12-6.
「俺達違う大学に合格したらどうする?」
「意地悪な質問ですね」
国内の大学入試が終わった日に尋ねた。
咲紗は俺へ志望する大学へ進んで下さいと言う。その代わりに、と願い出た。
「国内外いずれでも、足手纏いでしょうけどお傍に置いて頂けませんか?」
勉強に時間を取られて咲紗の面倒を見てあげられないと言っても、自分で何とかするからと聞かず、その代わりと言っては何ですが、と交換条件を切り出した。
「玲嗣さんの性欲処理を承ります」
ぶっ! 口からココアが零れた。テーブルを拭く俺を見る咲紗は笑っている。
「象さんに反応して頂けましたから」
「でもさ、やっぱり二人で一緒の大学に行きたいよな?」
「はい。勿論です」
海外進学コンサルタントが言うには、国内入試の模擬試験は二人とも上位一〇
パーセントに入っているので間違いなく合格する。国外の第一志望も二人そろって前例がない程良好なスコアで申請したので、合格は間違いないだろうとのことだ。
知り合い不在の海外。初の独り暮らし。
一人切りは苦手で不安。誰か傍にいて貰いたいが玲奈は不可能。
一緒の大学へ進んでくれる咲紗が一番心強いが、自由にならない体でハードな勉強と家事を両立させるなど相当に困難。更に俺の性欲処理など……、自重。
大き過ぎる咲紗の負担を軽減させるにはと暫く考えた俺は、人生初、御曹司が
金に物を言わせる作戦に辿り着く。
「二人で合格したら、財力に物を言わせてメイドさんを手配して貰おう」
「あら、そっち方面のご趣味なのですね?」
「そう言う趣味だったか。よし、分かった」
咲紗にも父にもあらぬ誤解を招いた。
「血は争えないな」
父さん、そうじゃないんだが。
「ヒラヒラでフリフリのヴィクトリアンメイドか?」
いや、あの、そうじゃないんだよ。――ん?
「シックにピナフォアか、中々やるな」
随分詳しいな。なんで?
考え込む俺の隣でコロコロ笑っていた咲紗に目配せすると、父に英文の書類を
手渡した。
「旦那様。学業を全うする為、ポンコツな私の代わりに家事を担って頂ける方をご手配願えませんでしょうか。立場も弁えぬお願いで御座いますが、何卒」
「おめでとう!」
咲紗と二人、びくっ、と体が跳ね上がった。言い終わらぬ内に響いた父の大声。
目玉が飛び出さんばかりに父を驚ろかせたその書類。
俺と咲紗へ、第一志望の大学から送られてきた入学許可通知。
今回の留学希望者は約四五〇〇人。合格者は一二〇人とコンサルタントから聞いていた。
入学前のオリエンテーションまでに行う事は驚くほど多い。
慌しくなるぞ、そうですね、と喋っていた俺達をニコニコ見ていた父が言う。
「咲紗は今までよく頑張ってくれた。私が手配するメイドに家事を任せて、玲嗣に思い切り甘えながら、大学生活を充実させなさい」
「はい。有難う御座います」
俺は笑顔の裏で考えていた。大学に合格した事を玲奈に連絡するか、しないか。
答えは先延ばしにした。
卒業式で会った際に報告すれば良いと自らに言い訳した。
本当は声を聴きたかった。本当は怖かった。
余所余所しく、社交辞令に終始して、話が噛み合わず、空々しい雰囲気と冷たい沈黙に見舞われるのが怖かった。
『貴方を見詰め続けるその人を認めてあげて。報いてあげて』
『どうか二人が幸せになりますように』
俺の悩みを見透かす様に、玲奈から先行してSNSが投稿された。
「……やられた」
瞼を閉じて首を反らし、自室を大きな溜息で満たした。
玲奈が俺との関係に終止符を打った。




