12-11.
卒業式の翌日。
階下の台所からの音で目が覚めた。咲紗が朝食の用意をしている音。
暫く学校がないので寝坊すれば良いのに、と思いながら着替えて下りる。
いつもの朝の挨拶、いつもの温かい朝食、いつもの咲紗の笑顔。
その表情に僅かな陰り。
「咲紗、何かあったか?」
「良いのですか、行かなくて」
食後になっても陰る表情の咲紗に尋ねれば言われた。
俺達は同じ事を考えていると思う。
「玲奈の見送りへ――」
「行っても良いのか?」
矢張りそうだった。小さく頷く咲紗の表情。困惑が増していた。
「誰にも見送られないと寂しいと思います。出発時刻と便名、私達以外に言って
いませんよ」
外出着に着替え、玄関に向かう俺に咲紗が突然抱き付いてきた。小さな身体をゆっくり離せば、への字に結ばれた唇から苦しそうに言葉が放たれた。
「行ってきて。――」
小さな手が服の裾を掴む。
「どうした?」
咲紗は首を振る。
「でも……必ず――――」
掠れた声は最後まで聞き取れなかった。
空港地下駅から走った。
出発案内を確認すると人混みを擦り抜け最短距離を走り抜ける。
保安検査場を小走りで見渡し、ゲートの中を全箇所覗いた。
足を止めたデジタルサイネージの航空会社、便名を確認した。
出発時刻を過ぎている。
まだ弾む息のまま滑走路に向かう航空機を眺めながらベンチに座ればモバイルが着信を告げた。
『滑走路に向け移動中。さらばだぜ、愛しい人』
エスカレーターで上階に向かう人の列に妨げられ、階段を駆け上がる事で腹立たしさを削ぎ落とす。息切れた踊り場で肩を上下させながらメッセージを飛ばした。
『いままでありがとうもとかれれいじ』
変換せず飛ばした途端にまた着信した。
『こんな我儘女の彼氏でいてくれて嬉しかったです。咲紗と幸せになって下さい。玲奈』
何だこれはと舌打ちしていた。
起死回生など望めないと分かっている。
他人行儀な別れを告げられても認めたくない。
モバイルを尻ポケットに突っ込むと、五階の展望デッキへ向かうエスカレーターを小走りで上がっている。搭乗機が離陸するまで一〇分前後掛かる。
見送れる筈だ。
息せき切らせた俺の尻ポケットにまた着信があった。
『いいおとこつかまえたらしょうかいする』
手にしたモバイルに打ち込んだ文字。
止まったままのカーソルを逆戻りさせて消した。
低く垂れ込める雲に消える搭乗機。
コートの襟を立て、送信出来なかった文句を白い息と共に吐いて見送った。
『そんなの いらないよ』




