2-9.
嬉しい。本当は凄く嬉しい。――でも、まずい事になった。
いずれ会社の後継者になる玲嗣さんが娶る相手としての必須条件が欠けている私。元から結婚など出来る筈のない私が玲嗣さんの枷になってしまう。私がいると将来に悪い影響を与えてしまう。
とぼとぼと廊下を歩きながら考えを巡らせた。
焚き付けて望ましい大学へ一緒に進み、同じ会社か研究機関に二人で採用される。社会人になれば私以外の素敵な方との出会いがいっぱいある。モテるのは間違いないから、玉の輿狙いや怪しい奴を弾き飛ばして、玲嗣さんを大切にしてくれる方を見定める。相手の心の内を見抜くなど、私は簡単に出来る。
そうしよう。
道が示され目の前が明るくなった。晴れやかに足取り軽くスキップで跳ねて歩きたい気分になった。
「!」
足が止まった。私の晴れ空が急に曇った。
社会人となった玲嗣さんを結婚式で見送った後の私はどうなるの?
残された私は独りで生きていける? どうやって生きていく?
私の足取りは、鉛の靴を履いたかの様に重くなった。
「咲紗、約束して欲しい事があるんだけど」
「約束……ですか? 内容によりますが」
進路相談のあった日の夜。
夕食後の洗い物をしながら小首を傾げた私へ、玲嗣さんが予想外を告げる。
「突然いなくならないでね」
面談の時に聞いた事なのか、幼少の頃負ってしまったトラウマかは分からない。
「藤森玲奈の様にべったり張り付けとでも?」
一旦話を逸らしてみたが、首を振る表情から真剣なのだと分かった。
「玲嗣さんが独り立ち出来るまで、私は傍にいるとのお約束でこちらにおります。いなくなったりしません」
「その約束……、果たされた後は?」
何かと鈍い玲嗣さんだが、時として鋭くなる。
昨日私が不安に陥ったものと同じ事に気付いたかも知れない。
「戻ってきてから旦那様の養女にして頂きましたので、ここに居続けられると思いますが」
小さく頷いても逸らさない視線が無言で続きを促す。
正解など知らない私は答えを先送りするしかない。
「その後の事は、何もお約束出来ませんが、その時に最善を選びたいと思います」




