12-9.
「イェーィ!」「早く、こっち!」「最後くらい、泣き顔なしだよ」
歓声とシャッター音が周囲から響く。
「先生も一緒に、早く早く!」
「こう言う時だけ俺も売れっ子だな。ま、藤森にゃ負けるけどな」
じゃあ、撮るよ~。Stay! Say cheese! ゥエェ~ィ! パシャッ!
「渋宮さん、空野さん、狭山さん、こっちこっち! 写真写真!」
何度も響くシャッター音。囲む仲間達。肩を組む恩師。
終わりを迎えた高校三年間。
天井知らずに学力を求められた。自分が設定した限界を精神力で突破した。仲間と意見が衝突した事もあった。女子達は姉の様に見守り、妹の様に叱ってくれた。
元は赤の他人だった仲間達。崖崩れ事故で団結して助け合い、危機から全員生還し、深い信頼と忌憚なく本音をぶつけあえる関係を築けた。
子供の頃から人を信じる事が出来なかった俺に出来た腹を割って話せる仲間達。
「留学先に引っ越すのは夏頃だっけ?」
早乙女が寄り添う白鳥に聞かれた。語る季節と手にする衣服は正反対。
皆がコートを纏う手にはマフラー。
「それまで準備があるから何回か行ったり来たりだよ」
左腕にしがみ付いて立っていた咲紗に小さなコートの腕を通すと着せ掛ける。
前に回って片膝を突き、ボタンを留め、自分も手早く纏った。
それを見ていた女子は口々に同じ事を言う。
「咲紗ちゃんを大切にしてあげてね。旦那さんなら当然でしょ?」
「旦那じゃないけど、言われなくても」
からかわれていると分かっている。少し照れながらOKサインで返答する。
左腕にしがみ付く咲紗の表情は分からない。頭の天辺しか見えないから。
「次の出演決まったら連絡入れるね」
元彼女が近付いてきた。
久し振りの対面に胸が高鳴るのは、少しばかり見なかった間に大人びて美しく
なったと思ったから。近付くほどにしがみ付く咲紗の右手に力が籠る。
「遠いからそう簡単には会えなくなるな」
言葉に詰まりかけながら返した。
「北大西洋の向こうとこっちでしょ? 近いよね!」
「地球儀指すノリで語るな」
最初から最後までこの調子だった玲奈。
咲紗が警戒して構えている原因でもあるのに。
今夜は我が家ではなく空港近くのホテルに泊まり、明日昼前の便で留学先のスイスに戻ると言う。
「見送りはいらないよ。あ、でも、ドラマみたいなのやりたいかな。搭乗口の前でギュってやつ。出発時間、メッセージで飛ばすね」
勝手に一人で喋ると満足したか、
「咲紗、玲嗣のお守り、頼むね」
隣で小さく頷いたのが視界の隅に映った。今までなら毒舌が火を噴くところだが、なぜか大人しい。
「元カノの私が元カレに、こんな事言ったらダメなんだろうけどさ」
玲奈が俺を向くと独り言のように言う。
「咲紗に何があっても信じ抜いて、拠り所になってあげて。独りにしてはダメだからね」
「私はそんな」
「玲嗣、頼んだよ。じゃあね、バイバイ!」
俯いた顔を上げた咲紗の言葉に被せて遮った玲奈は、白鳥早乙女カップルの元に足を向けると、多梨と共に戯れ始めた。
玲奈の言った、拠り所。それが何を意味しているのか分からなかった。
口々に別れを告げた皆を見送り、卒業式典の片付けが始まった構内に
咲紗と二人。
「寒くない?」
「少し、寒いです」
か細く弱々しい声を聞き、咲紗のカバンからストールを取出すとコートの襟元から頸に回し掛けて胸元へ端を挿し込んだ。小さな手袋を取り出し、手渡した左手分を嵌めると、小さな右手を差し出すので手袋を嵌める。
抱き上げると車椅子へ座らせた。
「じやぁ、押すよ」
カバンを膝上に乗せた咲紗の返事を待ち、ゆっくりと最寄り駅まで歩く。
「本当に私が彼女で良いのですか? 後悔しませんか?」
咲紗の突然の問い掛けの重さに足が止まった。
周りに在校生達が誰もいなくなった頃、聞いてきた咲紗。
車椅子のブレーキをロックして前に回るとしゃがんだ。
「どうした、今更そんな事聞いて。何かあったか?」




