第四十三話 帝都令嬢連続失踪事件
――翌日。
陸軍庁舎で大々的な招集があった。
優秀と名高い高官から、官僚候補生まで。
その呼び出しは多岐に渡った。
その呼び出しには、最近何かと噂になっている官僚候補生の龍ヶ崎少尉の名前もあった。
(昨日、龍也が言ってた“呼び出し”ってこれか――)
(結局昨日は何も教えてくれなかったけど――)
招集場所である、第一執務室へ向かっている道中、亜嵐は同僚から声をかけられる。
「……やっぱりお前も呼ばれたか――」
「…………大神少尉――」
大神と呼ばれた男は、褐色の肌に燃えるような赤髪、朱色の瞳を持っている、亜嵐と同じ子爵家出身の男である。
「お前の妹、帝都美人番付に名前が挙がったそうだな?
美人な妹がいて羨ましいぜ――!」
「……はぁ? そんな事が言いたかったのか?
暇人だな――」
「だってよぉ、白銀大将に妹を買ってもらって、兄であるお前も閣下のお気に入りになったんだろ!?
俺にも美人な妹がいたら、今頃閣下のお気に入りは俺だったかもしれないだろ!?」
「……お前、オレに喧嘩売ってんのか……?」
「まさか! 事実を言ったまでさ!」
「キサマ……!!」
「はーい! 喧嘩はそこまで!
龍ヶ崎少尉も大神少尉も早く部屋に入って!」
「りゅ、龍生副官……!」
「……チッ」
「あー、大神少尉!
今、大尉の僕に向かって舌打ちしたなー」
「いえ、龍ヶ崎少尉に舌打ちしました……」
「はぁ! お前っ!!」
「…………もうなんでもいいから早く行こ!
これから、重大な会議だよ」
「はっ!」
亜嵐と大神は互いに睨み合い、 招集場所の第一執務室に向かった。
✕✕✕
執務室には数十人の軍人たちが集められていた。
(うわぁ~、偉い人ばっかりじゃん)
前方には陸軍幹部が勢揃いしている。
――もちろん、その中に陸軍大将・白銀 龍也の姿もあった。
ふと、白銀と目が合う。
(……龍也――!)
亜嵐は不自然に視線を反らした。
「時間になりました――」
進行役が声を発する。
「……実は、今月に入ってから未婚・既婚者を問わず、帝都内で若い華族の女性たちが行方不明になる事件が多発しています」
――ざわっ……。
執務室がざわめく。
「……静粛に。
この事件は、軍の上層部にのみ知らされていたので無理はないが――
今月に入って五人のご令嬢が、消息を絶った」
「――なっ! 五人目も!?」
「その女性たちに、何か共通点はあるのですか!?」
「まさか……、桐生院伯爵家のご令嬢も!?」
集められた軍人からは様々な野次が飛ぶ。
「――静粛に!
それを調べる為に、キミたち優秀と名高い軍人らを招集したのだ――!」
再び静まり返った執務室で、白銀陸軍大将が声を発した。
「……これより、この事件を『帝都令嬢連続失踪事件』とし、これよりここを“捜査本部”とする――!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
軍人たちが雄叫びをあげる。
「……龍ヶ崎少尉、これから忙しくなるな――」
大神が亜嵐に耳打ちした。
✕✕✕
数日後、捜査本部に帝都令嬢連続失踪事件についての手がかりが舞い込んできた。
どうやら、失踪した令嬢たちは皆『帝都美人番付』に名前がある令嬢ばかり。
“帝都五大美人”の桐生院 綾乃も、その中に含まれていた。
「……桐生院 綾乃様が失踪したとなると、これは龍ヶ崎 蘭様が“帝都五大美人”入り、確定じゃないか?」
「おい! 縁起でもないこと言うなよ!
