12-8.
「じゃあって何ですか? 手近な私で間に合わせようって魂胆ですか?
私達、もう十五年も付き合っているのですよ」
「じゃあ、一旦別れよう」
「それ――、どう言う、じゃあ、ですか?」
咲紗が慌てている。俺の魂胆が分からないだろうから当たり前だと思う。
「今までの関係よりも、俺の彼女に進化したらどうなるか見てみたい」
ぷっ! と噴いた咲紗が呆れながら、笑いながら俺に言う。
安っぽい恋愛ゲームに害されたかと思いましたよと、ゲームを全くしないのを
知っていて言う。
「玲嗣さんは私の事、好きなのですか?」
大きく頷く俺に咲紗の質問が続く。
「その好きはどのようなもので、どの程度の好きですか? 後悔しませんか?」
玲奈にも似た様な事を聞かれた。これが女性の標準なのだろうか?
無意識に小首を傾げていたら尚も聞かれた。
「私を彼女にする以上、玲嗣さんに覚悟を求めているのですよ」
覚悟とは何の事かと尋ねた。
「私に求めるものが深くなるに従って、和泉家に来る前の私も知る事になります。それは誰でも理解出来るものではないです。幻滅して拒絶されるかも知れません。ですので、過去を探らない恋人同士か、セックスフレンド止まりにするのが良いと思いますよ」
確かに、過去の話は必ず逸らされ続けていた。
知った後に咲紗に対する気持ちがどの様に変化するかなどは分からない。
「その先が愛か拒絶かは分からない。でも、いつも傍にいてくれて、守ってくれる人に、俺が出来る範囲で出来る事をしてあげたい。その為に時間を費やす事に後悔はない」
普通は照れてしまう台詞でも、咲紗が相手だと臆面もなく伝えられる。
バカにしたり、からかったり、嫌がる事を絶対しないと分かっているから。
「咲紗に対する俺の好きは、ずっと傍にいて欲しい好きだ」
柔和な表情のままの咲紗は視線を外す事なく言う。
「玲嗣さんのお考え、良く分かりました。そのお気持ち、お請け致します」
悪戯っぽく微笑みながら覗き込む、小さくて可愛い俺の彼女。
「但し」「えっ?」
命懸けの質問は現実に引き戻すから、控えて欲しいと言う。
年齢を結構気にしているのならば尚の事知りたいが、要求を受け入た。
肩を抱き寄せると身体を凭れ掛ける。頭に手を添えると肩に寄せてくる。
咲紗の体温と柔らかさが伝わってくる。
「お別れした者カップルだな」
「はあぁぁ~。相変わらず笑えませんね」
ムードぶち壊しです、と苦情を告げられた俺は、相変わらず雰囲気を読めない
らしい。
「少しは気持ちが上向きましたか?」
「うん。咲紗は?」
「正直ドキドキしています。新しい場所で玲嗣さんと二人、色々な体験が出来ますので」
咲紗がいなくなった事があった。ひとりになって心細かった。
でも、これからはずっと傍にいてくれる。
俺も咲紗を支えてずっと傍にいる。
それだけで良いと思った。




