12-4.
今日は分からない事を教えてもらいながら練習を兼ねて夕食を作った。
冷蔵庫内には日付と消費期限が貼り付けられた密封容器にストックされた常備菜が数多く収められている。冷凍庫にもぎっしりと収められている。訊ねれば玲奈が作り置きしたものだと言う。
教わりながらごはんを炊き、味噌汁を用意して、常備菜を加熱して並べた。
こうしてみると、自分で料理を作った事はなく、姉や叔母、ごく稀に父、そして殆どは咲紗が用意してくれていた事に今更ながら気付いた。俺は咲紗に頼り切りだった。
「食事の準備、出来たよ」
咲紗に教わりながら、殆どが玲奈の手による献立が並ぶ食卓。
「はい。今行きますね」
咲紗が手にして操作していたタブレット端末を覗き込めば、スーパー、食材宅配、出前サイトのみならず、日用雑貨、衣類など、外に出なくても事足りる様にあらゆるジャンルのECサイトが登録されている。
「秋以降お一人になる旦那様と、お嬢様が不便を感じない様に、玲奈が用意していました」
そのタブレットにひとつだけSNSのアイコンがある。
“桜丘華子公式”
開けば海外進学に伴い更新頻度が不定期になる事が記されている。
事務所のスタッフが更新している、自分で更新する事は一度もないよ、と言っていたが、目を止めた記事はタイトルから明らかに本人の投稿だった。
『初めまして。そして、さらば!』
『愛しい人達と暫しお別れ。大好きな人に捨てられぬ様、大学生兼モデルは色々
学ぶよ』
『自分の内も外も磨き、花束捧げられプロポーズされる素敵な女になってやる』
何度も読み返して考えた。この投稿は誰に向けて書かれたものか?
夕食の片付けと翌日の準備が済むと、咲紗と一緒に入浴する。
脱衣場で咲紗の全裸を目の当たりにして気付き、身体を洗っている時に
確認した。
矢張り左肘と左膝、腰の左側に茶色だったり黄色だったりの内出血跡、打撲跡がある。
これくらい何ともない。平気です。気にしないで下さい。
口で言っていたが、大丈夫な訳がない。
健常だったら転倒などせず、したとしても武道の受け身で衝撃を緩和出来ただろうが、体が不自由な今では無理だ。
俺は正面に回り込み、椅子に座る咲紗と視線を合わせた。
「咲紗。なんか、色々と……、ごめん」
「えっ、何がどうしたのですか?」
「俺、ふらふらして、しっかりしてなくて。咲紗を良く見てなくて。……ごめん」
逸らさぬ視線のまま俺を見ていた咲紗は小さく頷くと答えた。
「分かりました。今日以降、少しだけ私を気にして頂ければ良いですよ」




