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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第四十一話 瑠璃と紫の夜

 そして、夜会当日――。


 蘭は、亜(・)嵐(・)として夜会会場となる白銀侯爵家・本邸の敷地内、その庭園の警備をしていた。


「お! 龍ヶ崎少尉も警備に駆り出されてたか!」


「そりゃあ、オレは白銀閣下の書(・)生(・)だからな。

 こーゆー時にちゃんと働かないと……」


「しかも今日は、お前の妹――白銀閣下の婚約者のお披露目なんだろう?

 兄としてもちゃんと役目を果たさないとな!」


「大きなお世話だ!」


「……それにしても、あ(・)の(・)白銀閣下が夢中になってるご令嬢だ――!

 さぞかし美(・)人(・)なんだろ?」


「………………どうだかな。

 美人とかはよく分からん」


 亜嵐は小さくため息をついた。


「おっ! みんなお疲れ様!

 今日は白銀家の会場警備、よろしくね!」


「龍生副官!」


 亜嵐を始め、その場にいた警備にあたる軍人たちが敬礼をする。


「今日はなんと言っても白銀大将の婚(・)約(・)者(・)殿(・)のお披露目だからね!

 会場警備もいつもより厳重にお願いね!」


 龍生副官の天使のような笑みとは裏腹に、軍人たちは身を引き締める。


「そうだ、龍ヶ崎少尉!

 白銀大将が呼んでたから、龍也のところに行ってきて!」


「はっ! 承知しました!」


 亜嵐は再び龍生に敬礼をすると、白銀家本邸へと駆けて行った。  



✕✕✕



 本邸に着くと、銀灰色(シルバーグレー)の上品なドレスを纏った瑠璃と、翠色(エメラルドグリーン)の華やかなドレスを身につけた琥珀が待っていた。


「亜嵐少尉、待っていたわ」

「亜嵐、こっちだよ」


 亜嵐は二人に会釈して、一緒に蘭(・)の部屋へ向かう。


 そこには、既に数名の針子が控えていた。


「わ! なんでこんなにいるんだ!?」


「そりゃそうだよ、今日はこれからが本番だからね――」


「夜会の身支度にはこれくらいの人数は必要よ?

 さあ! 始めちゃいましょうか!」


 瑠璃がパン! と手を叩く。


 すると、針子たちは一斉に準備を始めた。


「若奥様。失礼いたします――」


 針子が軍服を脱がせていく。


「あっ! じ、自分で脱ぎます!!」


「蘭、自分で脱ぐよりお針子たちに任せたほうが早い」


「蘭さん、お針子たちに身を任せるのも華族のマナーよ」


「うっ! わ、分かりました!

 よろしくお願いしますぅぅぅ!!」


 蘭は顔を赤らめ、針子に身を任せた。


 軍服とサラシを脱がされた蘭は、肩が出ないよう、襟ぐりの深い肌着を身につけ、その上から肩紐のない夜会用コルセットをキュッと締め上げられる。


「うぐっ…………!」


「もう少し絞ります――!」

「若奥様行きますよ!」


「も、もう無理ぃぃぃぃぃぃぃ!!」 


 コルセットを装着し、いよいよ光によって瑠璃色にも紫にも見える玉虫色のドレスに着替える。


 ドレスの冷たくて、滑らかな感触が蘭を包み込む。


 琥珀に化粧を施され、髪型を夜会用に整え、装飾品を身に着けていく。


「うん! これはボクの傑作品だね!」


「蘭さん。とても綺麗よ」


 琥珀と瑠璃は仕上がった蘭を見てウットリしていた。


 鏡を見せられ、蘭は絶句した。


(……………………これが、オレ――!?)


「蘭、これならこの夜会の参加者全員がキミを見て振り返らざるを得ないね――」


「…………美しすぎて、龍也が変な気を起こさないといいのだけど――」


「あはははは! 確かにね!

 あの独占欲の塊の龍也なら、夜会に出さないとか言いかねないね!」


 琥珀と瑠璃の絶賛の言葉に、蘭はおずおずと二人を見上げる。  


「……………………あ、あの。お義母様、お義姉様。

 お願いがあるのですが……」



✕✕✕


 ――トントン。


 しばらくして、ドアを叩く音が響く。


「――蘭、俺だ。

 入ってもいいか?」


「……龍也――様……」


 蘭は瑠璃と琥珀の顔を見る。

 二人は優しく頷いた。


「…………どうぞ」


 蘭は震える声を押し殺し、精一杯返事をする。


 ドアが開くと、そこにはいつもの黒い軍服ではなく、白い軍服姿の白銀がいた。

 白地に金の刺繍を施した、夜会用の特別な軍服だ。


「………………!!

