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1-2.

 コツ、コツ、と踵の音。

 モーセの奇跡か、彼女が進むたび人垣が左右に割れていく。

 彼女は声を張り上げ、私の名を呼んでいる。余りに似ていて思わず返事しそうになった。

 とんとん、と肩を突かれて振り返れば連れが視線を求めていた。

「コピーしたみたいに似ている方ですね。私が知らない御親族ですか?」

「な――、いやいや、全然知らない」

 懐かしい、という口まで出掛かった言葉を飲み込んだ。

 本当に知らないと言い切れなかったのは、初対面の筈なのに胸の奥がざわついたから。


「噓でしょ? まさか、本人?」

「ほら、新人モデルの、何て名前だっけ?」

 彼女が何者か、周りが先に気付いた様だ。どうやらモデルらしいけど、詳しくは知らない。

「そっくりさん? じゃないよ、本人だよ」

 周囲から本人なのか確かめたい声が飛び交う。

 私はそんな事よりも、なぜ彼女が私を探しているのか考えた。

 気付いた。

 ボディチェックでもする様にパタパタと上体を触れ、バッグを改める。

 通学定期、財布、モバイル、入学通知兼学生証引換券、キーケース。

 全部ある。

 親切な人が落とし物の持ち主を探しているのではなかった。


 目を見張るばかりに美しい彼女が奥へと進み入り、小高い花壇の縁石の上に立つと周りを見渡す。

 首を竦めて背を屈めた私は身を潜める。何か起きそうな予感から隠れている。

 何が始まるかと全員の耳目が集まった。喧騒が静まった。彼女が胸を反らせた。ジャケット前合わせのVラインがUの字になった。ボタンが千切れ飛びそうに攣っている。

 彼女は反らせた胸を屈めながら、風に漂う花弁が吹き飛ぶ大声で私の名を呼んだだけでなく、出てきなさ~い! と付け加えた。まるで立て籠もり犯に投降を迫っている様だ。

「彼女に何かしましたか?」

「何もしてないって。今日初めて見た……、とは思えないけど。初めて会った人だもの」

 いる筈のない人がそこにいる。コピー人間か、怪奇現象か。頭の中は混乱する。


 獲物を求め周囲に視線を巡らせていた彼女が私達を向くと動きを止めた。

 あっ、と唇が開くと、頭上に伸ばした腕を大きく振る。

 周りを見渡したが、その他大勢の誰一人として何の反応もせず放心状態で彼女を見ている。目標を捕捉したらしい彼女が人波を掻き分けながらこちらへ近付く。

 彼女は必死に私の名を叫んでいた。

「えっ? 私? えっ?」

「いた!」

 ロックオンの大きな声。疾走していた彼女がスカートをはためかせ飛翔した。

 長い滞空時間。スロー再生で網膜に刻まれる弾ける笑顔。

 そこには邪心の欠片もなく、絶対に受け止めてくれる確信が満ちていた。


 視界が飛んだ。背中に衝撃。腰に重さ。手首は固定され足先だけばたばた動く。

「見付けた! もう離さない」

 近い、近い、近い。――えっ、涙? 唇と唇が――、柔らかい。彼女が微笑む。

「やっと――。よかった」

 そう言い残すと早足で去った。

 なぜか懐かしい香りが呼び覚まされた。深い深い記憶の奥底に触れた懐かしさ。


 傍で見ていた連れが無言で近付くとそっと私の背に触れる。

「昔、会っていた方ですか?」

 群衆が動き出す。連れは小さな掌で私の背の埃を払った。

「何だろう、思い出せない。記憶も、あるのか、ないのか……」

「頭を打ったかも知れませんね。病院、行きますか?」

 皮肉を流して、私は問う。

「なぜ迎撃しなかったの?」

「徒手でしたので。加害の意思を確認すれば、即座に排除しましたが」

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