2-3.
「Ti amo!」イタリア語 英語なら「I love you」 愛している!
「Ti amo!」
「朝の挨拶は、お早う御座います、だろうが。やはり痴女だな、露出狂!」
ここはイタリアではない。学校の最寄り駅、バス乗場。
「ねぇ、知ってる? 私とお付き合いすると公式特典いっぱいなんだよ」
「人の話聞け! 公式って何だよ? インチキイタリア女!」
咲紗に突っ込まれても何処吹く風で私に抱き付いたまま離れない藤森さん。突き刺さる周囲からの視線など気にする様子もない。
「これからも毎日一緒だよね!」
話題が飛び跳ねて会話にならないが、じーっと私を見詰め続け、答えを求めている。これは何かの前振りだと気付いた。
「そ、そう――ね」
「毎日一緒の相思相愛って、特別な相手を飛び越えちゃって、生涯のパートナーでしょ? 今気付いた私って鈍感!」
「鈍い奴が謎の仮説ブチ上げるな! って、再生始めやがった。――こいつ人の話聞けよ」
咲紗の苦情など気にもしない藤森さんが差し出すタブレット。百合の花いっぱいな背景に文字が浮かぶ。BGM付きのオープニングは才能の無駄遣いの予感。
藤森玲奈とお付き合いしよう!
和泉玲嗣♡限定! 嬉しい特典の数々!
ひとつめ 絶世の美少女が24時間365日貴方だけのものに!
ふたつめ あんな事もこんな事も叶う! デートチケット無制限プレゼント!
みっつめ カップル誓約(成約)特典! エッチ♡なボディタッチも好きなだけ!
よっつめ 関係が終わっても大丈夫! お茶飲み友達生涯保障!
その他特典のご案内・お申し込みは、年中無休でオペレーターを増員して受付中!
テレビショッピングかコマーシャルか……。
「ちょっと待って……、突っ込み所が――」
「うふっ。あなたの突っ込み待ちよ♡」
コースアウトを始めた藤森さんへ指摘を躊躇っていれば、咲紗がすかさず突っ込んだ。
「美人局? 新手の詐欺? 老人介護予約? 乳見せ猥褻女が怪しいプレゼンするな!」
「爪先立ちして勝手に覗くなんて、嫌ねぇ」
咲紗を牽制する藤森さんは、プレゼンのデータを私のメールボックスに飛ばしたよ、と言うとタブレットをバッグに仕舞った。
私は視界に入った瞬間に気付いていた。藤森さんのファッションが昨日とかなり違って露出度が高い。テンションも高い。
変なクスリ――いや、細菌感染でも――。
「露出が凄いな。脳関門腐って頭にばい菌回ったか」
同じ事を考えていたらしい咲紗が言葉で牽制する。井出達の特徴をモバイルで検索すると、その昔の女子高生ファッションで、ギャル、と呼ばれた様式らしい。
教室でも胸の谷間を露なままの藤森さんにいじられていた咲紗が突如
立ち上った。
藤森さんに向けていた射す様な視線がふと外れた。
まずい、咲紗が何か仕掛ける。私は警戒した。
藤森さんは大きく見せようとしたか背筋を伸ばし、ブラウスのボタンを飛ばさんばかりに胸を張り、身体を向けると視線も向けた。
懸念に反して藤森さんの脇を素通りした咲紗は右隣りの男子の肩をとんとんと
叩く。
「白鳥悠翔さんですか?」
近付いた咲紗に気付き振り向いた男子は気圧されたか上体を反らす。
「はっ、はい。あの、どちら様で」
女子生徒に突然話しかけられた白鳥君は明らかにおどおどしている。
「私、このクラスの和泉咲紗と言います。あちらの和泉玲嗣の家の側用人です」
「ぶっ! そばよーにん」
「江戸時代か?」
あちらの和泉は噴いた。時代錯誤を藤森さんが突っ込む。
「貴殿の御尊父は和泉家の大恩人であると家長より伺っております。お困りの事が御座いましたらいつでもお声掛け下さい」
「ち、近くて、困っています」
咲紗が深々とお辞儀する顔が、白鳥君の赤く染まった顔の寸前で止まった。
一歩離れてお辞儀した咲紗は昼食を一緒する約束を取り付けると微笑みを残して席に戻った。そして放心状態の白鳥君が残された。
「ねぇ、あの小さな子、君のタイプなの?」
すかさず藤森さんが探れば、はい。私の好みど真ん中です、と表情で返事する
白鳥君。
「頑なだけど、口説き落とす価値ありの本当に良い子だよ。ロリ巨乳ってレア
だしね」
頷く白鳥君にサムアップした藤森さん。
なんだろう……、咲紗を売り込まれて胸の奥がもやもやする。




