良い香りだねぇ」
「それ……、芳香剤。窓閉まってるし」
才色兼備。完全無欠。……但しハイテンションでなければ。
「うわあぁぁぁぁ! 海だあぁ!」
「広いですね!」
目的地に到着した。車から降りると目の前が開けた。今度こそ潮の香りがする。
咲紗と藤森さんはそのまま駐車場を全力で走り出した。
「止まれ! そこ車道だ!」
「玲嗣さん、これが海ですね」
「ああ、海だな」
砂浜で波の音と海風を感じていれば咲紗が言う。
「では作戦要領通り、砂浜に地雷が敷設されていないか確認を」
「何の作戦だよ?」
「では海中の機雷を先に」
「危険海域だな。分かった分かった」




