第四十四話 商品は蘭
「……………………はぁ〜〜〜。しょうがないなぁ――――」
刻藤は大きなため息をついて、頭をポリポリと掻いた。
「一つの情報は一人にしか教えないってのが俺の心情なんだけど……。
琥珀ちゃんと蘭ちゃんに言われたら……、しょうがないよね――」
刻藤は琥珀と蘭を交互に見やる。
「琥珀ちゃんと龍司も蘭ちゃんがいる席に座ってよ。
今、お冷やを持ってくるね――」
✕✕✕
琥珀は蘭の隣に、清野が琥珀の前に座り、刻藤を待つ。
「はい、お待たせ――」
刻藤は三人分のお冷を持ってきた。
「龍司は珈琲がよかった?」
「いや、これでいい――」
「そっ」
そういうと刻藤は清野の隣に座った。
「……で、“会員制倶楽部”の何が知りたいの?」
刻藤の質問に、三人は顔を見合わせる。
「えっと、まず……そもそもの質問なんだけど――
“会員制倶楽部”って何なんだ?」
「う〜ん。それは難しい質問だね」
刻藤は考える素振りを見せる。
「“会員”限定の集まりっていうか、あることを目的にした集まりっていうか……」
「“会員”の条件は分かっているのか?」
蘭の質問に、今度は清野が質問する。
「ん〜、分かっている範囲でいうと、『華族出身者』または『富裕層』であること、くらいかな?」
「……つまり、金持ちか?」
「あはは、蘭ちゃんズバッと言うね」
「う……、すみません……」
「いいんだよ、蘭。
こういうのは野生の勘が冴えてる方が良い――」
「……琥珀お義姉様。それって褒めてます?」
「もちろん! 僕はどんな蘭でも可愛いと思うよ!」
(話をはぐらかされた気がする……)
「……では、そこに入会する為には、ある程度の金が必要ということか……」
「……そうだね。でも、それがいくらなのかは俺でもまだ掴めてないよ――」
「……じゃあ次の質問だ――。
その“会員制倶楽部”はどこにあるんだい?」
「お、いい質問!
実は“会員制倶楽部”ってのは表向きの名前なんだよね。琥珀ちゃんと龍司なら入ったことあるんじゃない?」
「………………まさか、銀座の裏通りにある“会員制社交倶楽部”のことかい?」
「……ご明察――」
琥珀色の瞳と浅葱色の瞳が大きく見開く。
「え? その“会員制社交倶楽部”ってのは何なんだ?」
「簡単に言えば、華族・政財界人向けの交流の場所だよ」
「ボクたちも一階には入ったことがあるけど、二階は華族や政財界の中でも一部の“会員”しか入れないって噂だよ……」
「そ、一階は社交場兼サロンになっててね。たまに夜会会場にもなってるよね?
二階は会員専用のバーとか談話室があるみたいなんだよ。
……で、ここからが本題なんだけど――。実は地下に違法賭博場があるらしいんだ――」
「違法……賭博場??」
「そう、そこで毎夜ルーレットやポーカーっていうカードゲームみたいな賭博を行なっているらしいんだ――」
「じゃあ、行方不明になった令嬢たちもその違法賭博ってのをやってたのか?」
「そこまでは俺でも分からないよ」
「………………オレ、実は“会員制倶楽部”に潜入捜査の命を受けてるんだ――」
「ほう?」
「へー、陸軍も躍起になってるんだね」
「……だから、その潜入方法の助言が欲しくて……」
「潜入するなら、地下の違法賭博場だろうな――」
「…………まぁ、おそらくはそっちが本命だろうね」
「なにか潜入出来る方法ないかな?
“会員”になるってのは、今聞いてる感じだと難しいよな……。
例えばさ、そこの会員制倶楽部で働けないかな?」
「………………う〜ん。そういえばさ、賭博場っていったら“ウサギ”の格好の給仕がいなかったっけ?」
「え……ウサギ!?」
「おっと、たしかその女給は“バニーガール”っていうウサギの格好をした女給じゃなかったかい……?」
「……確かに、”客“として入り込むより”奉仕する側“として入り込んだ方が、秘密を暴けそうではあるな――」
「蘭、もし”給仕側“で潜入するなら、このボクが一肌脱ぐよ!
最高の衣装を仕立ててあげよう――」
✕✕✕
――同日。陸軍大将執務室にて。
「なに!? 亜嵐少尉に潜入捜査を一任しただと……!?」
「え! 龍也が許可したんじゃないの!?」
「俺が――!