桐生院 綾乃様は、どこかに身を隠しているだけかもしれないだろ!?」
「お、おお……すまない――」
「おい、怪しい場所が見つかったと報告を受けたが――」
捜査本部に数人の幹部が入ってきた。
「はっ! ある筋からの情報提供です――」
「最近、帝都で華族や富豪の間で急速に流行っている“会員制倶楽部”をご存知ですか?」
「――“会員制倶楽部”?」
「ええ。表向きは合法な社交場ですが――その地下で、秘密裏に賭博が行われているという噂があります」
「……………………」
「――確証はありませんが、その倶楽部に、今回行方不明となっていた令嬢たちが出入りしていたとの情報も――」
「…………その、“会員制倶楽部”への入会条件等は分かっているのか……?」
「いえ、残念ながらその件については調査中です――」
「そうか……。これは、潜入捜査が必要かもしれんな……」
✕✕✕
情報提供があった翌日――。
捜査本部には、亜嵐の姿があった。
「……龍ヶ崎少尉、今話した件で、少尉に潜入捜査をお願いしたい――」
「…………オレに……ですか?」
「ああ。少尉は華族出身であり、今噂の大将閣下の婚約者の兄という立場にある。
潜入捜査方法は少尉自身に任せるが、こちらでもできる限りの支援をしようと考えている」
「…………………………」
「やってくれるかね? 龍ヶ崎少尉――」
「――はい。
オレでよければ――!」
✕✕✕
亜嵐は情報収集の為、カフェ・ノワールに来ていた。
「珍しいね、こんな時間に、亜嵐くん一人で来るなんて――」
刻藤は亜嵐にお冷を渡す。
「あははは。たまには一人もいいかなーと思って……」
「そう――」
刻藤は墨色の目を細める。
「龍一郎さん――」
「亜嵐くん」
二人は同時に名前を呼び合う。
「もしかして、今日はお仕事で来たのかな……?」
「…………………………」
「今の時間、お客は来ないよ。
だから、遠慮なく言ってごらん――」
亜嵐は店内を見回す。
そして、客が自分一人である事を確認してから、口を開いた。
「………………。
龍一郎さんは情報屋なんだよな……」
「……あんまり公言はしてないけど――そうだね」
「じゃあさ。
今、帝都で起きている令嬢連続失踪事件についても、何か知ってることあったりするのか?」
「まぁ、全貌は分からないけどある程度は……ね」
「…………じゃあさ! “会員制倶楽部”のことは――」
――カラン。カラン。
ノワールの呼び鈴が鳴る。
「おや? 亜嵐くんが来たらお店を閉めたんだけどな……。
すみませーん。今、準備中で――――」
刻藤が入り口に向かうと、そこには海軍大将・清野 龍司と、その妻・琥珀が立っていた。
「いらっしゃい、琥珀ちゃんと龍司――。
でも残念、今日はもう店じまいしちゃって……」
「龍一郎。今日は遅めの昼食を食べに来たわけではない――」
清野が浅葱色の瞳を細める。
「龍一郎。
今日は、情報屋としてのキミと話に来たのさ」
紺色のワンピースの裾を揺らし、琥珀がズカズカと入り込む。
「んー、そっちも先約があるっていうか――」
奥の席から亜嵐がヒョコっと顔を出した。
「おや? 蘭じゃないか!」
琥珀が瞳を細める。
「……清野閣下、琥珀お義姉様。先日ぶりです――」
蘭はペコリと会釈をした。
「………………もしかして、蘭も“会員制倶楽部”のことかい?」
「……なっ! それをどこで!」
「いやぁ、海軍官僚の――西園寺財閥の娘が行方不明になってね」
「琥珀――」
「いいじゃないか、龍司。
どうせ明日には公表される事実だ――」
「もしかしてっ! 六人目!?」
「……まさか、我が海軍の官僚からも行方不明者がでるとはね――」
清野と琥珀はお互いに顔を見合わせ、ため息をついた。
「龍一郎。海軍と陸軍が知りたい情報は同じと見える。
その情報……、ボクらに売ってくれないかい?」
ご覧いただきありがとうございます!
『帝都令嬢連続失踪事件』の捜査本部が立ち上がり、第一執務室で同期の大神少尉とバチバチにやり合いながらも、まさかの「潜入捜査」を任されることになった亜嵐(蘭ちゃん)!
情報収集のためにカフェ・ノワールへ向かったものの、マスター・刻藤龍一郎の“情報屋”としての真の顔に迫る間もなく、6人目の失踪者(海軍官僚の娘!)を追う海軍大将・清野閣下と琥珀お義姉様が怒涛の勢いで乱入!
陸軍・海軍・情報屋という破格のメンツが揃い、合同捜査の機運が高まる胸熱な展開、楽しんでいただけたら嬉しいです!
【★次回予告★】
第44話『商品は蘭』!
ノワールで明かされる「会員制倶楽部」の秘密と、地下に広がる違法賭博場の存在!
客ではなく「奉仕する側(給仕)」として潜入しようと考えた蘭に対し、琥珀お義姉様が提案したのは……まさかの破廉恥すぎる“ウサギの格好”!?
一方、蘭が危険な潜入捜査に駆り出されたと知った白銀大将は怒り心頭!
龍生副官を引き連れてノワールへと乗り込むが、琥珀お義姉様から「龍司は人身売買に行ったよ。商品は“蘭”さ」と告げられてブチギレ寸前に――!?
怒涛の白銀家すれ違いコントと、加速するバニースーツ潜入計画(!)をお楽しみに!
「陸海軍とノワールの揃い踏みがカッコよすぎる!」「いよいよ本格始動する潜入捜査にワクワクする!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!




