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1-1.

父は脚立から落ちてきた母を受け止め、下敷きになった。

それが二人の出会いだったらしい。

私は軽やかに空へ舞った美少女を受け止め、下敷きになった。

それが彼女との出会い。

外すつもりのない眼差しで飛んできた彼女。

その時。

隣の()れが一歩前に出た。

その指を隠し武器に触れながら。

連れが傍にいる限り、私は大抵のことでは死なない。

 構内に入ると囁き合う声が耳に届いた。

 時折こちらへ向く視線がある。

 足を止める気配も珍しくない。

 どれもこれも外見についてなのはいつものこと。

 幼い頃から様々な人から言われ続けてきたそれらは、今では挨拶と変わらない。

 慣れてしまえば、気に留めるほどでもない。決して、自惚れている訳ではない。

「予想通り、目立っていますね」

 気になったのだろう、隣を歩く小さくて可愛らしい連れに声を掛けられた。

「もう慣れているから何も感じない」


 人波から聞こえるお喋りが波の様に私の耳に寄せては返し続けている。

 風に(そよ)ぐ度、淡い桃色の雲を成す並木から舞い散る桜吹雪。

 視界の端の連れは後ろを振り返っていた。

「歩くの早くない?」

 柔らかく射し込む陽光を二人で浴びながら、何か気に掛かるのか周りを見渡している連れの歩幅に合わせてゆっくり歩く。

「?」

 周囲の喋り声と異なる何かに耳が反応した。

 振り返っては周りを見渡してみた。特に注意を惹くものもなく、前を向くと歩き続ける。

「あれっ?」

 自分の名を呼ぶ声だったかも知れない。

 足を止め周りを見渡す私に連れが尋ねる。

「どうかしましたか?」

「誰かに呼ばれた、様な……、――あはっ、可愛い」

「失礼っ、ですねっ。これでも、真面目にっ……やっているん……ですよっ」

 爪先立ちして周りを見渡していたが、私より三十四センチメートル低い視点を補おうとしたか、ぴょんぴょんと連れが跳ねる。最後の一際大きな跳躍とともに文句を言い切った。

 でも、変わった所はなかったらしい。私を向いて小さく頷いた連れと先へ進む。


 入部勧誘のチラシを貰うのと引き換えに、正門前で連れと並んで記念撮影して貰った。

 大声を張り上げる部活動やサークルの勧誘、拡声器で案内する職員、入場者を誘導する警備員。同伴者を探す来場者。舞う花弁の中で入り乱れる人々。悲鳴の様に甲高い歓声。鼓膜を震わす野太い激励。大波の様に交錯して押し寄せるお喋り。

 違う。あの時とは違う。似ているだけ……。

 私は気のせいだと思った。それなのに足が止まった。スカートの裾から覗いた左脚の傷跡が少し疼く。

 歓声が悲鳴に聞こえる。耳鳴りがする。息が苦しい。冷や汗が出る。景色が色を失い歪み始める。

 駄目。思い出したら駄目……。

 

「また 思い出してしまいましたか?」

 包まれた手の感触で呼吸が戻る。小さな傷だらけの手が私の手を包んでいた。

 きゅっと手を握る連れが至近から視線を合わせて覗き込んでいる。

「大丈夫です、私が傍にいます。あの時の様に離れ離れになったりしませんから」

 良かった。ここにいてくれる……。

 心配などいらなかった。温かい連れの手は私の御守り。それは今も変わらない。


「あの子、ここの生徒か?」

「プロのモデルだよ。綺麗過ぎるって」

「ウチの制服着ているぞ」

「パンフかホームページの撮影だよ、絶対」

 通り過ぎる人波から漏れ聞こえる平和な言葉に釣られて後ろを向いた。

 その瞬間、全身の動きが止まった。隣の連れは、あっ、と小さく声を漏らした。

 なんでここに……。いや、そんな偶然、あるわけないでしょう。


 信じられない光景だった。

 視線の先には若さと清楚さを武器にした反則級の美女が立っていた。

 男なら本能がざわつき、女なら羨望か嫉妬に身を焦がすに十分な存在。

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