この俺が! 蘭を危険にさらすわけがないだろ!?」
「確かにそうだよね……。
じゃあ、誰が亜嵐少尉を任命したのかな?」
「大方、黒田か灰島あたりか――」
「まぁ、そのへんだよね……。
その二人、何かと龍也に突っかかってくるし――」
「ここ数日は蘭ちゃんの社交界デビューで、亜嵐少尉自身も目立っちゃってたしね――」
「……………………。
亜嵐は今、どこにいる?」
「え? 潜入捜査の為の情報収集してくるって、どこかに出かけたらしいけど……」
「………………龍一郎のところに行く――」
白銀は椅子から立ち上がり準備を始める。
「え? 今から!?」
「亜嵐が知っている情報屋なんて龍一郎しかいないだろう――。
龍一郎が変な入れ知恵をしていなければよいのだが……」
✕✕✕
――カラン。カラン。
「おや? 今日は随分とお客が多いね――。
しかし、みんな準備中の看板見えないのかなぁ――?」
「おい、龍一郎。
ここに亜嵐はいるか?」
ズカズカとノワールに入り込む白銀と、申し訳なさそうにビクビクする龍生。
「おや、龍也に稜じゃないか!
亜嵐くん? さっきまでいたけど、もう店を出ちゃったよ〜」
「チッ。一足遅かったか……」
白銀が踵を返そうとした時、思いも寄らない声が聞こえてきた。
「おやおや? 龍也も捜し物かい?」
「……ッ! 姉上! なぜここにいる!」
「いちゃいけないのかい?」
「外の看板が見えなかったのか!?
”準備中“の札が出ていたろう――」
(あ、認識はちゃんとしてたんだ……)
刻藤と龍生は同時に思った。
「ちゃんと見えてるよ? 見えてる上で入っただけさ――」
「なんとタチが悪い――」
(いや、龍也も同じことしてるからね!)
(なにこの姉弟!! 白銀家ヤバくない!?)
(あ、今更だったわ――)
龍生は静かに息を吐く。
「それにしても蘭は勇敢だね」
「なんだと?」
「違法賭博場に潜入捜査するんだろ――?」
琥珀の口元がニヤリと歪む。
「違法賭博場といえば”ウサギ“だよね」
「は? うさぎ?」
「あれ? 龍也知らないの?
賭博場には”バニーガール“っていう――」
「ああー! 思い出した!!
前、龍一郎さんに連れて行かれた賭博場にいた、あの破廉恥な女給――」
龍生は思わず手で口を押さえる。
「…………稜。俺の知らないところで”違法賭博“をしたのか?」
「いやっ! あれは違法じゃないって龍一郎さんが言ってたよ!!
ね! 龍一郎さん!!」
「あ〜、あれは合法だよ。ちょっと特殊なお店だったけど……。
稜に情報屋の手伝いをしてもらったんだよ」
「ほらーーー!! 僕は無実なの!!」
「………………なるほど、なら、もういい」
龍生は盛大に胸を撫で下ろす。
「で、その”バニーガール“なるものは、どういったものなんだ?」
「ピッチリとした洋服に、ウサギの耳としっぽをつけているのさ――」
琥珀が両手を頭の上に乗せて”ウサギの耳“を作る。
「なっ!
――姉上がなぜそれを知っている……」
「ふふふ。それは秘密――」
「…………フン。姉上の知識などどうでもいいが、蘭はどこに行ったのだ!?
そう言えば清野もいないようだが――」
「あぁ、龍司なら人身売買に行ったよ?」
琥珀が、いたずらっぽく口角を上げる。
「はぁ!? 人身売買!?」
「あぁ、もちろん商品は”蘭“だよ――」
「なっ!」
「善は急げと言うだろ? 二人とも変装して出ていったよ」
ご覧いただきありがとうございます!
ノワールで明かされた「会員制社交倶楽部」の表と裏の顔!
潜入捜査のため客ではなく「給仕」として入り込もうと考えた蘭に対し、清野閣下と琥珀が手を組み、怪しげな変装でさっそく「人身売買」の取引へ向かうというまさかのスピード展開!
一方、蘭が危険な潜入捜査に駆り出されたと知ってノワールへ乗り込んだ白銀大将でしたが、看板の「準備中」を揃って無視する白銀姉弟のタチの悪いシンクロっぷりや、龍生副官の過去の違法疑惑(?)などコミカルなやり取りが炸裂!
そして琥珀お義姉様から告げられた「龍司は人身売買に行ったよ。商品は“蘭”さ」の言葉に、大将がブチギレ寸前となった今回の44話でしたが……!
【★次回予告★】
第45話『八十円の取引』!
「蘭が八十円で売れたぞ」と戻ってきた清野閣下に対し、「安すぎる!俺が八万で買い戻す!!」とズレたブチギレ方を見せる白銀大将!
清野閣下が掴んできた情報を元に、髪色を変装させた白銀大将&琥珀お義姉様は、大金を払って秘密の「地下違法賭博場」へ客として潜入を果たす!
「他の男に破廉恥な目で見られている蘭を一刻も早く救わねば」と周りを必死に見回す白銀大将。
そこで白銀大将を待ち受けていたのは――!?
怒涛の展開と、本格始動するハラハラドキドキの潜入捜査をお楽しみに!
「白銀姉弟のコントが面白すぎる!」「破廉恥なウサギを想像して焦る大将が愛おしい!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!