 龍也様――、その軍服……!」


「ああ、これか。

 今日はお前のお披露目を兼ねた夜会だからな。

 俺も夜会用の軍服を新調してみた――」


 白銀は一歩ずつ蘭に近づく。


「…………蘭、その簪……付けてくれたんだな――」


「あ、あぁ! 琥珀お義姉様に付けてもらったんだ!

 せっかく龍也にもらったからな――」


 蘭が動く度に、ドレスの色合いが変わる。

 それと同時に、白銀が贈った簪の水晶もキラキラと輝く。


「…………………………」

「…………………………」


 二人は無言のまま向かい合う。


「お、ほん!」


 二人の沈黙に耐えきれず琥珀が咳払いをした。


「龍也。蘭に見惚れているのは分かるけどさ!

 何か言う事あるんじゃないかい?」


「………………!」


 白銀が深呼吸をして蘭に向き直る。


「蘭………………。

 お前のこの姿を他の誰にも見せたくないな。

 このままお前を俺だけのモノにしたい――。

 夜会なぞに出る必要はなくなった――」


「…………は? 何いってんだお前?」


「それは許されないわよ、龍也」


 蘭のツッコミと瑠璃の真顔に琥珀は爆笑した。


「龍也ならそう言うと思ってたよ――!!」


 その時、ホールから華やかな音楽が聞こえ始めた。

 この音楽は夜会が始まる合図。


 白銀は蘭の前で跪いた。


「蘭。今夜は俺もお前の婚(・)約(・)者(・)として夜会に出席する。

 ――一緒に行ってくれるか?」


  蘭は白銀の言葉に、一瞬菫色の瞳を丸くする。


 そして、琥珀から学んだ至高の笑みを浮かべた。


「わたしでよければ、喜んで――」



✕✕✕  


 瑠璃、琥珀、白銀、蘭の四人は来客に見られることのない秘密の通路を使い、大広間(ホール)へと向かう。


 その途中で海軍大将・清野も合流し、琥珀は清野と腕を組んで歩いていた。


(やっぱり琥珀お義姉様と清野閣下って仲(・)良(・)し(・)なんだよな……)


(オレも、龍也とあんな風になれるのかな――?)


(………………ん? オレ、今何を考えた!?)


(しっかりしろ! オレ!!)


 蘭が一人で百面相をしていると、前を歩いていた白銀がふと、足を止める。


「蘭……。慣れない格好で歩きづらいだろう?

 手を――」


「え――?」


 そっと差し出された白銀の左手。


「……………………」


 蘭はゆっくりと、右手を伸ばす。

 指先が少し触れ合うと、蘭の指がピクッと動いた。


 白銀は優しく微笑み、強引に蘭の手を掴む。


「この前の銀座では、姉上に邪魔されたが――。

 ようやく手を繋いで歩けるな――」


「…………!! あ、ああ、そうかもな――」


(何なんだ! 今日の龍也は!!)


(いつもより……、なんかグイグイくる??)


 蘭は顔を真っ赤にし、俯きながら白銀の隣を歩いた。



✕✕✕


 大広間(ホール)に到着すると、そこは招待客の熱気に溢れかえっていた。


「ボクと龍司は先にホールに入っているね」


 琥珀は翠色(エメラルドグリーン)のドレスを翻し、紺色の軍服でやってきた清野とホール(会場)に入場していった。


「龍也、蘭さん。

 わたくしも中でお待ちしてますわ」


 瑠璃もホール内で家令の征十郎と打合せをしている龍之介の元へと向かっていった。

  

 すると、龍生が二人の元へやってきた。


「わぁ〜! 蘭ちゃん。とっても綺麗だね」


「龍生副官……! ありがとうござ――」


「稜。蘭が、綺麗で可愛くて最高なのは当たり前だ。

 当たり前の事を言うな。それに、蘭を見るな!」


「…………はいはい。分かりましたよー」 


(うわぁ~、何いってんだこの大将……)


(蘭ちゃんが可愛くて、頭のネジが数本どっか行っちゃったの……!?)


 蘭は龍生を見て、申し訳なさそうな顔をしていた。


「まぁいいや、これからの段取りを確認するよ?」


 龍生はなるべく蘭を直視しないように、二人に話し始める。


「まずは、龍之介様によるご挨拶があるから、そこで蘭ちゃんの紹介があるよ!

 だから、龍也と蘭ちゃんでこの扉からホールの中に入ってもらって、龍也がご挨拶!

