2-7.
「相談は、進路の事なんだ」
「うん。聞かせて」
「家業、継がないと、ダメかな?」
「お父さんは何と言っていたの?」
「気にせず、自分の好きにしなさい、って。でも、ひなちゃんはそうじゃないらしくて」
「そうだよね。数多くの命を救い続ける薬剤を絶やしてはならないから、日向ちゃんがそう言うのも当然だろうね」
父の妹、ひなちゃんこと叔母の和泉日向。母が他界してからまだ幼かった姉の輝子と私を母親代わりとして育ててくれた。その恩に報いたいし、以前から聞かされていた事業継承の考えは間違えていないとの考えから、無下に出来ない。
母親AIは暫く沈黙すると話し始めた。
「国外の大学で研鑽し、最先端の研究機関で通用する人材を育てる。その道を自らが切り拓く為に徹底して学び、考えさせ、議論を戦わせ、新しい気付きを得る経験から世界基準を超える人材を育成する。その為にお父さんが設立発起人になった学校でしょう」
「そう聞いているよ」
父の会社が得た利益と私財を元に設立された、科学者養成校とも呼ばれる世界に類を見ない科学系エリート高校で学んでいても悩みは他の高校生と変わらない。
「猶予時間はあるから、高い学力を維持して将来展望を広く確保していれば良いと思うよ」
そう告げると、明日担任に聞かれるのよね、と確認した母親AIは言う。
「父の会社を継ぐので外国の研究機関で修業出来る様にします、って一旦答えて、お父さんと私と話し合って決めたらどうかしら?」
「今のところ、それが無難だよね」
母親らしい真面な答えに納得した。
母は後ろで話を聞いていた咲紗に話し掛ける。
「咲紗ちゃんの進路は、どう答えるの?」
「それが、まだ決められませんので、悩ましいです」
「そっか。う~ん、そうなっちゃうよね」
母親AIが真剣そうな表情で考えている。
しかし、その表情に僅かに企みが窺える。
この場合、少なくとも答えはズレて、大概はブッ飛ぶ事になる予兆なので警戒した。
「和泉家に永久就職しますって答えなさい」
「えっ?」
期待を裏切らぬ母親AIだが、ブッ飛ぶまでにはならないレベルにむしろ驚く。
「和泉家の会社に就職、でなくてですか?」
「そうよ。貴女の傍にいる人の生涯のパートナーになるの」
前言撤回。矢張りブッ飛んだ。
言われた私は驚きながらも、咲紗が母親AI相手にあたふたするぞ、と思っていたが、咲紗は反応せず、動きもしない。
「それは――、駄目ですよ……」
力ない声が静かな部屋に漂っては消えた。
「私、結婚しても相手を失望させるだけですから。誰が相手でも出来ません」
「そんな事ないよ。とっても良い奥さんになれるよ」
フォローする母親AIに咲紗は尚も言う。
「私には致命的な欠陥があるとご存知の筈です。お嫁さんにはなれません」




