2-4.
昼休み。カフェテリアのテーブルに自然と集った六人。
咲紗の左隣に座りプレゼンしあった女子、多梨美里さん。
白鳥君の右隣りに座る女子、五月女乙女さん。
それに白鳥君、私、藤森さん、咲紗。
脚が震えながら、発熱しながら、戸惑いながら、警戒しながら。
それでも初日から日を追う毎、何とか会話を増やして緊張が解けるに従い、脚の震えも発熱も現れなくなった。話してみれば警戒など要らぬ普通の高校生だと分かったメンバーとお近付きになった。咲紗は藤森さんだけ警戒継続中。
お喋りが満ちるカフェテリア。休み時間に飛び交う会話は偏差値無縁で
ごく普通。
でも私の耳は私についての話題を聞き分けている。
肩下までの髪、色白な肌、母親似の顔貌、甲高い声。
女の骨格を持つ個体が左前のジャケット、ブラウス、リボン、スカート、
ストッキング、ローファーで武装すればほぼ全員が女と間違えるのは仕方ない
事だと思う。
「さっすが、良く分かっている」
「玲嗣ちゃんはママそっくりで美人さんよ」
可愛いのを選ぶと姉と叔母が喜ぶ。
子供の頃の映像を見れば、可愛い服を着ている女の子だと自らが納得してしまう。幼稚園ではスカートの制服。小学校ではスカートの私服。男用制服を選ぼうとした中学では詰襟立襟、所謂学ランの前時代的無骨さが受け入れられずセーラー服一択。
女装だと周りから揶揄する声は、都内三位以内、全国十位以内、無論校内一位の成績を一度も譲らず封殺した。そして臨んだ高校の制服試着会場に矢張りトラップが仕掛けられていた。
「スカートをウエストで膝上まで巻き上げれば美脚で悩殺だよ」
「誰が誰を?」
「髪を風に戦がせて、裾を翻してくるりと回ってごらん、皆美しさに釘付けだよ」
「そんな事ないよ、無理だよ。何言っているんだよ」
カッチリしたブレザータイプの展示品を見て、ズボンにジャケットも大人っぽくて良いかなと思い手に取った。しかし、悪魔は怯まず囁く。
「無理はないよ、皆が奇麗だって言うよ」
「そうそう。長い髪も美容室で整えて、大人の女のイメージにしよう」
悪魔二人は私の手からズボンを奪うとスカートを渡し、試着室を示して畳み
掛ける。
「まずは左前とスカートで。ズボンと右前も買ってあげるから」
着せ替え人形扱いにぐずぐず悩めば、大人の切り札を出してきた。
「左前のスカートで入学式の写真送ってくれたら入学祝いをはずんじゃうから、ね?」
「何人騙せたか教えてくれたら、私からも学資金進呈しちゃう!」
キャッシュを餌にクラスメイトにトラップ仕掛けろ、騙してみろと唆す
大悪党ども。
大学では女装するつもりはない私。
ならばこれが生涯最後の着せ替え人形ごっこ。
言われるまま溜息と共に試着してみれば、セーラー服より大人のイメージがした。言われたまま試しに膝上丈にした。言われたまま試しに鏡の前でくるり回ってみた。自惚れではなく意外な事を感じた。
奇麗だ。他人を不快にしないレベルだ。
試着室のカーテンを開ければ悪魔二人が全ての動きを止めた。
時間が止まったかのように全く動かない。
母親代わりに育ててくれた二人を喜ばせるのも必要かと思った。
くるりと回ってみた。
悲鳴にも似た感想を垂れ流しながら只管モバイルで撮影する叔母。
容量足りる?
ママ、こんなに立派に育ったよ、と涙を流す姉。
立派って、この姿が?
良く分からない狂乱状態に陥ったらしい恩人二人。私は覚悟を決めた。
天国の母さん、見ていてくれ。ここで一発、漢気出すぜ。
「スカートにするわね。……一番可愛い組み合わせで」