 そんでもって、二人でワルツ踊ってよ。その後は、テキトーにおしゃべりして終了ね! それで大丈夫??」


「ああ、分かっている」 


「えっ! えっ!

 オレはどうすればいいんだ!?」


 慌てる蘭に、白銀が頭を撫でる。


「蘭は俺の隣で笑っていればいい――。

 後は俺がやる」


「……わ、分かった!」


 ホール内から、龍之介の挨拶が聞こえてくる。


「……いよいよだね、頑張ってね! 二人とも!」


 龍生は二人にウィンクをして、持ち場に戻っていった。

 


「――――――それではご紹介いたします!

 我が白銀侯爵家当主の龍也と、その婚(・)約(・)者(・)である龍ヶ崎 蘭殿ですーー!!」


 ――バッ!


 目の前の扉が開かれる。


「……行くぞ、蘭」


「……あぁ!」


 白銀は蘭の腰に手を回し、蘭は白銀の腕に手を絡め歩き出す。



 会場中の視線が二人に注がれる。


 蘭は琥珀直伝の笑顔を浮かべた。


『媚びない・へつらわない・相手に対して敬意を持つ・自分に自信を持つ笑顔』


 それが琥珀の教えである。


 白銀と蘭が一歩ずつ、龍之介の元に近づく。


 二人が歩く度に会場からは感嘆が漏れた。


「なんだ……!? あの美しい令嬢は!?」

「あの方が白銀大将を虜(・)にしているという“十五万円”の婚約者!!」

「こんなに美しい令嬢がいただなんて――」


 あまりにも視線を感じ、蘭が小さく息を吐く。


(めちゃくちゃ見られている……!!)


(どこか変なところあるのか?

 もしかしてこのドレス、オレにはまだ早かったか!?)


「蘭。大丈夫だ――」


 耳元に白銀の優しい声。


「皆、お前の美しさに心を奪われているだけだ――。

 いつも通り、堂々としていろ――」


「……龍也……」


 蘭はお礼の代わりに、白銀の腕を強く握った。


 龍之介の元に到着すると、蘭は菫色の瞳で会場を見渡した。


 端のほうで手を振っている琥珀を見つけ、蘭は目を細めた。


 白銀の挨拶が終わり、いよいよ二人でのファーストダンス。


 白銀に導かれ、蘭はホールの中央へと立った。


 すると、二人に合わせて専属の楽団がワルツを奏で始める。


 ゆっくりと音楽が流れ、白銀の手が、蘭の腰を優しく引き寄せる。


「……大丈夫だ、蘭。

 俺を信じろ――」


 耳元で白銀が囁く。

 蘭は深く息を吸った。


「あぁ……、信じる!」


 瑠璃色と菫色が重なり――  

 二人はワルツのステップを繰り出した。


 数ステップを踏み、蘭は確信した。


(…………できる!)


(龍也の足、踏まないぞ――!!) 


 そんな蘭の心配をよそに、会場内の人々は二人の優雅で美しいワルツに見入っていた。




✕✕✕


「はぁ〜、緊張したぁ……」


 ファーストダンスが終わり、一通り挨拶を済ませた白銀と蘭はホールの外に出ていた。


 人気のない場所で、白銀は飲み物を持ってくると蘭を待たせていた。

 

「…………蘭ちゃん」


 ふと、聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、蘭は振り返る。


 すると、そこにいたのは――


「……す、皇(スメラギ)公爵閣下――!」


 皇は群青色の髪を揺らし、紺色の瞳で蘭を見つめていた。


「……久しぶりだね、蘭ちゃん――」


「……ええ。そうですね……」


 皇が一歩、蘭に近づく。


「亜(・)嵐(・)少尉は、警備中ってことになってるのかな?」


「………………そうですね。

 閣下も、この夜会にいらしてたんですね――」


 蘭の質問に、皇は紺色の瞳を細める。


「そりゃあそうだよ。

 大事な蘭ちゃんが、白銀大将に食(・)べ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)か(・)心配だったからね――」


「……なっ……!」


 からかったよう声に蘭の顔が真っ赤になる。


「やっぱり白銀大将は、わ、わたしを食べるんですか!?」


「あはははは。蘭ちゃんはやっぱり素直でかわいいね――」


「…………っ! からかわないで下さい!」


「どうして? 俺と蘭ちゃんの仲じゃないか……」


「そ、それは昔の話です!

 あの時は、貴方が公爵様だと知らなかったから――!」


「俺が公爵だと知らないままだったら、俺たちはま(・)た(・)、ただの幼馴染に戻れるのかな?」


「何を言っているんですか! わたしは借金まみれの貧乏子爵です!

 公爵閣下と幼馴染になんてなれるワケがない!」


「………………だから、白銀侯爵家との縁談を受けたのか?」


「はい? この縁談は義両親が勝手に進めた縁談です。わたしは何も知りませんよ!」


「でも、キミはこの縁談を受けた――。

 社交界では“十五万円”で買われたと噂が絶えないよ――」


「そんなこと、貴方には関係ない!」         


 蘭の菫色の瞳が、皇を睨みつける。


「………………ごめんね。

 本当はこんな事言うつもりじゃなかったんだよ――」


 皇は懐から綺麗な箱を取り出した。


「……これを――」


「…………は?」


「……蘭ちゃんの為に、南蛮から取り寄せた“香水”と“口紅”だよ――」


 皇は箱を開け、中身を蘭に見せる。


「蘭ちゃんには、こういう物が似合うよ」


 皇の紺色の瞳が、蘭を捕らえる。


「…………え? なんで?」


「なんでって、俺からの婚約祝いだよ。

 ――受け取ってくれるね?」


「…………………………」


(なっ、婚約祝いってなんだよ!

 それに、こんな高価な物なんて貰えない!!)


「…………す、皇閣下。

 お気持ちは嬉しいのですが――」


「――蘭はそんな化粧品(モノ)よりも、食べ物の方が喜ぶ――」


 蘭が返答に困っていると、ホール側から低い声が聞こえてきた。


「……龍也様――!」


「待たせてすまなかったな、蘭――」


 白銀の瑠璃の瞳が、蘭と皇を交互に捕らえる。


「して、皇殿は何用で、俺の婚約者に近づいた?」


「俺の婚約者だなんて……。

 白銀大将は噂通り独占欲が強いんだね――」


 皇は飄々とした態度で白銀と対峙する。


「俺はただ、幼(・)馴(・)染(・)の蘭ちゃんに婚約祝いを贈ろうと思っていただけだよ?」


「……そうか。だが、蘭には必要のないものだ――。

 お引き取り願おうか――」


 白銀は皇を睨みつける。


「りゅ、龍也様……!」


「…………そうだね、今回は諦めるよ――」


 皇は蘭に近づき、耳元で囁いた。


「……もし今後、君が悲しむような事があったら、いつでも皇公爵家(うち)においで――」


「…………皇閣下……!」


「…………またね。

 いつでも待ってるよ――」


 そう言い残し、皇は二人の前から姿を消した。


「…………蘭、何か変なことはされなかったか?」


「あ、うん。何もなかったよ――」


 ホールからはワルツの音楽が聞こえる。

 二人の間を、夜風が吹いていた。       




ご覧いただきありがとうございます!


瑠璃色と紫に輝く運命のドレスを身に纏い、白い軍服姿の白銀大将の手を取ってついに足を踏み入れた大夜会ホール!


「俺だけのモノにしたい」「俺の隣で笑っていればいい」と独占欲全開の大将にエスコートされ、息の合った優雅なファーストダンスで会場中を魅了した二人でしたが……!


ダンス後、胸を撫で下ろす蘭ちゃんの前に現れたのは、群青色の髪を持つ幼馴染・皇(スメラギ)公爵!


蘭ちゃんが男装している(亜嵐)ことも全てお見通しの上で、「警備中ってことになってるのかな?」「食べられていないか心配だった」と囁き、「十五万円の噂」や「南蛮の香水&口紅」で甘く揺さぶる皇公爵!そしてそれを一瞬で見抜いて割って入る白銀大将のバチバチな牽制対決、楽しんでいただけたら嬉しいです!


【★次回予告★】


第42話『帝都の噂』!


夜会が無事に終了し、張り詰めていた緊張とコルセットから解放された蘭ちゃんを襲ったのは――耐えがたい大空腹!?


照れる蘭に白銀大将が魅せた「極上の笑顔」と、白銀家特製ケーキ&プリンに向かって猛進するご飯4杯越えの爆発的な食欲!


さらに翌日、陸軍庁舎では「白銀大将の可憐すぎる婚約者」の噂で持ちきりに!


同僚から知らされた「帝都五大美人」の噂話に呆れ返る亜嵐だったが、同じ頃、白銀大将の元には「若い令嬢の連続失踪事件」という不穏な報告が届いていて――!?


甘い日常と、不穏に動き出す帝都の影!次回の展開もお楽しみに!


「大将の『俺だけのモノにしたい』に悶絶した!」「皇公爵とのバチバチ感がたまらない!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

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